『残穢【ざんえ】 ‐住んではいけない部屋‐』恐怖の連鎖は断ち切れるか?(映画ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

『残穢【ざんえ】 ‐住んではいけない部屋‐』恐怖の連鎖は断ち切れるか?(映画ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

今日の映画感想は残穢【ざんえ】 ‐住んではいけない部屋‐です。

個人的お気に入り度:6/10

一言感想:根の深い怪談ミステリー

あらすじ

ミステリー小説家である「私」(竹内結子)に、女子大生の久保さん(橋本愛)から「となりの部屋から何かが擦れる音が聞こえる」という内容の手紙が届く。
ふたりはその音の真相を探っていき、深く、恐ろしい怪談を知っていくことになる。

小野不由美よる同名小説の映画化作品です。

残穢 (新潮文庫)
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小野 不由美
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原作は、怪談の真相をルポルタージュ方式で追っていくという内容。映画化された本作においても、主人公がさまざまな人物にインタビューし、恐怖の対象を知ろうとする形式は原作のままです。

この点で、ホラーファンであれば白石晃士監督の『コワすぎ!』シリーズや、『ノロイ』を思い出すのではないでしょうか。

しかし、本作はモキュメンタリー(ノンフィクションに見えるドキュメンタリー)ではなく、非ドキュメンタリー映画としての体裁を保っています。
インタビューシーン以外にも映像のバリエーションは豊富で、物語はテンポよく真相に向かって突っ走ることもあり、ドキュメンタリーが苦手な方にとっても受け入られやすいでしょう。

本作はどちらかといえば、ホラーというよりもミステリー要素が強い作品になっています。
主人公がある怪談について「謎」を提示され、さまざまな証言をもとにその真実を暴き出す、という過程はまるで「探偵もの」です。

しかし、本作で描かれるのは怪談であり、そもそも存在も不確かである超常現象なのです。
科学的に証明できないものの代表であるような怪談を、論理的な推理で追っていくというのが、本作の最大の見所でしょう。

主演のふたりもよかったですね。橋本愛はよくも悪くも性格キツめの少女を演じることが多かったのですが、今回はふつうの女子大生として自然な演技をされています。
注目は竹内結子で、いい感じに女っ気が抜けた中年っぷりがかえってエロいという素晴らしさでした。竹内さんはまだ35歳なのに、プラス10歳くらいに見えるよ!

気になったこと

難点は、恐怖の一因となる「閉塞感」がないことでしょうか。
こうしたホラー作品は、ある場所に閉じ込められるなどして限定的に描かれることも多いのですが、本作ではあらゆるところにつぎつぎとインタビューを行っていくのです。
場所がコロコロと変わってしまうと、それだけで恐怖感を削がれがちになっています(これは作品の特性なので、言うのも野暮)。

主人公のナレーションがたっぷりあることも好き嫌いがありそうです(これも原作の文体を再現したためなので、言うのも野暮)。

残念でしかたがなかったのは、終盤に満場一致レベルで「蛇足」と感じるシーンがあること。
これはあまりにも、観客に「想像の余地」を残してくれていないんですよね。

昨今は、ライトな観客が「わかりやすい」内容を求めていることもあり、プロデューサーが映画監督にハッキリした場面を作るように申し出ることが多いそうです。
本作でそのようなやり取りがあったかは定かではありませんが、こうした「わかりやすさ」はホラーにおいて致命的なのではないでしょうか。

怪談や幽霊の怖さの本質は「正体がわからない」「なぜそうするのかわからない」という「未知」にあると思います。
本作では序盤からずっと続く「未知」としての恐怖こそがおもしろかったのに、こんな余計な描写があってしまっては台無しです。

また、インタビューをされる人たちが妙に「演技がかった」受け答えをするのにもちょっと違和感があったり。
中村義洋監督は一般人を極端なキャラとして演出するきらいがあり、ここでは少し悪いクセが出てしまったという印象です。

登場人物にはモデルがいます

ちょっと知っておくといいのは、作中の登場人物のモデルが、実在の小説家であることです。

私(竹内結子) → 原作者の小野不由美
私の夫(滝藤賢一) → 綾辻行人/十角館の殺人など
知り合いの小説家・平岡芳明(佐々木蔵之介) → 平山夢明/ダイナーなど
怪談マニア・三澤徹夫(坂口健太郎) → 福澤徹三/灰色の犬など

しかも平山夢明と福澤徹三は、原作ではモデルどころかそのまんまの名前で登場していたりするのです。

自分はあまり小説を読まないほうなのですが、佐々木蔵之介がいい感じに平山夢明の変態的な作家性を滲み出せていていることはわかります(笑)。
それぞれの小説家(の作品)を知っておくと、よりキャラの性格を楽しめそうですね。

なお、本作(の原作)とリンクしている作品に『鬼談百景』があります。

鬼談百景 (角川文庫)
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本作は、さまざまな事象の「つながり」を模索する物語。こうして現実にもつながりがある作品があるというのもおもしろいです。

ホラーとしての怖さはマイルドなほうなので、ホラー初心者にもおすすめします
大きな音で驚かせるような「コケオドシ」はほぼ皆無、いい感じのジャパニーズホラーらしい「じわじわと来る」恐怖を与えてくれるでしょう。
残虐描写もほとんどありませんが、自殺の描写があるので、小さい子の鑑賞は少し注意したほうがいいかもしれませんね。

怪談や「ゾッとする話」が好きな方には大プッシュでオススメ。
エンドロールの最後まで観ましょう

以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓

どこまでさかのぼっても、キリがない

本作の物語は起こった怪談について、時系列をさかのぼって解き明かしていくというものです。

2012年 和田さん
部屋から何かを履くような音が聞こえる……

1992年 小井戸家
ゴミ屋敷に住む男が孤独死した。

1958年 高野家
夫人が末娘の結婚式の直後、着物の帯で首を吊って自殺した。

1905年 吉兼家
三男は精神障害があり、暴力を振るうため、座敷牢に閉じ込められていた

1892年 奥山家
主人は家族と使用人を刀で皆殺しにし、自身も自殺した。

それぞれ関係ない怪談話のようですが……じつは、それらは「つながって」います。

小井戸家の男がゴミ屋敷にしていたのは「隙間が嫌いだから」

小井戸家の男は何かを恐怖したために隙間を埋めていた。それは久保さんが聞いていた「履く音」と同じではないか。

何かを履く音=高野家の夫人が自殺した際の、着物が擦れる音だった。

高野家の夫人は「赤ん坊の泣き声」が聞こえることにヒステリーになっていた。

夫人は「赤ん坊が湧いて出る」という言い方をしていた。この表現だと、赤ん坊はひとりではないかもしれない。

嬰児(赤ん坊)殺しの女がいた。しかし彼女の家の下からは一体の赤ん坊の骨しか見つからなかった。

吉兼家の三男は、座敷牢から抜け出してたびたび軒下にいた(それが赤ん坊が湧いて出るという表現になった)

………

と、つぎつぎと怪談がどこから「伝染」されてきたかが明らかになっていくのです。

しかもその伝染の経路は1本だけじゃなく、まるで病気のように波状的に広がっていっています。
久保さんの前の住人の梶川も赤ん坊の泣き声を聞いていましたし、軒下の猫を呼んでいたおばあちゃんは吉兼家の三男を見ていたかもしれないし、冒頭で語られた「河童のミイラ」の話までもが一連の怪談に関わっていました。

この点で、ビデオテープの呪いが伝染していく恐怖が語られた『リング』を思い浮かべる方は多いでしょう。

リング
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【穢れ】とは、不浄、汚れ。死・出産・疫病・失火・悪行などによって生じ、災いや罪をもたらすとされるもの。
タイトルの『残穢』は、その穢れが「残り続ける」ことを示すもの。なくならないことが、恐ろしいのです。

野暮な不満点

いやー「私」に電話がかかってきたときで終わりでよかったですよね。
ここで終わっておけば、「さらに穢れが広がっていくのではないか」と想像できる楽しみがあったのに。

その後は、いままで名前すら出ていない男性編集者のところに、(いままではあまりはっきりしていなかったのに)思い切り恐怖の対象が現れちゃう。
このときの「黒い影」は名探偵コナンの真っ黒な犯人がヨチヨチ歩きをしているようにしか見えなくて失笑しちゃったよ。

さらに、パソコンの文章が文字化けしていって、「穢れは伝染していく、なくならない(だっけ?)」とにほんごでていねいに教えてくれるのはもはやギャグにしか思えなかったよ!(この文字は誰が打っているんだよ!)
こうまでして「説明」しないと、観客は「恐怖がなくならない」ということを理解できないと思っているんでしょうか?もしそうだとしたら悲しいなあ。

さらにオチの多重っぷりは続きます。
梶川の死後に入居した男性が、夫人の自殺をこれまたはっきりと見ちゃうんですよね。
「私」と久保さんは、「はっきりしない」からでこそ怪談の真相を追っていったのに、なんでこっちははっきり見ちゃうんだよと。ちょっとスジが通っていません。
※以下の意見をいただきました。
これは原作でも同じで、あの男性が首吊りした女性を見てしまうんですよ。
映画版オリジナルは最後の編集部のシーンとエンドロールの住職のシーンくらいですかね。

はっきり見えるよりも、「想像の余地」を残すほうがよっぽど怖い
ホラーに大切なことを、今一度教えてくれました。

そのほかでは、「震源地」である奥山家のところになんで夜に行くねんというツッコミどころは解消してほしかったかな。たとえば怪談マニアの三澤くんに「せっかくだから夜に行きましょうよ!」と言わせるとかね。
※以下の意見をいただきました。
発売したての頃に読んだので違っていたら申し訳ないのですが、住宅地の中なので昼間だと目立つ的な話だったような。
穢れの伝染は、原作で延喜式を用いたように、歴史的裏付けで伝えてくれた方がよかったですよね。一気に陳腐になっちゃった。
小野先生はこの件で首を痛めたり怪異に遭遇していたので十二国記の続きが書けなかった。そう仰っているわけです。

また、「私」がいきなり首のギプス(ポリネック)をつけて登場したのに笑っちゃったんですけど。そんな伏線なかったやん!

頚椎固定カラー OH-001 L /8-1832-03※唐突に「私」がこれをつけて登場。

登場した後に「原因不明の首のヘルニアが〜」と説明していましたけど、ちゃんと事前に「首が痛くなっていく、まさか、この一連の穢れのせい?」と思わせてもよかったと思う。
このギプスに「穢れとはぜんぜん関係なかった」というオチがつくこと、小説家・平岡が、「私」に「痩せた?」と聞いていて「くすぐり」を入れていたのはよかったんですけどね。

逃れられるか、残るか

そんながっかりな点はあったけど、クライマックスでは心底ゾッとしたシーンがあります。
「私」がナレーションで「変なものを見なくなった」「それ以降は何もなかった」と語っているのに、映像では画面奥に赤ん坊の姿がちらっと映り、子どもたちが明らかに天井(自殺した夫人)を見ているのです!

このナレーションは「私」が手紙で聞いた内容をそのまま言っているだけ。「私」からすれば穢れがもう消え去ったかどうかは「わからない」んですよね。
「ことば」ではわからないけど、当事者の「視覚」ではわかる。映画という映像表現でしかできない、見事な演出だったと思います。

また、「新しい部屋でも擦れる音がしましたが、いざとなったら引っ越します」と言っていた久保さんは……?
「私」は「久保さんは無事に就職し、社会人1年生として元気にやっている」とは語っていましたが、その後に連絡をとっていないのであれば、どうなるかはわかりません。

大切なのは……梶川の死を予見していた管理人さんが言っていた「一度相談してくれたらよかったのに」ということなのかも。
実際、久保さんは「私」に相談することで、救われたのでしょう。

しかし……穢れは「聞くだけで伝わるもの」ということも映画では示されています。
もし管理人さんが梶川の話をちゃんと聞いていたら、今度は管理人さんまで穢れがうつっていたかもしれないのです。
(久保さんに相談された「私」も穢れから逃れらなくなってしまったし……)

エンドロール

住職は、「笑う絵」について「見たことがないのでわかりません」と言っていましたが……エンドロールで住職はしまっていたその絵を掲げます。

なぜ住職がウソをついたのかと言えば、その絵を見ればまた穢れがうつると知っていたからなんでしょうね(彼は穢れの連鎖をここで断ち切ろうとしていたのかも)。

穢れからは、どこに行っても逃れられない。
これ以上広げないためには、自分が穢れを背負いこんだまま、誰にも伝えずに死ぬしかない。
これが、本作のもっとも恐ろしいところです。

おすすめレビュー↓
残穢【ざんえ】 ‐住んではいけない部屋‐ 極力ネタバレなし感想 逃れえぬ恐怖 – きままに生きる 〜映画と旅行と、時々イヤホン〜
自分も終盤のインタビューシーンには違和感があったなあ(グリーンバック合成は気づかなかったけど)。

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(C) 2016「残穢-住んではいけない部屋-」製作委員会

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  1. よし より:

    >>梶川の死後に入居した男性が、夫人の自殺をこれまたはっきりと見ちゃうんですよね。
    「私」と久保さんは、「はっきりしない」からでこそ怪談の真相を追っていったのに、なんでこっちははっきり見ちゃうんだよと。ちょっとスジが通っていません。
    これは原作でも同じで、あの男性が首吊りした女性を見てしまうんですよ。
    映画版オリジナルは最後の編集部のシーンとエンドロールの住職のシーンくらいですかね。

  2. ヒナタカ より:

    > >>梶川の死後に入居した男性が、夫人の自殺をこれまたはっきりと見ちゃうんですよね。
    > 「私」と久保さんは、「はっきりしない」からでこそ怪談の真相を追っていったのに、なんでこっちははっきり見ちゃうんだよと。ちょっとスジが通っていません。
    >
    > これは原作でも同じで、あの男性が首吊りした女性を見てしまうんですよ。
    > 映画版オリジナルは最後の編集部のシーンとエンドロールの住職のシーンくらいですかね。
    そうでしたか・・・ちょっと一部修正しますね。

  3. 暴天 より:

    夜行く理由は原作には書かれていたはず。
    発売したての頃に読んだので違っていたら申し訳ないのですが、住宅地の中なので昼間だと目立つ的な話だったような。
    穢れの伝染は、原作で延喜式を用いたように、歴史的裏付けで伝えてくれた方がよかったですよね。一気に陳腐になっちゃった。
    小野先生はこの件で首を痛めたり怪異に遭遇していたので十二国記の続きが書けなかった。そう仰っているわけです。

  4. ヒナタカ より:

    > 夜行く理由は原作には書かれていたはず。
    > 発売したての頃に読んだので違っていたら申し訳ないのですが、住宅地の中なので昼間だと目立つ的な話だったような。
    > 穢れの伝染は、原作で延喜式を用いたように、歴史的裏付けで伝えてくれた方がよかったですよね。一気に陳腐になっちゃった。
    >
    > 小野先生はこの件で首を痛めたり怪異に遭遇していたので十二国記の続きが書けなかった。そう仰っているわけです。
    やはり原作で補完したほうがいいですね。ご指摘感謝です。追記します。

  5. よし より:

    僕は映画が気になったので原作を半分ほど読み進めて映画を観て、見終わった後に最後まで原作を読んだんですが、映画では描かれていない原作にしか無い描写など、原作の方がジワジワと怖いです。
    原作自体が呪われてて持ってるだけで祟られそうな気になってしまうので、映画が少しでも気に入ったのなら1度読んでみるのをお勧めします。
    300ページくらいですしね。
    久しぶりに邦画で、観てる時よりも見終わった後に怖くなるような本格的な怪談を観た気がします。

  6. 毒親育ち より:

    悪霊って無敵モードの通り魔、祟りって無敵モードのストーカーですよね・・・。
    >一言感想:根の深い怪談ミステリー
    この世の犯罪者相手なら、逮捕して解決!なんですけどねえ・・・。どうも自分は小説版「呪怨」の「※伽耶子の日記」を読んでから、恐怖よりも怒り・・・というかムカつき!が勝ってしまう脳ミソが出来上がってしまったようです。
    ※自分は正義感がヤバイ意味で強いという自覚の有る方、特に周りの人から「デスノートを拾っては行けない人」とか言われた事のある人でホラー好きの人は、生涯読むのを避けてください。
    >科学的に証明できないものの代表であるような怪談を、論理的な推理で追っていくというのが、本作の最大の見所でしょう。
    この繋がって行く!感は快感でした!一見悪趣味な平岡さんの趣味嗜好が理解出来てしまいます。
    >自殺の描写があるので、小さい子の鑑賞は少し注意したほうがいいかもしれませんね。
    数々の怪異よりも、ミトちゃんの「ブランコ」が本作最恐でした!天使のように愛らしい幼女があぁぁ・・・!助けてパディントンッ!!早く来てTED!

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著者

ヒナタカ

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