
[絶賛ネタバレあり感想]映画『透明人間』(2020)のラストの衝撃を本気で語る
今日の映画感想は『透明人間』(2020)です。(記事の前半はネタバレはありません)
個人的お気に入り度:9/10
一言感想:「透明人間」というジャンルの到達点
あらすじ
DV男が透明人間になって襲ってきます。
1993年の『透明人間』のリブート作です。
まずは、結論。本作はホラーサスペンス映画の、そして「透明人間」というジャンルの1つの到達点と言える傑作です。
全米では初登場No. 1の大ヒット(新型コロナウイルスのせいでその後に映画館が閉鎖しちゃったけど…)、Rotten Tomatoesでは批評家からの支持率91%という大評判も納得でした。
本作の大きな魅力であり特徴を大きく3点に分けてあげるのであれば、
完全に被害者側の立場に立っている、
敵となるのがDV夫、
長回しを多用したサスペンスが上手い、
というこということでしょう。
それに付け加えて、ネタバレなしではほとんど何も言えない案件だったりもします。
サプライズにも満ちた展開に、翻弄されるまま楽しんでほしいのです。
完全に被害者的立場に立っている
これまでにも透明人間を扱った映画はたくさんあるわけですが、「透明人間になる側」を主人公としているものばかりでした。
香取慎吾主演のドラマもそうだし、『インビジブル』もそうです。
それはそれで透明人間になる過程や戸惑いやエゴなどが描かれていて面白いのですが、半ばコメディみたいになっているんですよね。
それを回避し、笑いなしの本気の怖いスリラーにするため、リー・ワネル監督は「(透明人間の)浮いているサングラスやパイプなど、その描写はほとんどコメディだ。僕としては、コミカルな要素を取り除き、恐怖を抱かせる存在にしたかった。だから、透明人間を主役にしないことに決めた」と語っています。
本作は完全に被害者的立場に立っていることによって、「加害者のことがよくわからない」に付随する形で、「透明人間の恐怖」をより感じられるようになっています。
当たり前と言えば当たり前のことですが、そこに着目しやりきっていることがまず称賛に値するのです。
敵となるのがDV夫
「加害者のことがよくわからない」と前述しましたが、そいつは「妻に暴力を振るう独善的なDV夫である」ということは示されています。
主人公である妻はDV男から逃げ出すわけですが、隠れて住むことになった友人の家でも「いつかあいつが現れるかもしれない」という恐怖に怯えています。
この恐怖は、実際にDV男の被害を受けた女性の気持ちとシンクロするものになっているんですよね。
言うまでもなく身体的な暴力はトラウマになります。そのトラウマを、同じ「見えないのに、いるように思える」恐怖という形で、透明人間というフィクションに落とし込むことで、さらに主人公の気持ちに同調できるようになっている、というわけ。
「支配的な性格の男性からの逃避」というのは現代的なテーマでもあります。そこもまたエポックメイキングだと思うわけです。
そして、本作は脚本の練り上げぶりが凄まじいことになっています。
あの時に何気なく示されていたセリフやアイテムは後でしっかり伏線として回収されますし、何よりあのラスト……!もうこれはネタバレになるので↓に書きますが、もはや物語としての上手さに感動して泣いたレベルですよ!
ちなみに主人公の名前であるセシリアは、ラテン語では「目が見えない」ことを意味しているそうです。
彼女は劇中でその頭文字を取って「C」と呼ばれ、それが「see(見る)」に聞こえるというのも、透明人間を描いた映画に対しての皮肉ですね。
長回しを多用したサスペンスが上手い
本作では透明人間に襲われるシーンを、かなりの長回し、大胆なカメラワークで「魅せる」ことが多くなっています。
カットを切らず、そのシークエンスをずっと映すことで、「ここに透明人間がいる」という実在感を増す効果を生んでいますし、「逃れられない」恐怖感も倍増しているのです。
さらに、本作のメイキングを見ると、特に序盤はワイヤーで作り上げたりする、わりとアナログな手法で撮影が行われているんですよね。
それぞれのアイデアがまた面白いものだし、あの手この手でフレッシュな画を作り出すサービス精神にも感服。
こうしたところで、「映像そのものがめちゃくちゃ面白い」ということも称賛するしかないわけです。
とにかくエンターテイメントとしてしっかりしている
そんなわけで、「透明人間のホラー映画」という型通りで手垢のつきまくったジャンルでありながら、そもそもの発想が秀逸で、脚本が超練り上げられていて、映像そのものも作り込まれていてめっちゃ面白いと、もう申し分のない内容になっています。
上映自慢は2時間2分とこの手の映画としては長めですが、退屈するような場面はゼロ。スピーディな作劇にも感心するしかありません。
なお、PG12指定ですがエロはほぼ皆無です。しかし、残酷描写はなかなかのものなので苦手な方はご注意を(よくR15にならなかったね)。
また、「大きな音でびっくりさせる」というコケオドシ(ジャンプスケア)的演出が必要最小限なのも良かったですね。主軸となるのは「じわじわくる」恐怖でした。
自分は、劇中の何回がか衝撃的すぎて「ヒェ…」「ハッ…」と声が出てしまいました(近くで観てた方ごめん)。それも大きな音でビクッとしたからではなく、「そうきたか…!」という展開の妙で。
これこそ、面白いホラー(スリラー)映画を観る醍醐味ですよ…!
また、本作の監督と脚本を手がけたリー・ワネルは『ソウ』の脚本家としても知られますが、最近では『アップグレード』がめちゃくちゃ面白かったんですよね。
※現在はAmazonプライム会員で見放題。ケレン味に溢れるカメラワーク、皮肉に満ちた物語、何よりもぶっちぎって高いエンターテインメント性など、今回の『透明人間』と通じていることが盛りだくさんなので、合わせてぜひ観てほしいところです。
エンターテインメントとして「しっかり」作り上げると、ここまでの傑作が生まれるのかと感服した次第。
もう大プッシュで、この『透明人間』をオススメするしかありません。ネタバレを踏まずに、ぜひ(マスクなど十分な対策をして)劇場へ!
……あ、そうそう、実は本作はもともと「ダーク・ユニバース」というモンスター映画のクロスオーバー作としてジョニー・デップ主演で企画が進んでいたのだけど、第1作『マミー 呪われた砂漠の王女』のあまりのコケっぷりと不評ぶりのおかげで別企画となったんですよね…。
個人的には『マミー 呪われた砂漠の王女』は嫌いじゃないし、ダーク・ユニバースのコンセプトにはワクワクしていたので残念ではあるけれど……ま、まあおかげで今回の『透明人間』という傑作が生まれたんだから良かったじゃない!良かったんだよ!(自分に言い聞かせるように)
↓以下からはラストを含む展開のネタバレです。鑑賞後にお読みください。
(C)2020 Universal Pictures

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セシリアがラストで透明人間スーツを持っていたのは、中盤にエイドリアンの豪邸に行った時、冒頭で逃走用のカバンを隠していた衣装部屋のあのスペースに隠したスーツを取り出したのだと考えていましたが違いますかね?
なるほど!追記させてください!
>途中でエイドリアンの豪邸まで車で送ってくれた男性、あれは誰?
その前に、携帯電話が映っていたから、Uberを呼んだのかな?と思いました。場所がサンフランシスコでしたし。ちょっと怖いお客さん乗せちゃたなー
あ、なるほど!運転手はセシリアと顔見知りっぽかったので友人か何か?と思ったのですが、顔なじみのUber運転手だと思えば納得できますね。