アニメ映画版『夜は短し歩けよ乙女』恋に落ちた理由(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

アニメ映画版『夜は短し歩けよ乙女』恋に落ちた理由(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

今日の映画感想は夜は短し歩けよ乙女です。

個人的お気に入り度:8/10

一言感想:「人の縁」は素晴らしい!

あらすじ

「私」と「黒髪の乙女」が、たった一夜の物語を駆け抜けます。

森見登美彦の小説を原作としたアニメ映画です。

本作の魅力については、以下にも書きました。
『夜は短し歩けよ乙女』は星野源が「パンツを恵んでください!」と叫ぶ快作!必見すぎる3つの魅力! | シネマズ by 松竹

    要するに、

  1. 湯浅政明監督のドラッギーな映像表現が最高!
  2. 全4章構成の原作から「一夜限りの物語」に変えたことが英断だ!
  3. 声優陣が最高!
  4. ということです。

原作小説は現実離れしまくっているファンタジーな内容であり、それが「実写では絶対にできない」表現をぶち込みまくる湯浅監督の作風と相性が良すぎなんですよね。
ぜひ、本作と合わせて湯浅監督の長編初監督作品『マインド・ゲーム』を観てみてください。全編に渡り「こんなの観たことねえ!」の連続ですから。

本作『夜は短し歩けよ乙女』は上映時間が93分とコンパクトで、気軽に観られるというのも大きな長所。
何よりアニメーションは「絵が動く」という「そもそも」の面白さがあるので、退屈なんて一切することはありません。
風変わりなのに、万人が楽しめるということもすんばらしいですね。

原作の4章構成より、映画の「統合した」構成のほうが圧倒的に大好き。「人の縁の素晴らしさ」というメッセージに、より説得力を持たせていることにも成功しています。
「どこかで人は何かの影響を与えている」ことを描く群像劇であることは、『マグノリア』やゲームの『街』とも似ていますね。

何より、声優の花澤香菜と神谷浩史のファンは女房を10人くらい質に入れてでも観て欲しいです。
星野源とロバート秋山というタレント声優の上手さも、未来永劫に賞賛されるべきレベル!
『この世界の片隅に』ののん、『天体戦士サンレッド』の髭男爵の山田ルイ53世、そしてロバート秋山が、自分が思う3大最高のタレント声優です。キャラへのハマり具合が尋常じゃないよ!

好き嫌いが分かれる要素も?

万人が楽しめるとは書きましたが、それでもやはり好き嫌いが分かれる要素もあります。
原作者の森見登美彦さんの「恋愛至上主義的」なロマンティックさや、「オモチロイ」や「なむなむ」や「ロマンチックエンジン」といった独特の言葉にノレない人も一定数いるでしょう。
「ご都合主義で何が悪い!」というもの言いをしていることも、人によっては拒否反応を覚えるかもしれません。

また、恋愛の「先」が描かれていなかったり、笑えるギャグがないのも欠点ですね。
この辺りは民朗さんの音声評が非常にわかりやすいので、ぜひ聴いてみてください。

そうした欠点も、動きまくるアニメーション、声優陣の熱演、ミュージカル映画のような魅力だけで、十分すぎるほどのおつりがくるのですけどね。

また、本作の不満意見には「主人公2人が恋に落ちる理由が浅い(または理解できない)」というものが多く、自分も確かにそうだなあと思っていたのですが、2回目を観ると印象が変わりました。2人はしっかりとした理由があって恋に落ちていると。
それはネタバレになるので、↓に書きます。

『四畳半神話体系』と合わせてチェックを!

前述のマインド・ゲームのほか、やはり『四畳半神話大系』も観てみて欲しいですね。

かいつまんでその内容を紹介すると、“大学生のキャンパスライフが、どのサークルを選ぶかでどう変わるかをそれぞれ描く”という『ミスター・ノーバディ』チックなもの。毎話(25分ほど)ごとに、違った2年間の人生を体験できるのです。

上の記事で書いたとおり、本作『夜は短し歩けよ乙女』と『四畳半神話大系』には「リンク」した登場人物がいますし、主要スタッフはほぼ同じ、作風そのものもかなり似ているのです。
第11話(最終話の1つ前)では、意外な展開も待ち構えていますよ。

なお、『四畳半神話大系』は主人公のナレーションで埋め尽くされているのが逆に新鮮さだったのですが、本作『夜は短し歩けよ乙女』ではだいぶナレーションが控えめになっていましたね。
映画では言葉ではなく、より「画で語る」ようになっていたのも好みです。

※『四畳半神話体系』とのリンクの確認は以下の記事も超おすすめ↓
【解説】映画「夜は短し歩けよ乙女」:森見登美彦作品のリンクを楽しもう!! : ナガの映画の果てまで

偽電気ブランやジュンパイロって?

上の記事でも書きましたが、劇中に登場する「偽電気ブラン」は架空のお酒であっても、「電気ブラン」は実在するんですよね。


しかし、200円でお酒が飲めるバーbar moon walkでは、コラボ企画で偽電気ブランが提供中だったりもします。これは行きたい!

そのほか、劇中に登場する「ジュンパイロ」は、大正時代に実在した風邪薬で、今はもう存在しないそうです。
原作者の森見登美彦は、岸田麗子のエッセイで、ジュンパイロが「実家で飲んだおいしい風邪薬」と紹介されていたために、小説に登場させたのだとか。

舞台は京都!

自分は学生時代に京都に暮らしていたので、その場所を魅力的にアニメで描いてくれたことも嬉しかったですね。
そういえば、現在公開中の『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』も京都が舞台。
前述したbar moon walkも含めて、「聖地巡礼」してみるのも楽しそうです。

※参考↓
京都一人旅~森見登美彦の聖地巡礼をしよう!~ – ぼっち派女子の一人旅ログ。

宣伝などでは星野源がかなり推されている印象ですが、声優ファン、原作ファン、アニメファンにこそおすすめしたい作品です。
もちろん何の予備知識がなくても楽しめます。ぜひ劇場へ。

以下は結末を含めてネタバレです。鑑賞後にご覧ください↓

良い意味で「過剰」な、アニメでしかできない表現

いやー、お酒や食べ物を「ごっくん」するとき、首やお腹がぽっこりと膨らむ描写が愉快でしたね!
よく見ると、「私」がドンッと机に置いたグラスの中のお酒が飛び跳ねていたりもしました。

李白と黒髪の乙女の飲み比べの勝負で、乙女は飲んだ時に花が咲き、李白は飲んだ時に辺りが真っ暗になるという表現もいいですよね。
そのほか、李白の前での辛さ我慢勝負で口よりでかい角煮を食わせるのも楽しい!
こうしたアニメでしかできない「過剰」さが大好きです。

終盤の「私」が脳内会議をするのも愉快ですよね(星野源が声を「使い分けている」のも見事)
その後は『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』のクライマックスを彷彿とさせる、「登って到達しようとする」画に圧倒されました。


※こちらのクライマックスは今観ても爆笑します。

人の縁により恋が実った!

本作は「人の縁」により、様々な出来事が起こっています。
逆に言えば、それらの素敵な出来事は、それぞれ人の縁がなければ起こらなかったんですよね。
たとえば、以下のように。

    黒髪の乙女が東堂さんを救うこと

  • 黒髪の乙女が、スケベオヤジの東堂さんから人生論を聞く
  • イギリスに留学に行く男性が、東堂さんが李白に泣く泣く渡す予定だった春画にゲロを吐いてしまう
  • 黒髪の乙女は人生論を聞かせてもらったお礼に、東堂さんに代わって李白と飲み比べをすることを告げる
    パンツ総番長と紀子さんの恋が実ること

  • 東堂さんは経営していたお店の鯉を、竜巻により失っていた
  • パンツ総番長と見知らぬ乙女の頭に、同時に林檎が落ちてきた
  • その乙女にもう一度会うために、パンツ総番長はゲリラ公演をする
  • その乙女は実は女装した学園祭事務局長であり、パンツ総番長は「男でもいい」とあわやキスをしようとするが……そこに東堂さんの鯉が落ちてきて、目を覚まさせてくれた!

どこかでこれらの人の縁が起きていなければ、これらの出来事……言い換えれば奇跡は起きませんでした。
それは樋口師匠の言った「金は天下の回り物」であることや、古本市の神様が言った「本はそれぞれつながっていて、1つの大きな本になるんだ」という言葉にもつながっています。

また、劇中でたびたび登場しているだるまは「縁起物」の代表であり、人の縁を描いた本作を象徴するような存在ですね。
古本市の神様の登場後に、その顔にそっくりなビリケンが出てきたことも、この物語で起こる「幸運」を示しているかのようでした。

ちなみに、映画では東堂さんの鯉はゲリラ公演の最終章で落ちてきましたが、原作では別のシチュエーションで鯉が落ちてきています。これから原作を読む方のために、詳細は秘密にしておきますね。

風邪の蔓延

終盤の京都中に蔓延する「風邪の兆候」が、序盤から登場するのは映画オリジナルです(原作では第4章で「風邪の原因がどこから来る」のかを辿っていっている)。

李白は黒髪の乙女と飲み比べをしながら真っ赤になっていましたが、これは酔っ払っていたからではなく風邪のせいですよね。
羽貫さんは、もう飲めなくなった李白が残したお酒をいただいたため、その風邪がうつってしまっています(東堂さんにもほぼ同時にもうつっている)。
その風邪は、さらに学園祭事務局長、パンツ総番長や紀子さん、果ては「バカは風邪引かない」と言われていた樋口師匠にも伝染します。

だけど黒髪の乙女は、ただ1人だけ「風邪の神様から嫌われている(仲間はずれにされている)」という理由で風邪を引いていませんでした。
思い返せば、彼女は学園祭の射的でもらった大きな鯉のぼりを背負った時「背中からぽかぽかです、ご都合主義バンザイ!」と言っており、その時から風邪の対策が出来ていたんでしょうね。

そして……その風邪という出来事も、以下のようにつながっていったのです。

    黒髪の乙女が「私」を看病をしてくれたこと

  • 黒髪の乙女は風邪を引いた人たちのお見舞いに行った
  • 学園長事務局長に「私」の住所を聞いた
  • おかげで風邪に効く「たまご酒」や「生姜入りコーラ」や「ジュンパイロ」などさまざまなおみやげを貰った

黒髪の乙女が言ったとおり、李白の風邪は、人の縁をつなげていったのです。

速く進む時計

序盤に黒髪の乙女が、老人たちが腕につけている、尋常ではない速さで進む時計にびっくりしているシーンがありました。
その時計の中には、文字盤に「干支」や「春夏秋冬」が書かれたものもありました。

これは「年をとると時間を早く感じてしまう」ことの皮肉ですね。
病床に伏せる李白の部屋にも、すごい速さで進む時計がたくさんありました。

この速く進む時計は、タイトルどおりの「夜は短し」であることも示していると言えるかも。
しかし、樋口師匠が「君といると夜が長く感じるよ」と言ったとおり、乙女はその夜のたっぷりの時間を、楽しく歩くかのようでした。

恋に落ちた理由

「私」はナカメ(なるべく彼女の目にとまる)作戦を駆使しして、たびたび黒髪の乙女と会っており、それにより赤い糸で結ばれているかのような運命の恋を感じていたようでした。

しかし、「私」は決して愚直にその恋を信じていたわけではないようでした。
なぜなら、脳内会議で「大学生になれば恋人ができるという偏見による強迫観念がる」や「そもそも恋をしていないのではないか」や「性欲だけで行動したにすぎないのではないか」などと、口々に言っているのですから。

そんな風に、孤独感でいっぱいのために自分の恋心を疑い、脳内会議までしていた「私」でしたが……
対して、黒髪の乙女は、徐々に「私」がいかに自分を好きでいてくれたかを、気づいていったのではないでしょうか。

    黒髪の乙女が「私」に恋をした理由

  • ゲリラ公演では、「私」は(演劇のためとはいえ)ハリボテの上から抱きしめてくれた(あわやキスまでしようとした)。
  • 学園長事務局長から、「なぜ君の目に彼がとまるのか、わからないかな」と言われている
  • 目覚めた「私」に、黒髪の乙女は「たまたま通りがかったんです」とウソを言ってしまった

この「たまたま通りがかった」というのは、これまで「私」がナカメ作戦で、さんざん黒髪の乙女に言ってきた言葉なのですよね。
つまり、この時に黒髪の乙女は、「私」が「たまたま」というウソをついてまで、恋をしている自分に会いに来てくれたことに気づいた。そして自分もその「私」と同じ気持ち(ウソを言ってまで恋をした人に会いに来ている)ことに気づいたのでしょう。

これでは、黒髪の乙女が「私」への恋心を自覚するのも、無理はありません。
「私も風邪を引いてしまったかもしれません」と赤ら顔で言う黒髪の乙女のなんと可愛いことでしょうか!

いままでさんざん不毛な会議をしていた「脳内の私」がちょっと「私」を押して、にデートを提案するのも大好き!
恋について脳内会議をしたところで、行動を起こさなければ意味がない。必要なのは、ほんのちょっとの勇気なのでしょうね。

※劇中の絵本はこちら↓

(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

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  1. 毒親育ち より:

    >一言感想:「人の縁」は素晴らしい!
    海外のアニメ映画ファンに観てもらいたくなりました。「縁」を軸に展開する物語を観て欲しい!

    >1.湯浅政明監督のドラッギーな映像表現が最高!
    アニメなんか殆ど口にしない上司から熱烈に勧めれた『四畳半神話体系』が初体験でした。
    (ちなみに上司は大学生の娘さんから熱烈に勧められたそうです)

    >2.全4章構成の原作から「一夜限りの物語」に変えたことが英断だ!
    原作未読ですが、この「一夜限りの物語」への再構成がファンタジックで実にアニメ映画映えしていましたね!

    >3.声優陣が最高!
    最近「当たり」が多い本職外の人の声優出演ですが、正直あの早口で膨大な量のセリフを喋るが出来るのか?と不安でしたが・・・星野源さん。ロバート秋山さん。お見それしましたー!!

    >偽電気ブランやジュンパイロって?
    早速映画を観て来た酒好きでもある上司にお酒を奢ってもらいまして、その席で「電気ブラン」についてのウンチクも聞かせてもらいました。
    >200円でお酒が飲めるバーbar moon walk
    教えたらここに連れてってもらえるかなあ~・・・て近場に支店無し!

    >舞台は京都!
    上司は旅行好きでもあるのですが早速「京都行きてえー!!」と奥さんと計画中だそうです!
    映画も奥さんと夫婦五十割引で観て来たとか・・・爆発してください!(祝福)

    >良い意味で「過剰」な、アニメでしかできない表現
    他にも水路を走る李白電車とかも、大学生活やお酒の美味しさなどにピンと来ない小さな子どもでも退屈しないと思います。

    >人の縁により恋が実った!
    この絶妙な縁の繋がりが見事でしたね。これが一夜の出来事とか!

    >•黒髪の乙女が、スケベオヤジの東堂さんから人生論を聞く
    そんな東堂さんの憎めないダメ人間ぶりが愛らしかったです。こんなオヤジと出会いたい。
    思いっきりおっぱい揉んでる描写にビックリしましたが、しっかりオシオキも受けるのが爽快!

    野暮なツッコミなんですが・・・
    >•イギリスに留学に行く男性が、東堂さんが李白に泣く泣く渡す予定だった春画にゲロを吐いてしまう
    ぎゃああッッッ!!なんてことをー!!と叫びたくなりました。芸術品で文化財やぞコラぁッッッ!!

    >その乙女は実は女装した学園祭事務局長であり、パンツ総番長は「男でもいい」とあわやキスをしようとするが……そこに東堂さんの鯉が落ちてきて、目を覚まさせてくれた!
    ここちょっと事務局長がかわいそうでした。目覚めた彼の想いはどうるなの!?・・・いや、その後も友人同士らしいので、ある意味大人の恋愛ものとして健全な描写かもしれませんけども!?

    >風邪の蔓延
    悪い事も縁、その縁がまた良い事に繋がっていく。あらゆるものに神が存在する日本ならではのファンタジー描写も良いですね。

    >恋に落ちた理由
    >「大学生になれば恋人ができるという偏見による強迫観念がる」や「そもそも恋をしていないのではないか」や「性欲だけで行動したにすぎないのではないか」
    脳内会議のシーン。『四畳半神話体系』でもお馴染みのアイツがやってくるのも爆笑しました!

  2. もちぐま より:

    こんばんは!いつも楽しく、ブログを拝見させていただいております。
    >その後は『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』のクライマックスを彷彿とさせる、「登って到>達しようとする」画に圧倒されました。

    確かアニメーターさんで参加してらっしゃった末吉 裕一郎さんという方がいまして、その方はしんちゃんの映画「オトナ帝国」でキャラクターデザインと原画をやってらっしゃったんですね。なのであのシーンは結構意図的というか、末吉さんが今回この作品に参加したならではのシーンだったんじゃないかなと思います。でもすみません、末吉さんが実際あのシーンを担当したかどうかは定かではありません~~;; もしそうだったら素敵なオマージュだなと思いましてコメントさせていただきました。これからも楽しみにしています。

  3. デルピッポ より:

    一緒に見に行った原作ファンはイマイチな反応でしたが自分は原作読んでなかったんで結構楽しめましたね。
    乙女、というか花澤さんの声が素晴らしく可愛いですね。
    先輩より乙女の話なんだなと思いました。
    星野源は滑舌がちょっと怪しかったですがキャラには合ってましたね。ロバート秋山はすごかった。ミュージカルシーンでの歌もかなり上手でビックリ。
    ラストが好きですね。乙女と先輩のお互いに対する純な想い、大変良かったです。

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著者

ヒナタカ

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