
【解説・感想・評価】映画『たまこラブストーリー』訪れる変化(前半ネタバレなし+後半ネタバレ)
今日の映画感想は『たまこラブストーリー』です。
個人的評価:9/10
一言感想:よい日本映画を観たなあ・・・※アニメです
あらすじ
高校3年生の大路もち蔵は、恋心を抱いている幼なじみの女の子・北白川たまこに、東京の大学に進学することを伝えようとしていた。
その決意とは裏腹に、なかなかもち蔵は言い出せない。バトン部の部長・常盤みどりは、そんなもち蔵を見かねて後押ししようとするのだが……
テレビアニメ「たまこまーけっと」の続編となる劇場用作品です。
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洲崎綾
4760円
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テレビ版は、かわいい女の子を愛でるためのアニメでした(異論は認めます)。
タイトルも「まーけっと」がひらがなになっているだけあって話もとてもかわいらしく、何も考えなくてもゆる〜く楽しめる、仕事疲れの人を癒してくれる作品でした。
さて、この劇場版がどうなっているかと言うと……いや本当にびっくりしました。度肝を抜かれました。
結論を言います。
①古き良き日本映画好きなら観に行け
②青春映画が好きなら観に行け
③ていうか映画が好きなら観に行け
そう、本作は(実写の)映画好きの琴線に触れる作品だったのです(注:これはアニメ作品です)。
優れた実写の日本映画のような画作りと演出
本編には、優れた映画にこそある画と演出がふんだんにありました。
「アップ」や「引き」を意識し、細かいこだわりが満載の画、
ことばにしなくてもちょっとした表情の変化でわかる登場人物の想い、
ときおり入る尊いメッセージ、
少年少女ならではの、二度と戻ってこない青春を描き、
なにげない日常の中で、本人にとっては一大事が起こってしまうさまー
それは、まさに繊細な日本映画でした(注:これはアニメ作品です)。
作中の舞台は現代に設定されていますが、「糸電話」や「ラジカセ」といった昭和時代のアイテムも登場するので、物語の素朴さもあいまって昔懐かしの青春映画を観ているかのようにも感じました。
また、夕焼け色に染まる川(モデルは加茂川)の画の美しさは筆舌に尽くしがたいものがあります。
ここはロングショットで撮られており、映画好きであればよりその巧みさに気づけるのではないのでしょうか。
山田尚子監督は、よっぽど青春映画が好きなのでしょう(「映画 けいおん! 」では女子高生がいちばん輝いている時期を撮りたかったと語っています)。
映画というものは、なかなか体験できないことを、スクリーン上で見せてくれます。
本作では、かけがえのない青春の1ページを追体験させてくれました。
これだけで、本作にありがとうと言いたいです。
間違いなくラブストーリーだった
さて、カタカナでド直球のタイトルが示すとおり、本作の物語はストレートなラブストーリーです。
軽いネタバレかもしれませんが言ってしまいます。
本作は恋愛映画でありながら、一度としてキスをするシーンは出てきません。
恋人同士がラブラブになったりする恋愛ではまったくないのです。
それでも、本作は間違いなくラブストーリーでした。
なぜかというと、恋をしたことによりすれ違いや、苦しさや、簡単にことばにできない複雑な感情をしっかり描いているからです。
あと、恋をしている少年少女がかわいいのなんの。
主人公のたまこはもちろん、友だちのみどり、恋心を告白しようとしているもち蔵(すげえ名前)もほんとうにかわいいです。
アニメならではの“萌え”も合わさって、ニヤニヤできることは間違いありません。
テーマは“変化”と“日常を保つ”
テーマには、“変化”と“日常を保つ”というものもあります。
主人公のたまこは、自分の住む商店街(モデルは出町柳商店街)の人々が大好きで、変わらない日々を愛しています。
しかし、彼女も高校3年生になり、まわりの変化をなかなか受け止められなくなってしまいます。
変わることはうれしくもあるけど、同時に怖くもあるし、拒絶したくなることもある。
このテーマは極めて普遍的で、多くの人が共感できることでしょう。
そして、この物語は登場人物の“成長”として昇華されます。
主人公がどう変わったのか、まわりの人たちはどう思ったのか。
それを、ぜひ見届けてください。
実写でもできるかもしれない、でも、アニメだからこそ……!
難点をあげるとすれば、“アニメでこそ”できる表現や展開が少ないように感じられることでしょうか。
本作は吉田玲子さんによる脚本をそのままに、実写映画にしても成立してしまいそうな勢いです。
しかし、映画を観終わると、そんな難点はどうでもよくなってしまいました。
作品には、映画、漫画、小説、音楽などさまざまな表現方法があり、今回はたまたまアニメという媒体で、最高のパフォーマンスでもって素晴らしい作品をみせてくれた、ということだけなのですから。
むしろ、アニメでここまで繊細で、アニメでこそキャラクターの一挙一動や表情の可愛らしさがわかる作品が生まれたことが、うれしくて仕方がありません。
主人公のたまこを演じていた洲崎綾さんによる主題歌「プリンシプル」もよかったですね。
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900円
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映画を観た後は、その歌詞に想いを馳せてみることをおすすめします。
まとめ:テレビアニメ版を観ていなくてもオススメです
そんなわけで、これは大プッシュでおすすめです。
上映時間はわずか82分。そのうち5分間は本筋とは関係ない短編作品「南の島のデラちゃん」ですから、本編は80分を切るほどの短い作品です。
それでも話はしっかりまとまっており、青春映画として、恋愛映画として、申し分のない完成度。じんわりと、心に残る作品になっています。
なお、物語は独立しているのでテレビアニメ版を観ていなくても楽しめます。
2〜3話ほど観て、雰囲気を把握しておく程度で問題はないでしょう。
作中で大きな事件がなかなか起こらない作品なので、人によっては退屈してしまうかもしれません。
ノリもどちらかと言えばライトなので、深い感動を求めると少々肩すかしなのかもしれません。
しかし、登場人物のわずかな変化や心情を考えてみると、その魅力に気づけるはずです。
上映劇場は全国で24館とわずかですが、アニメファンだけに独占させておくのはもったいないです。
岩井俊二などの監督の作品が好きな人も、きっと気に入ると思います。
今恋をしている人、恋をしたときのことを思い出したい人、ふだんアニメを観ない人も、ぜひ作品にふれてみてください。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
(C)京都アニメーション/うさぎ山商店街

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chat_bubbleコメント
告白を受け止めきれないたまこの心情が、紙コップやバトンをキャッチできないことで表されていたり、光と影の使い方でキャラの心情を表現していたりと、メタファー好きには大変勉強になる作品でしたね。脚本の質も良く一見の価値あり。
前ブログに頂いた、非公開コメントです。
ありがとうございます、訂正いたします。
>ぎおさん
メタファーが多分に込められていましたね、本当に映画らしい作品です。
TV版は未観で実は「けいおん!」で嫌な思いさせられた事があり、避けていた山田尚子監督作品(決して作品自体が不愉快という訳でも山田監督が悪い訳でも無く、ちょっとファンの方とありまして・・・)ですが信頼のカゲヒナタレビュー8点を信じて観賞!
>よい日本映画を観たなあ・・・
ヒナタカさん一言で現わし過ぎですよ!!
感涙!一本の作品としてはもとより、邦画アニメの革新を観ました!もう巨大ロボットだの巨大剣を振り回すセクシー美少女だの、ありえない存在を映像化する為だけの表現方法ではない!!
>かわいい女の子を愛でるためのアニメでした
TV版も観ようと思います。個人的に「デラちゃん」に興味深々です。昔の児童アニメにある平和な町に不思議生物がやってきて・・・な感じに期待です。あんこちゃん達、小さな子と絡む話が多いと良いなあ・・・
>あと、恋をしている少年少女がかわいいのなんの。
本当に「ええい!まどろっこしい!!」(←自分を棚上げ)とか全然無く、ただただ微笑ましい!愛おしい!応援したい!二人を見守る友人たちも人として見習いたいくらい最高です!
というか、登場人物に悪人どころか悪意を持った人間すらいない!こういうのをリアリティが無い、お花畑、平和ボケとか嫌う意見も解りますが、でもこれが人の生きる町として一番の理想郷だと思います。
>主人公のたまこは、自分の住む商店街(モデルは出町商店街)の人々が大好きで、
寂れた商店街から始まる作品が多い中、本当に古き良き邦画の世界が目の前に広がる感動を味わいました。
モブに渥美清さんや植木等さんを探してしまう程に!
こういうのもっとゴールデンで放送しましょうよ・・・話題になれば勝ち!な番組に出資してるスポンサーの皆様・・・。
いい映画でしたよねー!
> >かわいい女の子を愛でるためのアニメでした
> TV版も観ようと思います。個人的に「デラちゃん」に興味深々です。昔の児童アニメにある平和な町に不思議生物がやってきて・・・な感じに期待です。あんこちゃん達、小さな子と絡む話が多いと良いなあ・・・
ちなみにみどりはもち蔵の恋路をじゃましようとしていました。
> >あと、恋をしている少年少女がかわいいのなんの。
> 本当に「ええい!まどろっこしい!!」(←自分を棚上げ)とか全然無く、ただただ微笑ましい!愛おしい!応援したい!二人を見守る友人たちも人として見習いたいくらい最高です!
> というか、登場人物に悪人どころか悪意を持った人間すらいない!こういうのをリアリティが無い、お花畑、平和ボケとか嫌う意見も解りますが、でもこれが人の生きる町として一番の理想郷だと思います。
この商店街、住みたいですよねー
> >主人公のたまこは、自分の住む商店街(モデルは出町商店街)の人々が大好きで、
> 寂れた商店街から始まる作品が多い中、本当に古き良き邦画の世界が目の前に広がる感動を味わいました。
> モブに渥美清さんや植木等さんを探してしまう程に!
この雰囲気ならいてもおかしくないよ!
本当に素晴らしい映画でした!
みどりはたまこのことが好きらしいです。
あと、個人的にもち蔵は東京に行かないと思います。
たまこまーけっとラブストーリー観たくなりました!
全国の映画館でやってくれればなぁ…
>みどりはもち蔵が好きだった
みどりの好きな人はたまこだと思います
アニメでもはっきり言ってはいませんが
その為変わった形の恋心の葛藤が描かれていました
いつも拝見させていただいております。
アニメならではの描写が少ないとのことでしたが、自分はむしろアニメでなければここまで良い作品にはならなかったと思います。
この映画は物語のテンポにかなり緩急がついています。無駄がなく、最低限の描写で済むところはコンパクトにしつつ、ここぞというところでじっくり描いたり。
これがもし実写であれば、テンポの差によって気持ち悪くなっていたと思います。ドラマパートのあるミュージックビデオのように「早く次進めよ」と思ったり、急加速してついていけなくなったりと。アニメでは話のテンポにメリハリをつけても違和感が少ないという点だけでも、この映画をアニメで作った意味が十分あるかと。
私も映画けいおん!で失望してた人間の一人なのですが・・・
たまこはTV版も見てはいて、こんなものか、映画はいいかな・・・
とか言ってたのですが、ヒナタカさん始め絶賛されまくりなのでさすがに気になり見てみましたが・・・
KINENOTEでレビューも書いているのですが、ここまでTV版から化けた劇場版なんてないんじゃないですかね。
ここまで凄い映画だとは思いませんでした。脱帽。
今更ですが折角なので昨日に引き続いてこちらも。
過去にはてなダイアリーの方(http://d.hatena.ne.jp/rx-8/20140518#20140518fn6)で書いてるのでダブるかもしれませんが御容赦を。
観るにあたって事前に「まーけっと」の方を全部押さえてたこともあって所々でアニメ版にあったネタが見られたときは「おおっ」と思いました。
独立してるのでマストではないにせよその意味では極力押さえておいた方がより楽しめるかもなあ、とは思います(もっとも、自分は楽しめましたものの9話はともかくとして全体的評判がアレなので苦行になってもおかしくないところはあるのですが)。
にしてもアニメ版の悪評に対してこちらは高評価が多いだけにすごい化け様です(趣旨が異なる気がするので比べるのも野暮だと思うものの敢えて言うならけいおん劇場版が好きな人間ですがこちらの方が格段に好きです)。
>それでも、本作は間違いなくラブストーリーでした。
ストレートに書いてないのにそれでも伝わるだけに「やっぱ山田監督と吉田さんすごいなあ…」と感服です。
>主人公のたまこを演じていた洲崎綾さんによる主題歌「プリンシプル」もよかったですね。
おかげで洲崎さんのファンになってしまったほどです…。まさに正しい配役です。
>岩井俊二や、大林宣彦といった監督の作品が好きな人も、きっと気に入ると思います。
この作品をきっかけに尾道三部作を観て(といっても一部観そびれましたが)「やはりこのテイストに影響を受けたところもあるのかもしれない」って思ったりしました(合ってるかはわかりませんが…)。
>映画を観た人全員が思うであろうことは、もち蔵の告白に対するたまこのリアクションがかわいすぎることでしょう。
ええ、無茶苦茶可愛かったですwと同時に、「多分、殆どの人はたまこと同じような反応になるだろうなあ」って思ったりもしました。
因みに2話のガチガチぶりは個人的にツボでした。
>父親の「気持ち悪い」「縁起悪い」などのツッコミにも笑いました。
商売敵の息子であることを抜きにしても同感ですw
>商店街の大人たちを見て、お父さんとお母さんがそれぞれテープに録っていた歌を聞いて、「みんなにもいろんなことがあった」と思いはじめます。
特に9話における「こいのうた」の件に関してはかなりキーになってたので流石です。
>はっきりとことばでは言っていませんが、みどりはもち蔵のことが好き(または親友のたまこが取られてしまうのがいや)だったのでしょう。
「たまこが取られるのが嫌だ」というのは自分も思いましたが「もち蔵に思いを寄せてる」に関しては4話か5話か忘れたものの臨海学校のエピソードの時点でその線はないだろうな、と思ってました。
あとWikipediaでは
「ツッコミも含めてたまこにはなにかと世話を焼くことが多く、幼馴染み以上の感情を抱いている。故に、もち蔵のたまこに好意を抱いていることに関してもあまりよく思っていないため、2年生の臨海学校ではもち蔵がたまこに告白しようとしていたときはことごとくブロックしていた。」
となっています。
自己嫌悪に陥ったのはもち蔵に思いを寄せてるからじゃなくて思ってもないことを言った所為でしょうし、吹っ切ったのはもち蔵への想いじゃなくてたまこへの想いの方なのでしょう。
何れにせよみどりにとってもよかったと思います。
>変化にとまどっていたたまこが、自ら変化のための行動をしたのです。
この成長こそ、自分がこの作品でもっとも感動したことでした。
自分もこれは素晴らしいと思いました。あと「変化しないから美しい」ものもあるけど「変化するから美しい」ものもあるから変化を恐れるな、とエールを送ってもらったようにも感じました。
>これからたまこともち蔵には、新しい変化のある、新しい日々が待っているのでしょう。
しかし、もち蔵が東京へ行ってしまうため、その日々もいつかは終わりをむかえてしまいます。
自分は「多分もち蔵は後に上京をやめてたまこと一緒に過ごす道を選ぶのだろう」と考えてましたが言われてみたらそうかもしれませんねえ…。何れにせよ具体的に描かずに観る人の想像に任せてるのは個人的にGJです。
あと仮に上京別れしたとしてもお互いに青春の1ページとして美しく残るのだとすればこれもまた悪くないのでしょう。
因みにパンフの裏表紙にお互いに顔を向き合うたまこともち蔵が糸電話を手に持ちみんなが待つ商店街に戻ってる絵が描かれています。
毎度ながら長くなってすみません。
なんにせよこの二人にはホントに幸せになってもらいたいものです(たぶん今まで生きてきた中でこのカップルほど破綻してほしくないと思ったカップルはいないかもと思います)。