
映画『ルーム』母親のありかたを模索する物語だった(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
今日の映画感想は『ルーム ROOM』です。
※すんばらしいコメントをいただいたのでネタバレに追記しています(4月10日)
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:狭い世界でこそ描かれる、親子の物語だった
あらすじ
5歳の男の子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)と、母親のジョイ(ブリー・ラーソン)は、狭く、暗い部屋の中に監禁されていた。
ある日、ジャックとジョイは協力して、ふたりを閉じ込めた張本人であるオールド・ニック(ショーン・ブリジャース)をだまして、部屋から逃げ出そうとするが……。
『FRANK フランク』などのレニー・アブラハムソン監督最新作、エマ・ドナヒューのベストセラー小説の映画化作品です。
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女性が長年にわたって監禁される物語と聞くと、日本では起きたばかりの女子中学生監禁事件をどうしても思い起こすでしょう。
過去においても、24年間も監禁させた上、7人の子どもを産ませたというフリッツル事件や、11歳のころから18年間監禁されたジェイシー・デュガード事件などがあり、決して絵空事ではないのです。
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これらの事件では「少女の奪われた時間は取り戻せない」「なぜ逃げられなかったのか」や、ストックホルム症候群(監禁事件などで犯人に過度な同情や行為を抱くこと)などがおもな争点になっていますが、この『ルーム』の物語は少し違います。
本作は、監禁事件でありながら“母性”を深く描いた作品だったのです。
劇中では、男に女性が監禁されてから7年の時が経過しています。
そして、その中にいるのは“母親”と、“5歳”の息子なのです。
こう聞くと、とある“事実”が突きつけらていることに気づくでしょう。
物語は、そこから“母親”の是非を、残酷なまでに問います。
決して「監禁された場所から逃れたので、そこから世界が広がってハッピーエンド」という作品ではないのです。
監禁されたほうの“問題”を追求する描写をみて、拒否反応を示す方もいるかもしれません。
彼女とその息子は長年監禁された“被害者”であるのに、さらにいじめるなんて、と。
しかし、それこそが作品に重要なことです。
本作では、辛い事実をはっきりとつきつけることで、逆説に世の中に溢れている幸せや、母親の意義を教えてくれるのですから。
また、撮影・編集も素晴らしい仕上がりです。
原作小説は、少年ジャックの“一人称”で語られている作品で(ともすれば映像化がしにくいのですが)、映画でも“ジャックの視点で世界を見る”描写があるのです。
これはカメラワークと編集を工夫し、“接写”の画も多くしたおかげ。
ときどき“ピンボケ”になったりするのは、ジャックが“初めてみる世界の大きさを認識できない”という描写にも思えます。
ここには、映像化の意義を存分に感じられるでしょう。
言わずもがな、アカデミー賞を受賞したブリー・ラーソンと、若干8歳(撮影時)のジェイコブ・トレンブレイの演技も見所です。
ブリー・ラーソンはしっかり“7年間も監禁されて憔悴しきっている”女性に見えますし、ジェイコブくんはただかわいいだけどなく、耳をつんざくような叫び声もあげたりします。
主要登場人物はわずか数人、非常にミニマムな視点で描かれている物語に関わらず、ボリュームを感じられる作品に仕上がっているのは、監督の力量と、役者の演技が優れている証拠です。
余談ではありますが、警察の捜査力がすこぶる高かったのも大好き。
いや、こういう映画では警察が無能になってしまうことがよくあったので……。
とくに予備知識はいらない、というよりも、ぜひ何も知らずに観て欲しいと思った作品です。
母親の気持ちは、母親でなくても誰でも普遍的にわかるものです。
もし母親であれば、“母親だからでこそ”さらに気づけることもあるでしょう。
なお、海外ではR指定されていますが、その性描写は直接的でなく、“子どもにはわからないように”なっています(中学生以上推奨くらいの描写)。
子どもであるジャックの“主観”で物語は展開するので、お子さんでも感情移入して観ることができるのはないでしょうか。
ぜひ、本作は家族ででも観てほしいと思えました。
(もっとも、後半は大人向けの話になるので、子どもは退屈してしまうかもしれませんが)
ともかく、IMDbで8.3点、Rotten Tomatoesで94%という高評価が頷ける秀作です。
演出は大仰ではなく、むしろ後半は淡々とした展開が続くので、人によっては少しテンポが悪いと感じてしまうかもしれません。
しかし、登場人物が内に秘めた“感情”はサスペンフルに描かれています。
ひと言ひと言に“重み”がある、卓越した人間ドラマを堪能できるでしょう。
ドキドキするサスペンス、特殊な人生を垣間みるドラマ、そして母性愛。それらを期待する人すべてにおすすめします。
※部屋の中の本編映像。若干ネタバレ注意。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓ 超ネタバレなので未見の方は読まないで!
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015

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前ブログに頂いた、非公開コメントです。
ご指摘感謝です。該当部分を削除します。
日本でも朝霞の事件があり物騒な世の中ですが、今作は拉致監禁モノにありがちな衝撃の脱出劇だけに終始することなく、その後の社会適応にまで及ぶ母と子の繊細な心理描写を丁寧に描いている秀作です。子役の怪演はある種反則技ですが、それに負けない異常な状況下での母性を巧みに演じたラーソンがオスカーを獲得したことは理にかなっています。監禁部屋が全てであり世界でもある少年の目に唐突に飛び込む外的な光景は宇宙そのもので、その激しい違和感と衝撃が観ている側をも巻き込みます。ある種異常しか知らないとそれが正常であり、逆に平穏を窮屈に感じて元に回帰しようとする人間心理の怖さも感じるのです。珍しく警察のファインプレーによる奇跡の救出劇は思わず突っ込みたくなりますが、行方不明の娘を待つ両親の環境変化や衝撃の救出劇をワイドショーネタのごとく蔑めるマスコミなど周辺の細かい作り込みが物語を重厚にしています。監禁以前の平穏を知っている母と生きてきた5年間そのものが特殊環境である息子の心境の対比がある意味絶妙だったりもします。
いや最後に泣きました、ダダ泣きしました。監禁からどうやって脱出するのか
その後どうなるのか…くらいの話に思っていたので、序盤は淡白に感じましたし
ジョイが必死にジャックに作戦説明するシーンで「嫌だ、聞きたくない!」と喚くジャックに
若干のイライラを感じたりもしました。ですが最後の最後、この時彼がどう思っていたかがハッキリする事で
僕の感じていたイライラが間違いだった事に気付きました。
ジャックにとってジョイに諭される瞬間は、今まで生きてきた『当たり前』を全否定された瞬間だったと気付いたからです。
今まで本物だと思っていた空想の犬、植木鉢の造花などが全てニセモノと言われた彼の心境は
母であるジョイが感じていた以上に天地がひっくり返るような衝撃だったのだな…と。
例えオールドニックと言う最低最悪の男に監理監視されていた世界だとしても
彼にとってはあの世界もまた幸せな「当たり前」だった。
だからこそラスト、家具のひとつひとつに「ありがとう、バイバイ」と名残惜しく別れを言うジャックに泣いてしまいました。
また母であるジョイもまた、ジャックにとって「当たり前」と言う幸せの象徴だったんだなあ…と痛感しました。
あの心ないインタビュアー(『ゴーンガール』といいあの手のインタビュアーはろくなのがいませんねw)の一言で
ジョイが自殺を図った時、ついにジャックは髪を切ります。
「ボクのパワーをママに…!」今まで大事にしていた髪以上に
彼にとって一番大事であり「当たり前」の象徴だったのがジョイでした。
悪魔から解放され、何不自由無い生活を手に入れても
本当に幸せをもたらす人や物はいつもすぐ側にあった…メッセージとして本当に素晴らしいと感じました。
ラリーBさん長々とあざああっっす。
>ジャックにとってジョイに諭される瞬間は、今まで生きてきた『当たり前』を全否定された瞬間だったと気付いたからです。
またすんばらしいご意見を!追記をば。
> ジョイが自殺を図った時、ついにジャックは髪を切ります。
> 「ボクのパワーをママに…!」今まで大事にしていた髪以上に
> 彼にとって一番大事であり「当たり前」の象徴だったのがジョイでした。
> 悪魔から解放され、何不自由無い生活を手に入れても
> 本当に幸せをもたらす人や物はいつもすぐ側にあった…メッセージとして本当に素晴らしいと感じました。
髪の毛に対しても言及していませんでしたね。追記させてください。
タイムリーに同様の事件が起こってしまったので公開中止になるかと思いきや、高評価に地元にもやってきました。
こういう時こそ。こういう作品を観て考えてみる事も大事だと思います。
>ブリー・ラーソンはしっかり“7年間も監禁されて憔悴しきっている”女性に見えますし、
>ジェイコブくんはただかわいいだけどなく、耳をつんざくような叫び声もあげたりします。
不謹慎かもしれませんが、序盤のワンルーム暮らしにホッコリしてしまいました。
ああ・・・こんな風に幼児と日課をこなしつつダラダラした休日を過ごして・・・みたっかたら、何所からか“自分だけの可愛いジャック”を誘拐ってくるなどでなく、自分を愛してジャックを産み、共に愛し育ててくれるパートナーを探さないといけないんだよ。と自分の中のオールド・ニックに言い聞かせます。
>余談ではありますが、警察の捜査力がすこぶる高かったのも大好き。
女性警官の方が凄くカッコよかったですね!反面運転手の方は・・・凄くメンドクサソウな態度に「オマエ黙れ」と声に出して呟いてしまいました。
>〜なぜジャックを自由にしてくれと願わなかったか〜
私はジャックを手元に置いたジョイは賢明な判断をしたと思います。
以前、廃棄物処理施設で働いた経験があるのですが、重さと感触のオカシナごみ袋に気付き、安全確認の為に開封してみた所・・・新聞紙とビニール袋に包まれた数匹の子犬の死骸を発見した事があるのです。その時先輩から「君はまだイイ方だよ。オレは赤ん坊の死体見つけた事がある・・・」と聞きました。
それと同じような事になるのを警戒したのではないかと。
少女を誘拐監禁するような異常者が真面目に擁護施設に届けるでしょうか?・・・途中で面倒臭くなったり、小さな内に始末を・・・と考えたりするかもしれません。それを想えば自分の保護下にジャックを置き続けたジョイの判断は決して誤っていなかったと思うのです。
>レポーター
私は日常会話で「マスゴミ」という呼称を使う程にマスメディア不信の強い人間なので、前評判でマスコミの無神経さが酷いと聞いていたので「どんなに胸糞の悪い光景を見せられるだろう・・・」と身構えていたのですが、「突撃取材」とかでなくしっかり了解を得て、収録も配慮が感じられるセッティングで行われ。レポーターも「こんな事を聞いていいのか分かりませんが・・・」という葛藤や慎重な気遣いが感じられて良い意味で表紙抜けしてしまい、むしろ必要以上にマスメディアを悪し様に描かない姿勢に好感触を覚えてしまいました。
でも質問に対しては・・・
>生物学的な問題としては
「親父」ってのは女性の○内に射精しただけでなれるもんか。簡単だな・・・と言い返したいです。