『SOMEWHERE』すさんだ生活描写の後に……(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

『SOMEWHERE』すさんだ生活描写の後に……(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

今日の映画感想はSOMEWHEREです。

個人的お気に入り度:8/10

一言感想:自堕落セレブと娘の日常ドラマ

あらすじ

堕落した生活をしているをセレブ俳優ジョニー・マルコ(スティーヴン・ドーフ)のもとに、元妻が預かっていた11歳の娘クレオ(エル・ファニング)がやってくる。
クレオとジョニーは、ともに暮らし、遊ぶ。その生活の中で、ジョニーは「あること」に気付いていく。

「マリーアントワネット」「ロスト・イン・トランスレーション」のソフィア・コッポラ監督の最新作です。

本作の主人公はかわいい娘がいるわお金が無尽蔵にあって使い放題だわのイケメンセレブ男優です。
これだと、そんなやつの日常を描いた映画が面白いのかよ、そんなんに感情移入できるかよ、と思わせるところなのですが・・・
実に感情移入させてくれるんです。
主人公がいけ好かないセレブオヤジなのに、めちゃくちゃ面白いんですよ、この映画!

でもこの映画は、はっきり向き不向きが分かれると思います。

【向いていない人】
・映画に多くの展開を求めている
・すっきりしたわかりやすいストーリーじゃないといやだ
・のんびりして刺激のない展開だと眠ってしまう

【向いている人】
・一人で、心に響く映画を観たい
・綺麗な画をゆったりしたテンポで観たい
・登場人物に感情移入したい
・心理描写を大切している内容がいい
と、いった感じ。
また年齢を重ねるほど思うことのある内容だと思います。

なぜこの向き不向きがあるのかと言えば、この映画はシーンごとの「間」をすごーく長く取っている内容だからです。
正直「このシーン、長っ」と思ってしまった箇所も少なくないです。
退屈だと感じた人にはとことん退屈なのかもしれません。

でも自分は不思議なくらい引き込まれました。
なぜか、それはシーンごとの役者の演技が優れていて、かつ心理描写が抜群に上手いからなのです。
なによりひとつひとつのシーンが美しい。どのシーンを切り取ってもポストカードになりそうな素晴らしさ、ため息がでるくらいです。
それは親子がTVゲームをしているようなシーンでも例外ではありません。全ての画づくりがものすごく丁寧なのです。

そして終盤、ある事実が突きつけられます。
ここで
「必要以上に長いな」と思ったシーンや、
「あのシーンは微妙だったな」と思ったところが
全部必要不可欠のものと思えてくるのです。
これはすごい!
日常描写を淡々と描いているだけの作品なのに、相当に脚本が練られていると気づけるはずです。

なので、「退屈な作品だった」と思った方も、是非観たシーンを思い返してみてください。きっと思うことがあるはずです。

本作に一番近い内容だと思ったのが、邦画の「歩いても歩いても」です。

*ある家族の日常を淡々と描いただけの内容。だけど、この映画も脚本に相当に手がかかっていると思います。
こちらが好きな人は、劇場で観なければ一生後悔するほどの傑作だと思います。

向き不向きがあるとは言いましたが、個人的には是非「テンポのいい映画じゃないとちょっと・・」と思う人にも観てほしいです。
自分は、観終わった後に「シーンをひとつたりともカットしちゃいけない」とさえ思ったのですから!

以下、ネタバレです↓今回は気になるシーンが多すぎたのでめちゃくちゃ長いです。
いきなり結末が書いてあります!

話そのものは超シンプル!だけど……。

さてさて、映画の内容はものすごくシンプルです。

「成功はしていても私生活は退廃的なセレブ俳優は、最愛の娘と過ごしても無味乾燥なままで、かつ自分が何者でもないことに気づく。だから『どこか』へ旅立つ」

本当にこれだけです。

しかし、これでものすごく感動してしまったのだから、この映画の力量ははかりしれません。

それは終盤の
「最愛の娘と過ごしていたけど、俺(ジョニー)は空っぽの人間だった」
という結論に至るまでの経緯が、すごく丁寧に描かれていたたから
だと思います。そのための日常描写であり、映画のほとんどの時間を費やした理由だったのです。

以下からは、順にシーンを観ていきましょう。
書いているだけで、1シーンごとの「深さ」がすごい映画だと思い知らされます。
以下、個人的な勝手な解釈ですので、間違いだ!と指摘できる部分もあると思います。
気をつけてお読みください。

空っぽの人間

・オープニング 同じところを何回も走る黒いフェラーリ
最後に降りてきたのはもちろん主人公のジョニー。彼は日常でやることを見つけられずに、こんな意味のないことをしていたのかもしれません。
ここでタイトルの「SOMEWHERE」を出すセンスにも脱帽です。
彼はこのころから『どこか』に行きたかったのかもしれません。

・ポールダンスをする女性×2
このセクシーシーンが長い上に、後でこの2人がラケットを持ったバージョンで再登場したので、正直なんだこの変な映画は、と思っていました。すみません。
これは後に別の女性とのセックスを繰り返すことへの複線になっていると思います。
また、気になったことがひとつ。
この2人の1回目のダンスの時にはジョニーは心底つまんなさそうにしています。
しかし、2回目ではジョニーは笑っている上に、女性を抱きしめるようとするのです。
これは気分によるものかも、それとも無理をしてやったことなのかもしれません。どちらにしても彼の行いはまるで意味のない、暇つぶしにしかすぎなかったのだと思います。
女性の名前を間違えてしまいますしね(後にも1回そのシーンがある)。

・差出人不明(非通知)のメール。
内容は
「どんだけいやなやつなわけ?」
後には「あんた どうかしている」とも書かれます。
これは誰のもの?
彼は妻もいます。元妻との間に子供もいます。愛人からでしょう。

・骨折したジョニーの腕にはめられたギプス
娘のクレオに名前を書いてもらいます。
しかし終盤、ギプスには多数の名前が刻まれています
ギプスをはずしたときには「臭いから近づけないで~」と言って笑っていたクレオですが・・・ほかにも思っていたことがあったのだと思います。
シャワーシーンでギプスを水につけないようにしているシーンでさえも意味心に見えてしまいます。

・ジョニーが「ついてきている」と言っている黒いSUV
クレオは「よくある車よ」と言っています。
おそらくジョニーはセレブ生活を続けるうちに疑心暗鬼になっていたのだと。
このことも、ジョニーとクレオの生活に陰を落とします。

・クレオのアイススケート
ジョニーはそれを見て感想を言うだけでした。さらに「いつから?」と聞き「3年」とクレオは答えます。
ジョニーは3年もそのことを知り得ていませんでした。
こうした事実が積み重なり、終盤にある台詞となって、吐き出されるのです。

・ジョニーはパーティで「役のために何か努力をしていましたか」と聞かれる
彼は「そういうことはせず、ひたすらオーディションを受けた」と返します。
無名の(おそらくですが)俳優が聞きたかったこととは違うでしょう。
彼が無味乾燥な日々をすごしていたのは、彼自身のせい、もしくは他人に何かを与えなかったからなのかもしれません。

・女優の「レベッカ」との記者会見
「よくもなかったけどね」と言われてしまいます。
ジョニーは少し嫌われているようにも感じます。

・記者会見 「ポストモダン的グローバリズムがどうとか」聞かれたが、ジョニーは答えられない。
後に「知っているイタリア語は?」と聞かれ、簡単な挨拶しか答えられないシーンもありました。
かれは本当に、努力(この場合は勉強)をしない人間だったのかも。
「空っぽ」であることを強調するエピソードです。

・エレベーターで「ボノ」が泊まった部屋だ、と見知らぬ人に教えられる。
もっとジョニーに興味を持って!

・特殊効果のメイクシーン ジョニーは顔にメイクを塗ったくられ、花だけで息をする。
このシーンも長くて気の毒になりました(笑)。
彼はスタッフとの人間関係も「息苦しい」ものだったのかもしれません。

・上着どころか下まで脱ぐ男性マッサージ師
なんだこの変な映画はその2。
でも少し前のパーティのシーンで、「男同士はどんなに愛してあっていても・・・」と話していた人がいました。
彼は同性愛を嫌悪する人間だったのかも。

・TVで放映されている「ガンジー」の功績
言われいるのは「自立」「征服には応じない」
ジョニーがクレオに対する想い、そのままではないでしょうか。

・TVゲーム(ギターヒーロー)をしている娘と父。後ろにはジョニーの友達がいる。
クレオと、ジョニーの友達が仲良さそうにしていて、ジョニーは一人ゲームをする。
クレオとプレイしているときはノリノリだったのに、今度は「こんなの難しすぎる」と言い放ちます。
もちろん本当にゲームが難しかった訳じゃなく、娘へのやきもちでしょう。

・ジョニーは廊下の向かい側の女性と寝る
クレオに「なぜ向かい側にいたの?」と聞かれます。クレオはこの情事のことも知っていたのかも。
後には、金髪の女性とも関係をするジョニー。この女性はなれなれしく、クレオに話をします。さらに、ジョニーも交えて。
さらに後にはベッドに裸の女性(おそらくコールガール)もいて「今日はまずいよ」と言いい、クロエを遠ざけるシーンもありました。
クレオはそんな父、さらに連れてきた女性を嫌悪していたのではないでしょうか。
もうひとつ、序盤にはセックスしようとしたけど、そのまま眠ってしまったジョニーの姿もありました。
前述のポールダンスと同じく、セックスにそんなに興味がないのに、やっていたと示しているものだと思います。
それよりも、もっと大切にするべきものがジョニーにはあったはずなのです。

・「ロムロ」さんの演奏を「最高なんだ」と言ってクロエに聞かせる。
クロエは眠ってしまいます。
クロエはジョニーから「与えられる」ことや、一緒に記者会見に行きドレスを着る・・・そんな生活に疲れていたのかもしれません。

いろんなものを与えるけど……

それでも……ジョニーは色んなものをクレオに与え続けます。
プールを借りて泳ぎ、ジェラートの全部の味を頼み、女性が着ていたターバンをあげて、ラスベガスのカジノへ連れていく・・・
全部「お金」によるのものです。カジノのゲームに負けても気にしません。

また、「名声」でタクシーの運転手の言葉を覆らせたこともありました。
そのジョニーの行動すべては「お金か名声でしか娘を喜ばせれなかった」ということになります。

さらに広い部屋でピアノを弾くジョニー、その横でうなだれているクレオのシーン。
クレオには、もう笑顔はありませんでした。

そして娘が泣きながら言ったのは
「ママはいつ戻るんだろう、しばらく家を空けるとしか言っていない」

クレオはジョニーを突き放したり、目に見えて嫌ってはいません。
母の方に居たい、とも言っていません。
「いつ戻るんだろう」だけなのです

おそらく優しい子なんでしょう。悲しくなって泣いてしまったけど、父を傷つけないように、そう言うしかなかったのかもしれません。
その後にラスベガスに連れていった彼女には笑顔が戻っています。しかし自分はその笑顔には救われませんでした。これも彼女が無理をしているように見えてしまうのです。

キャンプのためにクレオを送り届ける父・ジョニー(は
「そばにいれなくてごめん」と言います。
しかし娘・クレオには聞こえていないように見えます。

でも聞こえなくてよかったのかもしれません。
だって、ほかに、先にあやまるべきこともあったと思うからです。

どこかへ……

そして元妻に電話をするジョニー。
「俺は空っぽだ」「何者でもない」

涙ながらに語る彼の姿は哀れなものでした。
しかし彼女に会うことはできなかった。

「あなたなら大丈夫」と言う。
本当に?
元妻もジョニーのことをわかっていないのかもしれません。

一人でパスタを作って食べるジョニー。

下の階の話し声を聞くジョニー。

彼は孤独です。
そしてホテルをチェックアウト。
黒いフェラーリでどこまでも、遠くへ旅に出ます。

荒野。
黒いフェラーリにキーを指したまま、降りるジョニー。
けたたましいアラーム音が鳴っている、だけど彼は気にとめない。
ここではない『どこか』へ行くのだから


この黒いフェラーリは彼の『悪癖』そのものの象徴に見えて仕方がありませんでした。

終盤、車が故障したシーンも、娘と上手く行かなくなったこととシンクロしていると思います。
最後にはそれを乗り捨てる彼には、笑みが浮かんでいます。
単純なハッピーエンドでも、バッドエンドでもない、心地よい余韻を残してくれました。

救いのあるシーン

作品全体はとてつもなく切ないものでしたが、(個人的に)救いになったシーンがありました。

「飛行機だ!」と言い、クレオを持ち上げて遊ぶシーン。
プールの中で潜って、2人で向かい合って遊ぶシーンです。

彼は「空っぽ」な人間だとは言うけど、ちゃんと、自分の力で娘を喜ばせてあげているじゃないか・・・そう思いました。

クロエはよくニコニコ可愛らしく笑っています。ジョニーもです。
でも水面下では、クロエはジョニーに言えなかったことが鬱積していたの『かも』しれないのです。

この難しい心理描写を、映画は描いているのです。とても、とても自然に。
これは何度でも観たくなる、脚本と監督の感性が合致した非凡な作品です。
素晴らしかった!

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  1. 通りすがり より:

    今日始めてこの映画を見ました。
    共感というか…自分と重なる部分があって最初から最後まで涙が止まらない映画でした。
    どう捉えればいいのか分からない所もあったので分かりやすい解説有り難うございました!

  2. ヒナタカ より:

    コメントありがとうございます。
    >共感というか…自分と重なる部分があって最初から最後まで涙が止まらない映画でした。
    主人公の境遇はけっこう辛いので、そのあたりでも共感を誘うのかもしれません。
    キャラクター造形も見事だったと思います。

  3. 匿名 より:

    ジョージでなくジョニー。
    wiiやってたのはジョニーでなく友人。

  4. ヒナタカ より:

    大変失礼しました。
    ご指摘感謝です。訂正しておきます。

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ヒナタカ

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