『万引き家族』と『幸色のワンルーム』は、似ているようで全然違うという話

『万引き家族』と『幸色のワンルーム』は、似ているようで全然違うという話

公開中の『万引き家族』はカンヌ国際映画祭で日本映画では21年ぶりとなるパルムドールを受賞しました。
日本でも大絶賛を持って迎えられ、その評判も手伝って興行収入は2週連続で1位を記録する大ヒットを遂げています。
実際に本編を観ても素晴らしい映画なのですが……残念ながら本作には批判的な意見、ネガティブなイメージも少し先行してしまっているようです。

『万引き家族』は観てないけど犯罪を正当化してるから最低、と主張する人達+α – Togetter

いや、『万引き家族』はそういう映画じゃないから、というのは以下の記事にも書きました↓
『万引き家族』モラルに問題のない3つの理由(ワケ) | シネマズ by 松竹

要するに自分が言いたいのは

  • 『万引き家族』というストレートで過激とも言えるタイトルは、宣伝目的という側面が大きいからあまり気にしないほうが良いよ
  • 是枝裕和監督の作家性を考えれば、そんな恣意的に印象を操作したりすることはない。観る人が客観的に問題を考えられるようになっているよ
  • ネタバレなしだとモラルに問題のない理由が言いづらいんだよなあ…

ということです。もっと端的に言えば映画本編を観れば犯罪を美化していないのは明らかなので、批判は観てから言ってほしいということですね。いや、まあ表面的な情報だけで嫌悪感や否定的な感想を持ってしまうのも、ある程度は仕方がないとも思うけど。

『幸色のワンルーム』の問題点とは

そんな『万引き家族』との類似点を指摘されながらも、明らかにモラル的な問題を抱えていると思しき作品も存在しています。それは、マンガ作品の『幸色のワンルーム』です。

※こちらから結構な分量が読めます↓
幸色のワンルーム – pixivコミック | 無料連載マンガ

※『万引き家族』と比べられ、実際に議論を呼びました↓
犯罪の正当化?「幸色のワンルーム」ドラマ化で再び議論。では「万引き家族」は… – Togetter

『幸色のワンルーム』の何が問題であるのか、端的にまとめれば実際に起こった女子中学生の監禁事件をどうしても連想させる上に、その事件の発覚時にネットで散見された「こうだったら良いのに」という想像でしかない意見と同様の恣意的に事件を解釈したとも取れてしまう“誘拐犯と被害者のラブストーリー”になっているからです。

監禁事件発覚当時、「女子中学生はなぜ逃げなかったのか」ということが話題になり、それに即した勝手な憶測や想像での発言が被害者を傷つけている(セカンドレイプ)のではないかと非難されていました。この『幸色のワンルーム』はその勝手な憶測や想像に近いものになっていることが問題、というわけです。

ちなみに作者さんは「完全にフィクション」「この漫画は実際の犯罪を肯定するものではありません」と返答しています。(これは事件の初公判が行われた9月27日の発言。おそらく日付はたまたまで、Twitterでの意見に反応しただけでしょう)
フィクションであり実際の犯罪も肯定してはいないことは本当でしょうが、実際の事件を意識していないということはあり得ないでしょう。
監禁事件の発覚からわずか数ヶ月後に投稿されるというタイミングも含め、物語を不快に思う人物がいる、という思慮に欠いていると言わざるを得ません。

そして、上の記事でも書きましたが、『万引き家族』で是枝監督は「幸せな家族のカタチ」を提示しないという最低限のモラルを持っていた一方で、『幸色のワンルーム』は思い切り「幸せな家族のカタチ」を提示してしまっているんですよね。

※「幸せな家族のカタチ」を提示しない、という是枝監督のモラルについては以下のインタビューもご参考に↓
21年ぶりのパルムドール『万引き家族』 是枝監督に聞く、“家族の絆”の居心地悪さの正体 – Peachy – ライブドアニュース

『幸色のワンルーム』の主人公2人はモラルについて自問自答はしているのですが、その考え方を持って「誘拐犯と被害者の2人だけであれば幸せである」と、恣意的に読む人を導いているのです。
その「閉じられた世界での幸せ」というのは、『幸色のワンルーム』というタイトルにも表れているし……(完結していない作品であり、「最終的には幸せにはならない」という風にもなるのかもしれませんが)。

テレビドラマ化は無謀だったのでは?

『幸色のワンルーム』でさらに問題となるのは、テレビドラマ化がされることでしょう。
映画という媒体では、その1作品だけで物語が完結し、犯罪を行った者が因果応報的に裁かれることなどで“犯罪を正当化していない”ことが理解できますが、一定の物語の区切りがあるドラマではそうはいきません。
“観たい人が観れば良い”な劇場で観る映画とは違って、深夜帯とは言え“誰でも観てしまう”地上波放送であることも、無視はできないでしょう。

実際に『幸色のワンルーム』ドラマのTwitterには、放送前から批判が殺到している状態です。すでにBPOにも問い合わせている方も多く、これはお蔵入りになってもおかしくないんじゃ……。

※追記:関東のみですが放送が取りやめになりました。問題は「誘拐を肯定」以外のところにもあると思うんだけど…↓
「誘拐肯定では」指摘受けたドラマ テレ朝放送取りやめ(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース

個人的な提案なのですが、テレビドラマ版の1話では「誘拐犯のお兄さんが逮捕され断罪される」という終幕を初めに示しておいて、そこから時間を遡ればいいんじゃないでしょうか。ネタバレと言えばネタバレだけど、それだけで犯罪・誘拐を美化していないことは、まあ伝わるとは思います。(映画『八日目の蝉』がそういう構成でした)

原作から思い切った改変をすれば、ドラマ版が受け入れられる内容になることも不可能ではないでしょうし、大傑作映画『ミスミソウ』で最高の存在感&演技をされた山田杏奈さん主演で、上杉柊平さんも実力のある役者さんなので、期待はしています。応援もしたいのですが…。

子供が憧れませんように…

「表現の自由は守られるべきではないか」という意見もあるでしょう。
しかし、フィクションなら何をやっても良い、というわけでもありません。特定の誰かを深く傷けてしまう、過度に読む人の不快感を煽ってしまうことは、創作において最も避けなければいけないことです。
『幸色のワンルーム』のもう1つの問題点は、その創作物において避けなければいけないことを、ほぼ「犯罪の当事者が自問自答する」という方法のみに留めていることです。

『万引き家族』では(ネタバレになるので詳しくは書けませんが)犯罪を繰り返したことに対する辛苦やしっぺ返しがあり、それでいて恣意的に観客の考えを誘導することはなく、第三者のフラットな視点も持ち込んでいます。そのため、実際に万引きの被害にあった方であっても、十分に溜飲を下げることができるはずです。

また、『幸色のワンルーム』では犯人のお兄さんが「イケメンで」「不遇だけど」「良い人」として描かれるので、読んだ子どもがこういう状況に憧れないかと本気で心配になります…。
(フィクションの中での)犯罪そのものの正当化と言われてもしょうがない、「これなら誘拐されても良いという価値観」を提示してしまっているので、実際の犯罪に繋がってしまう可能性もないとは言えません。
主人公2人の関係は誘拐犯と被害者という以外にも共依存であり危険なんだけど、それも否定的には描いていないんだよなあ…。

個人的に、『幸色のワンルーム』はモラル云々を置いておいて、そもそも作品として好きになれないというのが正直なところです。
展開にはリアリティもなく、事件に直接関わらない“第三者の視点”も残念ながら欠けていて、虐待の事実も記号的すぎて不自然、極端すぎる境遇や考え方も悪い意味で人間離れした不気味さを覚えます。
実際に起こった事件を入念にリサーチして、セットや人物設定に恐ろしいほどのリアリティがある『万引き家族』とは……申し訳ないですが、そこも比べてしまうところが多々ありました。

誘拐を断罪する大傑作映画『ブリグズビー・ベア』を観よう!

個人的にはやはり「誘拐というその行為自体は絶対に許されることではない!」と断罪する(もしくは決して正当化しない)作品のほうが好きです。(『万引き家族』も誘拐・犯罪を、少なくとも「悪いこと」として描いています)
以下の監禁・失踪を扱った映画も大方はそうで、モラル面も十分に配慮されていました↓
独断と偏見!監禁・失踪映画ベスト10! | シネマズ by 松竹

そして、6月23日より、赤ん坊の頃から25年間に渡り監禁され、謎の教育番組を見せ続けられた青年を主人公にした映画『ブリグズビー・ベア』が公開されます。
これがねえ…もうとんでもない大傑作なのですよ!映画が少しでも好きな方であれば大号泣ものなんですよ!

しかも誘拐犯を演じるのはマーク・ハミルだったりする。『スター・ウォーズ』シリーズのルーク・スカイウォーカー(主人公)に何をやらせてんだ!
作中でのこの誘拐犯の扱いは「絶対に許されない」で揺るぎません。こんな役を演じてくれるマーク・ハミルはいい人なんだろうなあ……。

また、『ブリグズビー・ベア』は『万引き家族』を観た後だとまた違う視点が生まれると思います。
『万引き家族』は良い意味で二元論に分けずに観客に判断を委ねるのですが、『ブリグズビー・ベア』は明確なある答えを用意してくれているんですよね……。

いずれにせよ、フィクションでくらい、誘拐された被害者が救われて欲しいなあ…と自分は思います。
映画をはじめとした物語作品は誰かを救う力ある、そのことを信じていますよ。

※破壊屋さんのわかりやすい記事。オチに大笑いした↓
見出しだけで善悪を判断する人たちと『万引き家族』 – 破壊屋ブログ

上映劇場が少ないなあ…↓
映画『ブリグズビー・ベア』公式サイト

※(追記)『ブリグズビー・ベア』の解説記事↓
『ブリグズビー・ベア』が大傑作である5つの理由!『スター・ウォーズ』のあの人が誘拐犯にキャスティングされた理由とは? | シネマズ by 松竹

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  1. tucalle より:

    hinataka, thanks so much for the post.Really thank you! Keep writing.

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