
映画『貞子』真に怖いのはユーチューバー?(ネタバレなし+ネタバレ感想)
今日の映画感想は『貞子』です。
個人的お気に入り度:5/10
一言感想:ちゃんとしているけど後半失速
あらすじ
貞子がYouTubeもある現代に蘇ります。
1998年の『リング』から脈々と続く、“貞子”を恐怖の対象としたホラーシリーズの最新作です。
今では貞子はポップアイコン化している存在でもありますが、21年前の『リング』は本当に怖かったんですよ…。
結論から言えば、今回の『貞子』はしっかり恐怖描写を推したストレートなホラーになっていると共に、現代らしくユーチューバーの文化も取り入れた、そこそこ以上には“ちゃんとした”作品に仕上がっていました。不満もめっちゃ多いけど。
「しっかりもののお姉ちゃん」と「ダメなユーチューバーの弟」との関係性が尊いよ!
本作『貞子』で身につまされた……というか大いに感情移入してしまったのは、主人公のしっかりものの臨床心理士のお姉ちゃんが、ダメなユーチューバーの弟を心配しまくるというメインのプロットですね。
いやもう、いいじゃないですか、この関係性……弟姉の組み合わせのホラー映画ということで『ジーパーズ・クリーパーズ』も思い出しました。
※スピルバーグ監督の『激突!』のオマージュも面白い作品。後半から良くも悪くも「えぇ…」な感じになるけど。
そして、想像してみてくだい……お姉ちゃんが子供たちが集まって大はしゃぎしながら観ているタブレットを覗き込むと、そのバカやってる動画のユーチューバーが弟だったということを……そしてその弟に再会してみると「俺ユーチューバーになる!学校もやめた!」と言う様を……(しかも学校の学費はお姉ちゃんが払っていた)。
これお姉ちゃんの立場だったらいたたまれないよ……個人的にそれは貞子よりも怖いですよ。
そのユーチューバーの動画がまた「寒さが尋常じゃない」感がリアルですごい、呪いのビデオよりも底辺ユーチューバーのマジつまんなそうな動画のほうがゾッとするという斬新な恐怖体験をすることができるのです(皮肉抜きで褒めてます)。
しかも、その底辺ユーチューバーが披露しているネタは、実際に有名配信者がやっているものらしい。そっちは面白いと信じています……。
『全員死刑』の時にも思いましたが、こういう映画でのユーチューバーいじりは楽しいし、現代の世相にもあっていますので、もっとみんなやればいいと思います。
※『全員死刑』の紹介記事はこちら。こっちに出てくるユーチューバーはさらにムカつきました(褒めてる)↓
『全員死刑』はどこまで実話?間宮祥太朗がぶっ飛びすぎ!炎上上等なこの映画を見逃すな! | シネマズ PLUS
そうそう、劇中では超人気ユーチューバーの水溜りボンドが本人役で出演しているのですが、ちゃんと役の必然性があるもので良かったです(正直あってもなくてもどちらでも良い程度のシーンではあるけど)。水溜りボンドご本人2人のコメントもとても誠実ですね。
池田エライザの目力がすごい!
本作の美点の筆頭となるのは、主演の池田エライザの演技が本気で素晴らしいということですね。
どちらかと言えば今まではファッションモデルとしての印象が強かったのですが、今回はその「目力」で恐怖をこちらにも“伝染”させるかのような熱演。いや、これはすごいでしょ!チャームポイントであるはずの大きい目が「ギョロってして怖い」と思えるほどになってるよ!
ちなみに池田エライザ本人にもリアル弟がいるため、今回の役は「もう二度とやりたくない」ほどに感情移入をしてしまったらしい……。その意味でも見事にハマっていたんですね。
その池田エライザ演じるお姉ちゃんに心配されまくりなユーチューバーの弟を演じているのは『ちはやふる』や『ミスミソウ』でもおなじみの清水尋也。
いい感じに軽薄さと、それでも守ってあげたくなる健気さが同居していていいですね。彼のファンにも大満足できることでしょう。
そして、子役の姫嶋ひめかがまた池田エライザに負けず劣らずの、“睨む”目力を見せていて良いんだこれが。
こうしたホラー作品であると余計に子役の演技の良し悪しはより際立つことが多いのですが、この子は文句のつけようがありません。
あと、ともさかりえと佐藤仁美というベテランがこれまた超絶怖い演技をしているのも良い!
しかも佐藤仁美が演じる“倉橋雅美”というキャラは『リング』および『リング2』の登場人物でもある。つまりはシリーズで世界観を共有している、およそ20年の時を経てそのキャラが復活しているというのも、『リング』ファンにとって何とも嬉しいではありませんか。
とにかく、キャスティングおよびそれぞれの演技は、掛け値無しに完璧と言えるレベルだと思います。
ギャグ化していない貞子です
本作の監督は初代『リング』の他、日本版続編『リング2』やハリウッド版続編『ザ・リング2』の監督も務めた中田秀夫が復帰しています。
中田監督は『L change the WorLd』『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』『MONSTERZ モンスターズ』『女優霊』など酷評されているアレもまあまあ手がけていますが……演出は元々とても上手いお方、今回も本当にしっかりしていたと思います。
そんな中田監督は自身の作家性を冷静に捉えれられているようで、「極めてホラー的な瞬間っていうのはギャグとか一発芸に近い」「おそらく自分に求められているのはそのラインではないだろう」と冷静に分析しているのがいいですね。
実際に今回の貞子は「ギャグ化していない」良いバランスに仕上がっていたと思います。
『貞子3D』のクリチャー化した貞子なんか完璧にギャグだったもんなあ……『貞子VS伽倻子』のモンスターサイドに寄った貞子も好きですが、今回は原点的に貞子と言う存在の哀しさと怖さに焦点を当てており、しっかり中田監督の“らしさ”がプラスに働いていたと思います。
そして、今回は貞子以外のところで真剣に怖いシーンもあるんですよ。(ていうか肝心の貞子がそんなに怖くないと言えるかも……)
前述したユーチューバーのマジつまんなそうな動画とは別ベクトルで、ちゃんとゾッとさせられました。
※『貞子VS伽倻子』の記事はこちら↓個人的には『リング』シリーズどころかジャパニーズホラー史上もっとも好きな作品です。
『貞子vs伽椰子』最強ギャグホラー映画がここに誕生!(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
宣伝ではSNSを大活用だ!
あと本作はSNS時代に沿ったプロモーションも素晴らしいですね。
Twitter、Instagram、TikTokではとことん貞子をマスコットに……というか萌えキャラ化。若い人に届けようという意図が伝わりまくりです。
以下の写真も、映画を観た後にほっこりと笑顔になれますね。
✨映画『 #貞子 』ついに本日、全国公開〜〜‼️🎊
キャスト、スタッフ、怨霊の総力を結集し、映画という娯楽の王道をとことん追求した作品です。我々チーム貞子一同、きっと楽しんでいただけると信じております!
みなさん、劇場でお会いしましょう‼️
待ってるよーー❣️
✧₊⁎ ٩川゚Д川۶⁎⁺˳✧ pic.twitter.com/MEwkhrJVj1— 映画『貞子』公式 (@sadako3d) 2019年5月23日
「シャクレル貞子」というこれまだSNS映えしそうなアイテムもいいじゃないですか。
突然ですが、本日5/20から「シャクレル貞子」さんが映画公開に先駆け発売開始されました。徐々にお店で見かけるかと思います。映画「貞子」は5/24(金)からの公開になります。#シャクレル貞子#シャクレルプラネット#パンダの穴#ガチャ#gacha#pandanoana pic.twitter.com/9JGKTuJ3sF
— パンダの穴の左脳 (@panda_no_ana) 2019年5月20日
さらには公式のマンガ『貞子さんとさだこちゃん』も無料公開中。
こちらは貞子自身と幼女がタッグを組んでユーチューバーを目指すという斬新かつ可愛らしくてほっこりする内容です。
【更新情報】 『貞子さんとさだこちゃん』本日コミックス第1巻発売です!! 映画「貞子」のスピンオフコミックが登場! 本編では活躍する場面が少ない貞子自身が、じつはあんなことやこんなことをしていた!? 貞子視点で送る新しいギャグショートコメディ!https://t.co/x4MbcchHmo pic.twitter.com/TgFkhkGEXu
— コミックウォーカーComicWalker (@COMIC_WALKER) 2019年5月23日
萌えキャラ化しすぎて怖さが皆無になっている気もしなくはないですが、映画本編では忘れてちゃんと怖いと思えるのでいいじゃないか。
後半はいろいろとイマイチでした
とまあ色々と言ってきましたが、実際の映画の感想としては前半は十分に面白いけど後半は激しくイマイチということで落ち着きます。
前半は前述した姉弟の関係や、その弟のユーチューバーが調子に乗ってしまう過程、謎の少女の存在など、多面的にしっかり興味を引く内容になっています。
後半からは行方不明になった弟の捜索うんぬんの内容になっていくのですが……それらは前半で散りばめられた要素があまり有機的に絡んでおらず、ヒントの提示方法が「そうはならんやろ」とツッコミたくなるほどに御都合主義的に思えてしまうのです。
貞子という存在に迫るまでの過程および謎解きは原点の『リング』シリーズの大きな魅力であったと思うのですが……今回はそこが雑に扱われてしまっているんですよ。
クライマックスも説得力に欠けていて盛り上がらないし、しかもわかりにくいところがあるし、いろいろとぶん投げているし……申し訳ないですが白けてしまいました。
さらに……ええと、ちょっとネタバレかもしれないけどもういいや、『リング』における貞子の呪いのビデオに課せられたルールである「観たものは一週間以内に死ぬ」というタイムリミットは今回ではほぼほぼオミットされています。(動画のコメントでちょっと言及されるくらい)
この呪いのルールは曲がりなりにでも採用して欲しかったな……『貞子VS伽倻子』の2日で死ぬ時短テクニックは良かったのに。
代わりに新たなルールを設定しても良かったと思うのですが、今回はその呪いそのものの定義がこれまた曖昧または雑にしか思えないものになっています。
しかも、せっかくのユーチューバー設定も終盤ではあまり生かされていなくなっているんだよなあ……これは勿体無いと言わざるを得ません。
あと中田監督の『スマホを落としただけなのに』でも思ったのですが、ネットの投稿文に“人間の声をかぶせる”演出は安っぽいしネットの匿名性による怖さが薄れてしまうのでやめたほうがいいと思いますよ。
この2019年のホラー映画もオススメです
実は2019年はホラー映画が大充実しているんですよ。
そのラインアップは現在も公開中の『ラ・ヨローナ〜泣く女〜』を紹介した記事の最後にも記しています↓
『ラ・ヨローナ〜泣く女〜』の「3つ」の魅力!ファミリー層にもオススメできる理由はこれだ! | シネマズ PLUS
『ラ・ヨローナ』と『貞子』は「母親の虐待に思えていたことは実は……」という導入部が偶然にも一致していたりもしますね。
今になって考えるとこちらも(特に水周りに現れるという)設定が雑だった気もしますが、まあ楽しめたのでOKです。シリーズでは『死霊館 エンフィールド事件』の次に好きですよ。
5月10日公開『ラ・ヨローナ 〜泣く女〜』4DX版を試写感想。面白い!「水に近づいたらヤバい」というロジックの元ソーシャルワーカーの母とその子供2人が恐怖に立ち向かう!『IT/イット』のように子供が大活躍するホラーが好きなら気に入ること間違いなし。4DXは「風」の演出が秀逸でビビりまくれるよ! pic.twitter.com/AP8vyq2yEl
— ヒナタカ(映画ライター) (@HinatakaJeF) 2019年5月7日
あとこちらも公開中の『オーヴァーロード』は最高でしたね……!B級の素材をA級に仕上げて見せ場のオンパレードなおかげでずっと「楽しぃいいいいい!」となりました。
『オーヴァーロード』感想。最っ高おお!ナチスがヤバい実験をしてて阿鼻叫喚の地獄絵図!というどっからどう見てもB級的な素材をA級のスタッフたちが本気で作り上げているのでとんでもないことになってる。最初から「体感型地獄」が半端なく、その後も見せ場の連続で始終楽しいハァハァヤべえ観て! pic.twitter.com/983Nov6rcC
— ヒナタカ(映画ライター) (@HinatakaJeF) 2019年5月15日
また、ユーチューバーをフィーチャーしたホラー映画には、韓国製の『コンジアム』も公開されていましたね。こちらはマジで怖かったよ!紹介記事はこちら↓
『コンジアム』の「3つ」の魅力!考えうる限り最高に恐い理由はこれだ! | シネマズ PLUS
3/23公開『コンジアム』試写感想。これは怖ぇえー!面白ぇえー!廃病院に訪れたイケイケYouTuberがたちが生配信中に(愉快に)酷い目に合う韓国製ホラー映画。あの手この手でジワジワと恐怖感を煽り、いろんなサービスも大盤振る舞いだ!ゲーム『サイレントヒル』の禍々しさが好きな方にも超おすすめ! pic.twitter.com/Jch9yfFfrP
— ヒナタカ(映画ライター) (@HinatakaJeF) 2019年2月26日
さらに、現在は紙人形劇的にスピルバーグ監督っぽいトラウマ描写が楽しめる『バイオレンス・ボイジャー』という作品も公開されています。公開劇場は現在3館のみですが、遠出してでも観る価値がありますよ。紹介記事はこちら↓
『バイオレンス・ボイジャー』がヤバ怖超面白い理由はこれだ!監督へのインタビューもお届け! | シネマズ PLUS
5/24公開『バイオレンス・ボイジャー』サンプル感想。ギャー!めっちゃくっちゃ面白い!『IT』や『ストレンジャー・シングス』に通じる子供達がマジもんの恐怖に立ち向かう系の、昔のトラウマ残酷描写込みのスピルバーグ的な冒険映画でしたよ!ゲキメーション(劇画+アニメーション)の表現も最高! pic.twitter.com/WlFxig9TAS
— ヒナタカ(映画ライター) (@HinatakaJeF) 2019年4月9日
まあ、何が言いたいかと言うと、『貞子』にガッカリした人はこっちを観たらいいじゃないということです。
そこそこオススメです(体温低め)
そんなこんなで、この『貞子』は今のところ割と酷評されている印象ですが、前半の物語は本当に良く組み立てられているし、豪華キャストはみんなハマり役かつ最高の熱演を見せているし、中田監督の演出は上手いので、個人的には「そんなに悪くないよ(良くもないけど)」くらいの評価になりました。
食い足らなさは大いに残るものの、可もなく不可もなく程度には怖いと思える……のではないでしょうか?(疑問形)
あと、『リング』シリーズを観ていなくてもしっかり楽しめる親切設計になっているのもいいと思います。
余談ですが、公式で“原作”とされている鈴木光司の小説『タイド』もあります。
しかし、はっきり今回の『貞子』とは別モノ、副読本としてはちょっとオススメしづらいところがあります。
『タイド』はシリーズの『ループ』と『エス』を読んでいることが前提のようなところもありますし、あくまで小説の『リング』シリーズの1つとして読むべきでしょうね。
さらに余談ですが、少し前にハリウッド版のリブート作『ザ・リング リバース』も公開されていました。
こちらも酷評されまくっている作品なのですが、めっちゃ豪華な貞子の呪いin飛行機のシーンから幕を開けたり、倒れた薄型テレビから這い出てくる貞子が力持ちであることがわかったり、『ドント・ブリーズ』のような盲目変態のジジィとのバトルがあったりと、実際に観てみるとなかなか楽しい内容でした。
『リング』シリーズ、続くといいですね(遠い目)。
※以下からはネタバレです。鑑賞後にお読みください↓
(C)2019「貞子」製作委員会

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