
『追憶の森』5月病克服映画(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
今日の映画感想は『追憶の森』(原題:The Sea of Trees)です。
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:考えること、知ることができて、よかった。
あらすじ
アメリカ人のアーサー(マシュー・マコノヒー)は、青木ヶ原の樹海を人生の終着点にしようと決め、日本にやって来た。
アーサーは森の中で、出口を求めてさまよう日本人のタクミ(渡辺謙)と出会う。怪我を負ったタクミを放っておけないアーサーは、いっしょに出口を探して歩き始めるが……。
『グッド・ウィル・ハンティング~旅立ち~』『ミルク』のガス・ヴァン・サント監督最新作です。
本作の舞台は「自殺の名所」と知られる富士の樹海こと青木ヶ原。
その「死に場所」で語られる心変わりと、過去の描写が大きな見どころとなっている、ヒューマンドラマに仕上がっていました。
ブーイングを浴びてしまった作品だけど……
『インターステラー』のマシュー・マコノヒーと『ラスト サムライ』の渡辺謙のW主演、『[リミット]』で脚光を浴びた脚本家が再出されるなど、話題を集める要素は存分にあったはずですが……どうやらカンヌ国際映画祭では多くの観客からブーイングを浴びてしまったようです。
(IMDbでは10点満点中5.4点と酷評。ただし日本ではcoco 映画レビューで75%、Filmarksで5点満点中3.6点とそれなりの評価)
ブーイングの理由は定かではないですが、Wikipediaに書かれたような「自殺のためだけに日本へ赴くという設定に合点がいきづらかった」というのであれば、自分は大いにそれには異を唱えたいです。
なぜなら、主人公は「思いつき」で「インターネットでいちばんにヒットする」青木ヶ原に赴いているから。
ファーストシークエンスで、すでに主人公が「後先を考えずに東京に行こうとしている」ことがよくわかるはずです。
死に場所を決めるためにインターネットで検索をするシーンでも「あまり深い考えを持たず」に「死ぬのにいちばんいい場所」に行こうとしていることが示されています(ちなみに「the perfect place to die」で検索すると実際に青木ヶ原が出てきます)。
この「主人公が短絡的な考えで、わざわざ遠い地である青木ヶ原に向かっている」ということは物語上でも重要になってきます。
そうであるのに、「自殺のためだけに日本へ赴くという設定に合点がいきづらい」という批判はあまりにナンセンスである、と思うのです(映画の感想は人それぞれである、というのは十分承知しているのですが)。
言うまでもなく、本作描かれているテーマである「自殺」は、人生においてもっともネガティブな選択です。
『追憶の森』は決してポジティブシンキングに溢れているわけでもない、むしろ主人公の「自殺をしたい」という想いを丹念に描いているのですが……その反面、本作を観て樹海で自殺をしたくなる、という方はまずいないでしょう。
本作は自殺をテーマしている反面、じつは逆説的に自殺をしたくない、もっと生きたいと願うことができる作品なのです。
(日本では)本作をゴールデンウィーク真っ只中に公開してくれていることもうれしかったです。
「5月病」という言葉があるくらいですし、実際に平均自殺死亡数を月別にみると4・5月がピークになっているのですから。
世の中にはポジティブな気分になれる作品があり、実際にゴールデンウィークには、そうした大作or娯楽作が多く公開されています。
一方で、『追憶の森』は自分のネガティブな気持ちを映画の中に溶け込ませることができる作品です。
人にはネガティブな気持ちも、ネガティブな気分にさせてくれる映画も必要である(そういう気持ちこそ、自殺を思いとどまさらせてくれる)と思うのです。
※右のような気分になりたいときもあります。
観る前に知っておくといいのは、「煉獄」という言葉。これはカトリック教において、罪を犯した死者が、その罪を清めるための天国でも地獄でもない場所のことです。
自殺者がたくさん来ている樹海は、まさに煉獄のような場所なのですね。
本作の難点は、おっさんふたりが樹海でサバイバルをしている描写が単純に退屈ということにあります(←身も蓋もない発言)。
樹海の美しい風景がそれほどクローズアップされていないこともあり、飽きやすい画(え)にもなっています。
比較するのはよくないと重々承知しているのですが、同時期に『レヴェナント:蘇えりし者』というガチすぎるサバイバル映画も公開されているので、どうしてもその魅力には乏しいと言わざるを得ません。
ガス・ヴァン・サント監督は以前にも男ふたりが彷徨い続ける実験的映画『ジェリー』を手掛けており、これも娯楽とは懸け離れた作品であるために賛否両論を呼んでいました。
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『追憶の森』の主軸は、人間ドラマであり、ベテラン俳優ふたりの卓越した演技。
サバイバルではなく、それを期待するべきでしょう。
なお、ガス・ヴァン・サント監督は『ラストデイズ』『エレファント』『永遠の僕たち』でも「(生と)死」を描いており、今回もその作家性が存分にあらわれた1本になっていると言えます。
そんなわけで、監督のファン、主演ふたり+主人公の妻を演じたナオミ・ワッツのファン、また5月病になりかけてネガティブな気持ちになっている方には存分にオススメします。
興行成績は芳しくなく、公開2週目にさしかかった金曜にもかかわらず、早くも1日1回上映になっている劇場でもあるとのことですので、ぜひ早めの鑑賞を。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
(C)2015 Grand Experiment, LLC.

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とても静かな映画で、確かに退屈かなぁと思うところもありますが日本の独特の概念である「魂」について静謐に描き切ってくれたのがとても嬉しいなって思っていました。
ジョーンが夫を見下したり突然ヒステリックになるのはアルコール中毒の影響だと語られていたので治療の難しさを思うと、そしてアーサーがアル中で苦しんでいるジョーンに治療プログラムを進めたり苦しみを和らげようとせずにワンナイトラブに走ってしまったことを思うと絶望的に会話が足りない夫婦だったんだなあと…
タクミに語った「お互いの優しさに気付かないゲーム」の話も含めもうちょっと向き合えていたらと思わずにはいられません。
ジョーンが病院で死にたくない、と言うのには表面上のことではなくとても共感しました。(入院経験で真っ白な病院で想う死の怖さを思い知りました、最近の病院はカラフルなのが多いんですよね)
タクミは一体なんだったのか、私はジョーンの霊魂を届ける為に樹海の地縛霊が一役買ってくれたのではと思っています。
「奥さんの魂はいつまでもそばにいるよ」「タクミの鼻歌はジョーンが好きだった映画の歌」「ヘンゼルとグレーテル」(葬儀で好きな本も知らないと嘆いたアーサーへの返答)「黄色と冬」(死ぬ直前の応えられなかった好きな色と季節の質問の答え)
タクミが語った成仏の際に咲く花の話の後、タクミが成仏した?際にアーサーに蘭の花をプレゼントしてくれましたし。
弱り果てたタクミと支え合い、傷を負いつつも歩く姿は本当はアーサー夫妻がするべきこと(お互いの傷や痛みを治療し寄り添い共に歩くこと)だったような気がします。
前ブログに頂いた、非公開コメントです。
ひぃさん、ひとつ上にコメントをくださった方、ありがとうございます。葬儀の言葉を自分は書いていなかった!
コメントを受けて青字で追記をしました。問題がありましたら、こちらに意見をお寄せいただけると幸いです。
ナベケンの誘いとマシュー・マコノヒーがクタクタの自殺志願者を演じると聞いて観てきました。
あと私自身が現在独身ですし、将来はなるべく誰にも迷惑かけずに一人でポックリ逝きたいと夢想してる性質なので・・・でも今の社会制度では不可能なんですよね。とりあえず60㎏のタンパク質とカルシウムの塊の始末というご迷惑が誰かにかかるのは必至。
>主人公は「思いつき」で「インターネットでいちばんにヒットする」青木ヶ原に赴いているから。
本作で青木ヶ原樹海が世界的に有名(地元の人達には大迷惑だそうですが)になっていると初めて知りました。酷評した人達は自殺志願者の気持ちはあまり考えないか、東西の自殺観の違いでしょか・・・。
この人達が傑作とする同じテーマの映画を観てみたいですね。
>「5月病」という言葉があるくらいですし、実際に平均自殺死亡数を月別にみると4・5月がピークになっているのですから。
『フィフス・ウェイブ』の災害描写もそうですが、そういう効果有ると思います。
人生最後に観てみるか・・・と思った映画が本作だと良いですね。
>本作の難点は、おっさんふたりが樹海でサバイバルをしている描写が単純に退屈ということにあります(←身も蓋もない発言)。
確かに・・・途中でクマさんが、オジサンたち~♪お逃げなさい~♪な事にならないかとなどと不謹慎な妄想をしてしまった事をお許しください。森の精霊様。
>~樹海という場所で~
死後に無敵モードの無差別殺人鬼と化してる人達にも見習ってほしいような・・・。
>~知ることができる幸せ~
ひぃさん
>最近の病院はカラフルなのが多いんですよね
最後に入院したのは随分前ですが、どうも最近映画で観る病院が幼稚園みたいだと思ったらそんな訳が!
「空港に置いた車に鍵が挿しっぱなしだったり、通帳を平気で座席に置いてきたりする」シーンは、単純に帰るつもりが無かったからなのかなと思いました。たしか、航空券が片道だけしかない、機内食をもらわないシーンが続いていて、逆に帰りには機内食を食べていたかと思います。