『聖の青春』映画でしかできない“対比”とは?(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

『聖の青春』映画でしかできない“対比”とは?(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

今日の映画感想は聖の青春です。

個人的お気に入り度:7/10

一言感想:東出昌浩はヒロインです!

あらすじ

若き棋士・村山聖(松山ケンイチ)は幼いことからネフローゼという病に苦しんでいた。
将棋に全人生を賭けた村山は、やがて最大のライバルである天才・羽生善治(東出昌浩)と対決する。
聖の師匠である森信雄(リリー・フランキー)や、弟弟子の江川(染谷将太)は村山を気遣うが……

『ひゃくはち』『宇宙兄弟』の森義隆監督最新作であり、同名のノンフィクション本を原作とした映画です。

本作の魅力については以下にも書きました。
『聖の青春』はラブストーリーだった!?東出昌大がヒロインである理由を考える | シネマズ by 松竹

要するに松山ケンイチがツンデレな性格で、大好きな東出昌浩にアプローチをかけまくるという素敵なラブストーリーになっているんですよ(皮肉なしでマジ)!
もちろん、20キロの増量をした松山ケンイチ、一挙一動が羽生善治にしか見えない東出昌大の存在感そのもの、演技もすんばらしいです。
主演2人のファンであったら、是が非でも観ないといけませんね。

素晴らしいのは、対局シーンの演出。「音」へのこだりもあいまって、抜群の緊張感が生まれていました。
そして、映画でしかできない「画の対比」もめっちゃよくできています。↓のネタバレありの部分では、この点についてたっぷり書きます。

事実を脚色した作品である。

上の記事でも書きましたが、主人公の棋士・村山聖は原作本よりもかなーりイヤなやつになっています。
これが賛否ありそうなところですが、むしろ自分はこの点が大好き。
終盤にはこの性格の悪さが活きてくる「成長」が描かれていますし、その脚色こそがドラマを生んでいるのですから。

実際の人物を描いた映画には
(1)事実をほぼ脚色せずにそのまま描く
(2)事実を大胆に脚色して、映画としてのおもしろさを追求する
という大きくわけて2つのパターンがあるのですが、自分は後者のほうが好み。

事実を歪曲してしまうことを良しとはしない方もいるでしょうが、そうした脚色のためにテーマ性やメッセージが濃密になるのであれば、それは歓迎すべきことであるでしょう。

また、本作の批判意見には、それぞれの対局の重要性がわかりづいらいということもありました。
個人的には、それは「目の前の一手」のみを見ていた主人公の気持ちをすくい上げたたために、あえて説明をしなかったのと納得できました。

映画『イタズラなKiss』がすごかった(いろんな意味で)

ちなみに、本作の劇中には少女マンガの『イタズラなKiss』が登場します。

なんでこの作品が登場したのか?と言えば、上の記事で書いた通り、主役のツンデレっぷりを示すためと信じて疑いませんね(それだけじゃないけど)。
で、せっかくなので、本作の1週間後に公開された映画『イタズラなKiss THE MOVIE ハイスクール編』も観てきましたよ!

『聖の青春』と『イタズラなKiss THE MOVIE』は配給会社が違うのですが、このタイミングでの公開は何かしらのお金の動きがあったと邪推してしまいます(たぶん偶然だけど)。

まあ正直、こちらは大人の観客にはあまりおすすめできません。個人的なお気に入り度で言うと3/10くらいです。

ツラいのは「ヒロインが振られた事実を全校生徒がつぎつぎにあざけ笑う」といったような、現実ではありえない演出や展開が続くこと。こういうのが実写映画にあると、作品に入り込みにくくなるのです。
次回作(全3部作)の布石にしかならないシーンがあったり、終盤でエピソードがぶった切られたり、主役二人の恋路よりも石塚英彦と陣内孝則がイチャイチャしているほうが気になるのもどうかと。
若手役者陣はマンガなキャラをとても熱心に演じていますし、伝えている内容やメッセージはとても尊いものですし、ベタベタな少女マンガ的展開は楽しいので、小中高生にはおすすめできるんですけどね。

でも、『聖の青春』の主人公の「なかなか伝えたいことがあるのになかなか素直に言えない」気持ちとは間違いなくシンクロしている作品でもあるので、こちらを続けて観てみるととっても楽しめるかもしれませんよ?(疑問系)

以下は結末を含めてネタバレです。鑑賞後にご覧ください↓

映画だけだとわかりにくいところ

村山の部屋で、蛇口から水滴がポトポトと垂れているのは、原作ノンフィクション本では「村山は体力の回復のためにずっと寝ていた。その間は水滴の音を聞くことを、生きている証明として感じていた」と語られていました。

そのほか、村山は病院から再検査の留守番電話を聞いているのに、おしっこをペットボトルに溜めてまた寝るという人としてアレに見える行為もしていました。
でも、このおしっこinペットボトルも、原作ではネフローゼの症状により起き上がることもできなかった時の手段として語られています。いや、映画ではアレな行為にしか見えないけど。

見ているものの対比

中盤の村山と羽生との対局にて、2人が休憩したとき……。
村山は、トイレの手洗い場にて、鏡の前で息をついていました。
一方で、羽生は雪の降る庭にいた、かわいい猫を見ていました。

この対比は、
村山は「自分と向き合う」だけで精一杯。
羽生は、この対局に余裕がある、人生で残された時間も十分にあるから、「ほかのものも見る」ことができる。
ということを示しているのでしょう。

この対局の前に、上空をたくさんのツルが飛んでいて、2羽だけが水面に降りるているという画を挟むのもうまいですね。
言うまでもなく、これはたくさんの棋士の中から選ばれた、村山と羽生だけが、この「勝負の場所」にいることを示しています。

羽生の見ていた海

もう1つ、重要になっている「対比」の画があります。

序盤の対局では、“いきつけの食堂”や“激安スーパー玉出”などの、村山が慣れ親しんだ大阪の光景が映し出されていました。
これは、村山が対局中に希(こいねが)ったことを考えて差し支えないでしょう。

しかし、終盤の対局では、いま目の前にいる羽生と過去にしていた、食堂での会話を思い出しています。

村山「ぼくたちは、どうして将棋を選んだんでしょうか」
羽生「さあ。ただ、わたしは今日、あなたに負けて、死にたいほど悔しい」
村山「負けたくない……」
羽生「そう、それがすべてだと思います」

この会話を思い出したということは、村山が最後の対局において、ただ「負けたくない」という、羽生とまったく同じことを考えていた、と捉えるべきでしょう。

また、村山は食堂での会話で「羽生さんの見ている海は、みんなとは違う」とも言っていました。
最後の対局で、村山が羽生と同じこと(負けたくないということだけ)を考えていたということは、まさにその羽生の見ていた海を、村山も見ることができた、ということでしょう。

そうそう、村山は序盤にバーで、「すぐ話題を変えてしまう」ことを怒られていましたが、食堂で羽生が言った「負けて悔しい」ということも、わりと直前の内容から飛躍した内容ですよね。
こういうところで、本質的に村山と羽生が似ているところを示しているのも、大好きです。

超萌える会話

あ、そうそう、この食堂の会話で一番萌えるのは以下ですよね(異論は認める)。

村山「羽生さんはマンガ……少女マンガを読みますか。『イタキス』とか。知りません?イタキス。」
羽生「知りませんねえ」
村山「麻雀とかは」
羽生「しません。あ、でもチェスならします」
村山「僕はしないです」
羽生「趣味、合いませんねえ(ニコニコ)」

確かにお前ら趣味は合ってないけど、目指しているものは同じなんだから付き合っちゃえよ。

なお、原作ノンフィクション本では、村山と羽生は好きな映画の話などができており、ちゃんと趣味も合っていたことが書かれています。
映画でこの脚色がされていたことも大好きですね。

すっきりした

村山が、将棋界にいられなくなった弟弟子(染谷将太)を侮辱するシーンは辛かったですね……。
将棋しかなかった、しかもこれから死に向かっていく村山にとって、将棋をやめても「いい経験ができましたよ」と肯定している弟弟子は、嫉妬の対象だったのでしょう。

だけど、睾丸を摘出した村山は「もうこれでアダルトビデオもいりません。すっきりしました」と言っていました。
この「すっきりした」というのは、将棋界で生きられなくなった弟弟子も言っていたことなんですよね。
こういうところで、しっかり村山の考え方が変化したことがわかるんです。

想像を超える

村山は「神様は、いつもぼくの想像を超えてくる」と口にしていました。
村山はもともと「牛丼は吉野家じゃないと意味がない」などと、こだわりが強く、よく「決めつけ」もしていたのですが、やはりその決めつけを超えてくることはあります。
絶対に話しかけて来ないと思っていた食堂の店主がサインを求めたりすることだって、あるのですから。

彼は、その「想像を超えてくる」神様を恨んだところもあるのでしょう。
自分を病気にさせ、未来を奪うのですから。
彼がアンケート用紙に「神様除去」と書いたことは、とても切なかったです。

でも、彼の生涯が将棋界に多大な功績を残したことも事実。
彼が病気であったために、将棋と出会い、その生涯が短かったからこそ将棋で強くなれたー。
その運命は皮肉的でもありますが、とても尊い生き様でした。

(C)2016「聖の青春」製作委員会
(C)「イタズラなKiss THE MOVIE」製作委員会 (C)多田かおる/ミナトプロ・エムズ

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  1. 毒親育ち より:

    生きている!生きた!という村山聖先生の人生、太過ぎです!!

    >一言感想:東出昌浩はヒロインです!
    あの居酒屋デートはステキ過ぎました!

    >20キロの増量をした松山ケンイチ、一挙一動が羽生善治にしか見えない東出昌大の存在感そのもの、演技もすんばらしいです。
    それもただ太ったのでなく、あの顔のフクフクぶり・・・特殊メイクアーティストの人達の悲鳴が聞こえてきそうです!

    >素晴らしいのは、対局シーンの演出。「音」へのこだりもあいまって、抜群の緊張感が生まれていました。
    あの「パチン!」は久々に将棋差したくなりましたよ!

    >事実を脚色した作品である。
    関係者どころか登場人物の多くがまだご存命の作品だというのに!許可してくれた故村山聖先生を愛した関係者の皆様に感謝します!

    >映画『イタズラなKiss』がすごかった(いろんな意味で)
    少女漫画好きなのはロマンティックな恋をしてみたいけど自分は短命だろうから・・・というのが凄く切なかったです。本屋のお姉さんはオリジナルヒロインなのかもしれませんが、あの淡い片思いも最高でした!乙女だよ・・・村山先生!

    >映画だけだとわかりにくいところ
    >原作ではネフローゼの症状
    短い寿命を生き抜きたい。一秒でも将棋に費やしたいと。難病を患っているのにあえて不摂生な食生活をいしたり、治療を拒んでいたけど、それでも延命の為に手術に踏み切る所とか、太く短い人生・・・だけど生きたかったという感じが切なかったです。

    >すっきりした
    弟弟子を演じた染谷将太さんも怒っているんだけど、兄弟子の辛さも解っているだけに・・・という感じがたまらなかったです。

  2. いいこま より:

    漸く観てきました。原作未読ですし実際の村山名人がどんな人だったかあまり知らない(とはいえ羽生名人が名前を挙げたことで一時期関心を抱いて調べたのである程度知ってますが。その羽生名人の場合そこそこイメージは付きます)ものの、とりあえず「すごくいい作品に巡り合えたな」と感じます。
    >要するに松山ケンイチがツンデレな性格で、大好きな東出昌大にアプローチをかけまくるという素敵なラブストーリーになっているんですよ(皮肉なしでマジ)!
    >>実際の村山名人が羽生名人に拘ってたという背景あってとはいえ、これが「ラブストーリー」と形容されるのもわかりますw
    最終的に有り得ない大落手をして敗北といういわば「失恋」みたいな結末になったものの村山名人本人にとってはきっと胸のつかえが取れてたものと信じたいところです…。
    >もちろん、20キロの増量をした松山ケンイチ、一挙一動が羽生善治にしか見えない東出昌大の存在感そのもの、演技もすんばらしいです。
    >>松山さんはそこそこ恵まれてる作品もある(東出さんの義父と共演した『怒り』とか)のでともかくとして東出さんは近年はあまり作品に恵まれてない感があっただけに漸くという感じです。
    とにかくどちらも実際の村山名人や羽生名人にしか見えなかったので天晴れです。
    >事実を歪曲してしまうことを良しとはしない方もいるでしょうが、そうした脚色のためにテーマ性やメッセージが濃密になるのであれば、それは歓迎すべきことであるでしょう。
    >>自分は基本どちらかといえば事実は極力脚色せず描いてほしい口なのですがこの作品の場合「性格的に嫌な奴だけどそれは将棋しかなくそして弟弟子や羽生名人と違って残された時間が限られてるからこその『覚悟』『執念』なのかもしれない」と村山名人に対して感じたこともあって「脚色してるけどそれでいい!」って感じましたしフィクションと割り切って脚色して正解だと思いました。
    また羽生名人に関しても東出さんが「実際の羽生さんは芯からの勝負師だから『あなたに負けて死ぬほど悔しい』ということはないけど名台詞だと思ってます」と述べてたことに個人的に同意できたのでその意味でも脚色の意味はあったのだろうと感じています(あのくだりは好きですし、また作品と離れますが松岡修造さんが負けても悔しくなくなったことに気づいてプロテニス選手を引退したことを観賞後に思い出して「そう言う思いを抱いてこそなのかも」と感じたもので)。
    ついでに言えば阪神淡路大震災で弟弟子を喪ったことで村山名人はその翌日に強制入院させられ森名人は自分がアパートを勧めた所為でと自責の念に駆られ弟子を取るのをやめようかと考えるほどショックを受けたくだりが省かれてますが作品の方向的にそれで良かったのかも知れないと個人的に感じました。
    >そのほか、村山は病院から再検査の留守番電話を聞いているのに、おしっこをペットボトルに溜めてまた寝るという人としてアレに見える行為もしていました。
    でも、このおしっこinペットボトルも、原作ではネフローゼの症状により起き上がることもできなかった時の手段として語られています。いや、映画ではアレな行為にしか見えないけど。
    >>説明されなかったらホント出不精みたいな感じですがその後のペットボトルの中の血尿で「病は日々悪化していって残された日々が長くない」ことが感じられてしまいました。
    >村山名人と羽生名人の対比
    >>個人的にもそこのところが好きなところですしそして「その対比があったからこそこの二人だけが理解できる世界観というものが編み出されたのだろう」って感じました。
    また食堂の会話での趣味の合わなさもまた「対称的な二人だからこそ」「これってラブコメの主人公とヒロインの王道じゃないか?」って感じで大好きなところです。
    あとちょくちょく大阪で活動することもある身なので村山名人が大阪の風景を思い浮かべていたであろうくだり(特にJR環状線)は既視感という意味でも個人的にツボでした。
    >睾丸を摘出した村山は「もうこれでアダルトビデオもいりません。すっきりしました」と言っていました。
    この「すっきりした」というのは、将棋界で生きられなくなった弟弟子も言っていたことなんですよね。
    こういうところで、しっかり村山の考え方が変化したことがわかるんです。
    >>「もしかしたら『やっと羽生さんとまた対局できる機会が得られてよかった』と胸のつかえが取れたからかな」と個人的に推測してみたりもしてましたが、なんにせよそれまでの彼だったら絶対言わなさそうですしねえ。
    >関係者どころか登場人物の多くがまだご存命の作品だというのに!許可してくれた故村山聖先生を愛した関係者の皆様に感謝します!
    >>それだけ愛されたという裏返しなのかもしれませんがホント冥利に尽きますよ…!

    なんにせよ、「全身全霊」「命を燃やして」という言葉は村山名人のためにあるような言葉だと感じさせてくれる映画だと感じました。
    自分には村山名人の様にはいかないかも知れませんし長く生きようとする方を選ぶでしょうし村山名人の域様が必ずしも正解とは限りませんがそれでもそういう生きざまをしたのは自分にとって何処か羨ましくも思えてしまうところです。

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著者

ヒナタカ

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