映画『式日』レビュー|庵野秀明監督のねらいと『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と合わせて観るべき理由とは

映画『式日』レビュー|庵野秀明監督のねらいと『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と合わせて観るべき理由とは

シン・エヴァンゲリオン劇場版』を観ました……!

本作については、何をどう言おうがネタバレ、なんなら良かったか悪かったかという印象を言うことすらある意味ネタバレというとんでもないことになっています。
なぜかと言えば、『エヴァンゲリオン』のテレビアニメ版、旧劇版(Air/まごころを、君に)のラストがあまりにアレでアレだったから……(観ればアレとはどういうことなのかきっとわかります)。
何が起こるのかがわからないのが『エヴァンゲリオン』、だからこそ観る前のネタバレは厳禁であり、通常の映画よりもはるかにネタバレの範囲が広いというわけです。

そんな『シン・エヴァンゲリオン劇場版』への溢れんばかりの感情は、以下のメディアの記事で記しました。

エヴァが嫌いだった僕が、大好きになるまで。|『シン・エヴァンゲリオン劇場版』レビュー | cinemas PLUS
※ネタバレなしですが、印象は語っているので注意。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』もっと面白くなる「5つ」のポイント解説(※後半ネタバレ全開!) | cinemas PLUS
3ページ目からネタバレ全開注意!1ページはネタバレなしで(印象も書いているけど)「合わせて観ておくべき作品一覧」も記しています。

<以下も追記!>
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』4DX版レビュー|楽しいのは戦闘シーンだけじゃなかった! | cinemas PLUS
※2ページ目4DXの演出の微ネタバレ注意

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はいかに「オタクの呪縛」と向き合ったのか<ネタバレ注意> | ハーバー・ビジネス・オンライン
※初めからネタバレ全開注意!

また、しのさんと熱く語り合ったラジオ感想もアップしてみました。


※画像が変わらない音声のみのレビューです。言うまでもなく、初めからネタバレ全開注意。

ここから本題、庵野秀明監督が2000年に発表した『式日』を、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と合わせて観て欲しいのです。
なぜかと言えば、それでこそのものすごい感動があるからなんですよ……!


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『式日』がいかなる作品なのかを解説したレビューと合わせて、その感動の理由を、以下に記していきましょう。
以下からは『式日』の内容に軽く触れています。ネタバレというほどのものじゃないと思いますが、予備知識なく観たい方は先に『式日』本編をご覧ください。
そして、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の明確なネタバレはしていませんが、少しだけその内容を示唆させる内容となっています。シンエヴァ本編をご覧になってから読むことをおすすめします↓

『式日』レビュー:庵野監督自身とファンの関係を投影した、現実逃避の物語だった

『式日』は、庵野秀明監督の美学や価値観が深く広く表れた作品です。

精神的に不安定な女性と、彼女のことを気にかけている男という関係性がまず『エヴァンゲリオン』らしくもあるし、その他にも後述する重なる要素が数多くあるのですから。
劇中ではそんな2人のぬるま湯に浸かったような、怠惰な日常をひたすらに綴ります。
“映像”や“現実逃避”にまつわる哲学的な考察が織り込まれており、それが不思議と心地よくもあリます。

だけど、「○日目 ○日前」とたびたび表示されるように、その日常はやがて終わりを迎えることもわかりきっています。
冒頭で表示される「once upon a time(或る時)」は「昔々……」というおとぎ話の常套句ですが、本作はまさに庵野監督流の、期限付きのおとぎ話なのですから。

間違いなく、劇中で岩井俊二演じる“カントク”は、庵野監督自身の投影です。
カントクは映像作家として成功を収めていたようですが、「本当はねえ、実写もやりたかったんだよ」とも語っています。
その後も彼は「映像、特にアニメーションは個人や集団の妄想の具現化……」「実写映像ですら現実を伴わない……」などと、映像そのものに対する、ある種の冷徹さを含んだ哲学的な考察をしていたりもします。

その庵野監督は、1990年代に『エヴァンゲリオン』のテレビアニメ版で社会現象を巻き起こしたものの、その最終回はファンを突き放したかの内容で賛否両論を呼びました(あの最終回はシンジの心理を全部説明しているとも言えるので、ある意味でわかりやすいのですが)。

そして旧劇場版こと『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』では、作品を観る側の視点を、実写映像でメタフィクション的に表現した演出があり、それはほとんどファンへの悪意とも解釈できてしまうものでした。

良くも悪くも受け手に議論を巻き起こした庵野監督は、その後に『式日』をはじめ『ラブ&ポップ』(1998)や『キューティーハニー』(2004)など実写作品に進出しています。

つまり、現実の庵野監督がアニメという媒体を用いて哲学的な価値観を提示し、それが受け手側に議論を巻き起させたこと、その後に実写作品を手がけるようになったことが、『式日』の劇中のカントクの姿と一致しているのです。

藤谷文子演じる“彼女”も、庵野監督のファンのメタファーと考えてもいいでしょう。
カントクが彼女を気にかけるも、時にはうっとうしく感じたり、冷ややかな態度を取るという心理も、庵野監督がファンに抱いている矛盾した感情そのものに思えるのです。

さらに、『式日』のロケ地および舞台は庵野監督の出身地である山口県宇部市であり、工場の風景が数多く映っています。
彼は実際に工場付近で育ち、今でも工場や鉄の塊が好きでしょうがなく、『エヴァンゲリオン』や『彼氏彼女の事情』ではそれに通じる電柱や電線といったモチーフを多数登場させています。どこか退廃的でもの悲しげにも見える光景そのものも、庵野監督が愛してやまないものなのです。

さらに、その『式日』における主人公2人が、現実逃避をし続けていた、ということも重要です。

彼女は“毎日”「明日は私の誕生日なの」とカントクに訴えます。
もちろん、現実には毎日が誕生日なんてことはあり得ません。
彼女は「毎日が誕生日のような特別な日だったらいいのに」という現実逃避をしていたのです。

カントクも、映像作家としての仕事があるはずなのに、彼女と一緒にぬるま湯のような怠惰な日常に耽溺している、現実逃避の真っ最中です。
転じて、劇中でカントクが撮る映像も、現実の庵野監督が作る『エヴァンゲリオン』を始めとしたアニメ作品も、受け手にとっての現実逃避の手段と解釈できるでしょう。

その現実逃避は人間の精神を正常に保つためには必要なこと、良いことも言えますが、ずっと現実逃避をしたままではいられるはずがありません。最終的には「現実に戻ろう」という考えを、庵野監督は確実に持っています
この『式日』の物語もそういう着地とも言えますし、『エヴァンゲリオン』の旧劇場版もやはり「(アニメばかりに夢中にならずに)現実に戻ろう」という庵野監督の意思の表明のように解釈できるものでした。

そして……『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で、この『式日』がどういう意味を持つのか?については、先ほども挙げた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』もっと面白くなる「5つ」のポイント解説(※後半ネタバレ全開!)の記事の5ページ目に記しましたので、ぜひお読みください。もちろん、シンエヴァ本編のネタバレ全開です

………おわかりいただけたでしょうか。
総じて、庵野監督は、ファンの気持ちをとても考えてしまう、むしろ考えすぎてしまうほどの作家であり、そのことが『シン・エヴァンゲリオン新劇場版』でも全開だったのです。

さらに付け加えて言うのであれば、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の以前のポスターでは、鉄道のレールが映っていたんですよね。

このレールの「分岐が2つある」ということは、「今回の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は、テレビアニメ版の最終2話、旧劇場版とは、違うルートをシンジが通りますよ」という暗示でしょう。
そして、先ほどの記事内で書いた通り、『式日』では鉄道のレールについて、「自分で道を選ばなくてもいい感じ」「2本で1つだから」と“レールが好きな理由”も語られていたため、このポスターのさらなる深読みができたというわけです。(また、シンジは「現実逃避」のために、「電車」に乗っていたこともありましたね)
で……実際の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』本編では、シンジがどのレールの上を歩くのかと思っていると……なるほど、そう来たかぁあああああ!という感動があるというわけなんですよ!

そして、『シン・エヴァンゲリオン新劇場版』では、旧劇場版とは正反対とも言える、とても「優しい」形で、ファンへのメッセージを送っているんですよね……。
そのことがよりわかるからこそ、『式日』を『シン・エヴァンゲリオン新劇場版』と合わせて観てほしいのです。

ちなみに、妻の安野モヨコによるエッセイ『監督不行届』の最後に収録されている庵野監督の言葉では、「嫁さんのマンガのすごいところは、マンガを現実からの逃避場所にしていないことなんですよ」などと褒めていたりもするんですよね。これを読めば、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』および『式日』で描いたことが、より明確にわかると思うます。

さらに余談ですが、『式日』のタイトルにある式日(儀式を行う日)を、“作品の解禁日(映画の公開日)”と考えてみても面白いです。
彼女が毎日「明日は私の誕生日なの」と訴えることは、作品が観られる日を今か今かと待ちかねているファンの心理そのものかもしれないんですよね。
いうまでもなく、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』までにファンはものすごーく待たされ、公開日もコロナの影響もあって何度も「また今度」になっていたんですよね。

ようやく、庵野監督の本当の気持ちがわかって、良かったです。
そのことに、今一度感謝を申し上げます。ありがとう、そしてさようなら、すべてのエヴァンゲリオン。

(C)カラー

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