[ネタバレ]『空の青さを知る人よ』感想・解説・考察!セリフを振り返ると気づくこととは?

[ネタバレ]『空の青さを知る人よ』感想・解説・考察!セリフを振り返ると気づくこととは?

今日の映画感想は空の青さを知る人よです。
(※記事の前半にはネタバレはありません。ネタバレの前には警告あり!)

個人的評価:8/10

一言感想:アラサーにぶっ刺さりまくり青春アニメ

あらすじ

田舎町にミュージシャンを夢見ていた男が帰ってきます。

テレビアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下『あの花』)、劇場用アニメ『心が叫びたがってるんだ。』(以下『ここさけ』)に続く、長井龍雪(監督)・岡田麿里(脚本)・田中将賀(キャラクターデザイン)の3人による制作チーム“超平和バスターズ”の最新作です。


いずれも埼玉県秩父を舞台としており、この『空の青さを知る人よ』と合わせて「秩父3部作」とも銘打たれているようですね。
結論から言えば、今回の『空の青さを知る人よ』はややクセの強かった前2作に比べて万人に受け入れられやすい内容となり、また10代の少年少女だけでなくアラサーの心にぶっ刺さりまくるため大人にこそオススメできる良質なアニメーション映画になっていました。

以下、このページの目次です。
“ネタバレ”と表記している項は本編の内容が盛大にネタバレしていますのでクリックにご注意を!

アラサーの男女の葛藤と、思春期の少女の複雑な心境を描いている

本作のあらすじをかいつまんで書くと、「田舎町にミュージシャンを夢見ていた男が帰ってくる、時を同じくしてなぜかその男の13年前の姿の生き霊(?)が時を超えて現れる」というものです。
そこから紡がれるのは、アラサーの男女の葛藤と、思春期の少女の複雑な心境だったりします。
言い換えれば、これは「俺(私)の人生これでいいのかな…」と少しでも思っているアラサーにぶっ刺さりまくり案件であり、思春期のモヤモヤしまくりの気持ちにも寄り添いまくっているんですよ。

メインターゲットは10代〜20代のアニメ(映画)ファンだと思うんですが、実際はいい年をした大人にこそ響くというのは(別ベクトルで)『HELLO WORLD』と同じですね。

脚本家・岡田麿里の独特のクセとは?

ちょっと脚本家の岡田麿里について語っておきましょう。
多数のアニメの脚本を手がけている方なのですが、男女関係を描くと妙に生々しいというか性的な何かが描かれることが多い、良くも悪くもクセの強い方だと思うんです。

『ここさけ』ではバッチリ性的な要素が入っていましたし、『ひそねとまそたん』は可愛い絵柄で子供にもオススメできるんじゃないかと思ったらセフレという単語が普通に出てくるし、『さよならの朝に約束の花をかざろう』では思春期の少年のマザコンの心境が明らかに描かれていたし、最新テレビアニメ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』では女子高生が性的な話題に振り回されるということが作品そのもののコンセプトだったりするのです。

それも脚本家の持ち味として肯定的に捉えたいのですが、ちょっと観る人を選ぶところがあるのは否定できないな…と。
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の「止まるんじゃねぇぞ… 」は完全に悪い意味で話題になりましたし、直近の実写映画版『惡の華』では(原作の一部を省略したために)細部の詰めが甘いと思われるところもあったので、手放しでは褒められないな、というのも正直な気持ちでした。

でも、今回の『空の青さを知る人よ』では、そうした性的な話題は(あると言えばあるけど)かなり抑えめであり、複雑な価値観をロジカルに描ききったドラマとしても存分に完成度が高いと思います。
ファンタジー設定も突飛なものながらしっかりと教訓のある寓話として生かされていますし、岡田麿里脚本作品の中ではもっとも万人受けする内容になったと断言していいんじゃないでしょうか。

そして……個人的に本作でもっとも好きだったのは、登場人物の言動や行動を振り返ってみると「実はこういうことだったのでは…!?」と想像が膨らむこと。
これについては↓ネタバレでまとめてみたいと思います。

ボイスキャストは文句のつけようがない!

本作でもう1つ賞賛したいのは、主要ボイスキャストが最高ということ。
31歳と18歳を見事に演じ分けた吉沢亮、『見えない目撃者』と全然違うホワホワ系お姉さんにベストマッチの吉岡里帆、子役として活躍していた若山詩音の可愛さと感情表現も完璧と、文句のつけようがありません。
「アニメは本業声優じゃないと認めん!」な過激派(自分含む)を全員黙らせる勢いでしょう。

クライマックスにはちょっと無理やり感も?

気になってしまったのは、ちょっと無理やり感のあるクライマックスですね。
おそらく「アニメ作品としての見せ場が必要だったからこうした」という事情があってのことなのでしょうが、むしろここが作品全体から浮いてしまっている印象で、違和感を覚えてしまいました。

もう1つ気になったのは、ヒロイン(お姉ちゃん)に31歳に見えなかったことでしょうか。
対して田舎に帰ってきた男が13年前の姿と違ったキャラデザインで、しっかり年齢差を感じさせたのたので、その対比でも外見が若すぎ思えてしまいました。

また本作は「実写でも実現可能ではないか」とも思える内容なんですよね(事実、前作『ここさけ』は実写映画化もされましたし)。
でも劇中ではベースの指づかいを滑らかに描き、「実際もこうだよなあ」と思わせる、故・高畑勲監督イズムのあるアニメの動きの気持ち良さががありますから、アニメで描く意義も確かにあったと思います。

姉妹萌えや各種関係性が尊い…!

そんな風に欠点もあげてしまいましたが、本作のキモは尊い関係性を描くことにあり、その描写がマジ最高なのでぶっちゃけ欠点などどこかに吹き飛びます。
だってお姉ちゃん好き好きのはずに外見はクールぶっている妹が主人公なんですよ。
可愛いの権現じゃないか!その他の関係性も「あっこれ好き」「尊死ぬ」なものばっかりだよ!

また、本作は上映開始日の翌日に台風が来襲してしまい、その後も興行収入が伸び悩んでいるという厳しい現状があります。
アニメとしてのクオリティも高いですし、岡田麿里脚本および“超平和バスターズ”作品の中で一番出来が良いと感じた作品でもあるのに……これは勿体無い!
そんな訳で、上映回数が激減してしまわないうちに観るのがオススメですよ。

以下からはネタバレです。鑑賞後にお読みください。↓



ネタバレ:野暮な不満点

本作で違和感を覚えたのは、やはり最後でものすごーく高い位置から、男女が手を繋ぎながら落ちてくるというクライマックスシーンでしょうか。
これは『千と千尋の神隠し』の他、最近のあのアニメ映画でもあったクライマックスなんですよね。

既視感がものすごい、物理的に無理があるというツッコミができてしまうという以上に、曲がりなりにも命の危険があるかもしれない姉を探しているシーンなので「そんなことをしている場合?」とも思ってしまうんですよね…。
「好きな人を応援したい」といいうあおいの純粋な気持ちを肯定するのは良いのですが、別の場面でやって欲しかったのが正直なところですね。

あとは、幕切れそのものは素晴らしいのですが、あおいと慎之介が共に本番の演奏をするシーンがなかったということも少し物足りないかも。
前述した通りベースの指づかいにアニメとしてのこだわりを存分に感じたので、最後にも演奏シーンが欲しかったですね。

ネタバレ:あかねの気持ち

姉のあかねが、「もう今日はおふろ入らずに寝よっかー」と言うのは、妹のあおいが大好きだから一緒に寝たい、という以上に本来はズボラな性格であるということを意味している気がするんですよ。
同時に、あかねがあおいのために田舎に残る、家事も何から何まで「しっかりしている」ということは、実は「無理をしている」んじゃないかな、とも思わせるんですよね。
また、あかねは「おおいは本当にあか姉ラブだね〜」と茶化していましたが、逆に言えば「あおいから愛されている」ということを確認したかったんじゃないかなあ…と。それがなかったら、今の自分も肯定しにくかったでしょうか。

事実、「あか姉(私は)みたいになりたくない!」というあおいの言葉に、あかねは力なく笑っていました。
「あおいのため」に選択をしていたあかねにとって、これ以上つらく、またあかねの自分の気持ちそのままの言葉は、なかっただろうな…。

ネタバレ:あおいの気持ち

あおいはしんのになぜかデコピンをしろと命令していました。
なんで唐突にこれを頼んだのかと言うと……後のあおいのセリフでわかりましたね。「優しくされると好きになっちゃう」って
優しくされると好きになっちゃう、だから反対にデコピンというひどい目にあって、自分の恋心を振り払いたいと思っていたんでしょうね。

ネタバレ:ツグの気持ち

みちんこの息子・ツグは、部屋にズケズケと上がり込んでいたあおいに「パンツ見えている」「部屋に上がり込んでくるあおちゃんもどうかと思うけど」と冷静にツッコミを入れていましたが……。
後にツグははあおいのことが好きだとしんのに告白。つまり冷静に見えていたツグは内心ドッキドキだったのかもしれませんね。

ネタバレ:しんのの気持ち

ラスト付近、しんのは後部座席で寝ていた……と見せかけて、明らかに“寝たふり”でしたよね。
そしてあかねに素直な気持ちを伝える慎之介の言葉を聞いて、素直に“成仏”するしんの。
それは、10代の若々しい頃のまっすぐな(好きな人への)気持ちを、(「じじい」と蔑称と呼んでいた)慎之介が取り戻したからなんでしょうね。

ネタバレ:空の青さを知る人よ

「井の中の蛙大海を知らず」ということわざは、「井戸が世界のすべてだと思っていて、大きな海の存在も知らない」、つまりは見識の狭さを表したネガティブな言葉ですが……
そのことわざには「されど空の蒼さを知る」という言葉が“後付け”もされています。
この後付けにより、「狭い世界にいるからこそ、その世界のことをよく知ることができる」という、ポジティブな解釈ができるようになっています。

本作の「空の青さを知る人よ」というタイトルは、盆地にある田舎にいて、そして13年という時を経て、本当に大切な気持ちを知ったあおいの気持ちを示しているのでしょうね。

そんなあおいの最後のセリフは「空がクソ青い」でした。
あおいは慎之介とあかねの本当の気持ちを知り、そして慎之介とあかねが一緒になるという“最良の選択”をすることができた。
しかし、それは同時に自分が大好きなしんの(慎之介)と添い遂げられない、失恋をしてしまうということなんですよね。

つまりは、空の青さ=その選択(世界)の素晴らしさも知ったけれども、結局自分は失恋をしてしまうという理不尽=クソ、だから「空がクソ青い」ということ……これ以上納得できるセリフはないですよね。
思春期の少女の葛藤を帰着させた、見事な幕切れでした。

(C)2019 SORAAO PROJECT

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