『イット・フォローズ』境界を越えろ(映画ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

『イット・フォローズ』境界を越えろ(映画ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

今日の映画感想はイット・フォローズです。

個人的お気に入り度:9/10

一言感想:わからないこそ、こわい

あらすじ

19歳のジェイ(マイカ・モンロー)は、恋人のヒュー(ジェイク・ウィアリー)から“それ”をうつされた―。
その日以降、ジェイには他の人には見えないはずの“それ”が見え始める。
動きはゆっくりとしているが、捕まると確実に死が待ちうける“それ”から逃れるため、ジェイは友人たちとともに回避方法を探すのだが……

200万ドルという低予算で撮られ、批評家から絶賛を浴びたホラー映画です。
本作でまず優れていることは、恐怖対象である“それ”から逃れるための「ルール」が明確であることです。

<“それ”のルール>
(1)“それ”はうつされた者だけしか見えない。
(2)“それ”に捕まったら必ず死が待っている。
(3)“それ”はうつした相手が死んだら自分に戻ってくる。
(4)“それ”はさまざまな人間の姿になり変わる。
(5)“それ”は歩く速度が遅いが、頭はいい。
(6)“それ”は誰かとセックスしたらうつすことができる

………
えーとね、(6)にビックリですよね。
死から逃れられない→回避方法は誰かとセックス!
って、一歩間違えばギャグにしかなりません。

しかし、本作はそういった設定の無茶さがまったくと言っていいほどシリアスな笑いにつながっていかないのがミソ。
というか、近年稀にみるガチで怖い映画になっていました。

怖さの理由

なぜこんなにも怖いのか?と言えば、こうしたルールが明確な反面、恐怖対象である“それ”の正体や目的が一切わからないことです。

ホラー作品というものは「未知である」「理解できない」からでこそ「怖い」ものであると思います。
『呪怨』シリーズは過度に恐怖対象の正体を明かさなかったOVAバージョンのほうが数倍怖かったですし、『女優霊』から「未知」部分の怖さを完全スポイルした『劇場霊』は見事なスットコドッコイな作品になっちゃいました。
しかし、『イット・フォローズ』の“それ”はマジで理解不能な存在であるわけで、しかも「逃れらない死」というものをキッチリと突きつけてくるわけです。

秀逸なのはオープニングシークエンスで、ここだけで「“それ”に捕まったらマジでヤバイ」事実を知らしめてくれます。
「じわじわと迫り来る」という本作の恐怖描写をみて、ジャパニーズホラーの名作『リング』を思い出す方は多いはずです。
『リング』の設定は「呪いのビデオテープを見たら7日後に必ず死ぬ」という、『イット・フォローズ』と同様の、鼻で笑うようなバカバカしいものなのですが……それをとことん「本物」として見せることで極上の恐怖を作っていました。

また、『イット・フォローズ』の特徴的な設定「他人にうつすことができる」というのも、『リング』シリーズの影響を強く感じます(『リング』のビデオテープは、ウイルスのように増殖し、人々を死に追いやる存在であるということが強く強調されていました)。
『イット・フォローズ』では「セックスを媒介して恐怖の対象がうつっていく」・・・ということで、これはもしかするとエイズ(HIV)のメタファーなのかもしれませんね。
エイズがこの世に現れたころは、それは正体のわからないものであり、ほぼ必ず死が待ち受ける恐怖の対象だったのでしょうから。

余談ですが、この『イット・フォローズ』では、「少年時代に隠したエロ本」の思い出について、「バカバカしいな」と登場人物が笑ってしまうシーンがありました。
これも、本作の「“それ”はセックスするとうつすことができる」というありえなさを皮肉っているものなのでしょうね。
もっとも、そのバカバカしさが「笑えなくなる」からでこそ、本作は怖いわけですが……。

ビジュアルと音楽も圧巻!

その独特の映像美とカメラワークも特筆ものです。
映像はデジタル時代ならではのシャープなもので、アメリカの郊外(荒廃したデトロイト)の退廃した画は映画にじつにマッチしています。

カメラワークは、ときどき主要キャラの視点から離れ、“それ”から登場人物を見たような視点にもなります。
固定した視点とパン(スライドして動く)をうまく組み合わせること、ときどきPOV(主観視点)のホラーを思わせるところもあり、これも「どこかに“それ”がいる」怖さを引き立ててくれました。

音楽の魅力についても触れないわけにはいきません。
音楽を手がけたのはdisasterpeaceという平和なんだかよくわからない名前のアーティスト。
いままではゲームミュージックを手がけていたとのことですが……そのエレクトロニカ風のBGMには一種の「浮遊感」があり、凡百のホラーとはまったく違う雰囲気を提供してくれました。

ルールのあるバトルが楽しめる!

個人的には、「作中のルールが明確」という点で、モンスターパニック映画『トレマーズ』の高鬼や、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドバトルが好きな人にオススメしたいです。
このふたつと『イット・フォローズ』は、「登場人物といっしょに、ルールに則った打開策を考える」というゲームのようなおもしろさがあるのです。

ちょっと気になるところ

難点は、中盤に物語が停滞する時間が長めなこと。
これはクライマックスへの布石でもあるのですが、やや冗長さは否めません。

また、作中の時代設定が不明という点も賛否あるかも。
タイプライターやガチャガチャとダイヤルを回す方式のテレビがあったり、携帯電話が存在しないかと思いきや、なぜか貝型の電子書籍リーダー(?)が登場したりするのですから。

このあたりは、「日常とは違う不思議な世界」という感覚があったので、個人的には悪い印象はありません。

でも欠点と言えばそれくらい。
中盤の停滞感も、裏を返せば登場人物の個性がしっかりと描かれているということなので、決して大きな欠点ではありません。

これは劇場で堪能するホラーとしては、太鼓判を押してオススメします。
自分は『スペル』や『死霊のはらわた2』などのホラーなのかギャグなのかどっちかわからんような作品も大好物なのですが、こうした笑いなしの「ガチホラー」はやはり貴重です。
その作風の特殊性からやや好き嫌いは分かれるでしょうが、「ホラー映画が大好き!」であれば問題はないでしょう。

なお、R15+指定ですが、グロシーンはほとんどなく(ただし1カットだけかなりキツいグロあり)、エロ(“それ”をうつすためにはセックス!)もそれほどドギツイものではありません。
痛いのが苦手だという人も、これくらいなら安心でしょう。

余談ですが、主演のマイカ・モンローは、同じくホラー映画の『ザ・ゲストでも主演の女の子を演じていました。
こちらも存分に「未知なる対象の怖さ」がある作品なので、ホラー好きにはぜひ一度観て欲しいところです。

以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓

“それ”の恐怖

“それ”が怖い理由のひとつが、「いつ襲ってくるかわからない」ことですね。
白昼堂々と大学構内に出てくるし、ビーチサイドにいるときだって油断はできない。
弱点は「足が遅いこと」のみで、銃で撃っても立ち上がってくるという不死身さまで見せるー。

極めつけは、友だちが扉を開けて安心したとき、後ろから「ぬっ」と“それ”が出てくること。
「安心な日常」が浸食されていくという恐怖がありました。

ゲーム的な面でおもしろいのは、「対象者だけに姿が見える」こと。
ジェイが“それ”を指差して、仲間がその指示通りに攻撃するクライマックスは圧巻でした。

親に頼らない

オープニングで「足を逆方向に折られて殺された女性」は、死ぬ前に電話で父親に感謝を告げていました。

一方で、ジェイは親には“それ”のことをまったく話さずにいました(それどころか親は映画に出てこなかった)。
それはおそらく正しい判断だったのでしょうね。

なぜなら、“それ”は誰にでも化けられる存在であり、事実、グレッグは「“それ”が母親かと思って安心した」ときに殺されていたのですから。
愛すべき肉親が、恐怖の対象となるのは、何よりも恐ろしいこと。
ジェイは意図的に、そのことを避けていたとも取れます。

日数を数える

ジェイが、“それ”に追いかけられることになったヒューと再開したとき・・・彼女は膝の上に草を置いて何かを数えていました。
これはおそらく、ジェイが“それ”に追いかけられるようになってからの日数でしょう。
彼女は、ヒューにうつされてからの恐怖と、その恨みを、暗に示そうとしていたのかもしれません。

うつさない

ジェイが海岸に行き、ビニールボートで遊んでいる若者のところに泳いでいく、というシーンがありました。
そのあとのシーンはカットされていた(ジェイは濡れたまま車に戻っていた)のですが・・・これはおそらく、ジェイは若者とセックスして“それ”をうつそうと考えたものの、思い直してやめた、ということなのでしょう。

その後にジェイは、ポールとセックスします。
ポールは自分のことを想ってくれて、運命をともにできるような相手であるから―。
これは、“それ”がつぎつぎとうつされる連鎖を止めるという目的もあったのでしょう。

境界

終盤にジェイたちは、デトロイトの郊外のプールに向かいます。
ヤラは子どものときに、理由もわからずに郊外への「境界」を越えることを禁止されていました。
しかし、ジェイたちはいまでは大人になり、その境界を越えてこそ、“それ”の恐怖を克服しようとしています。
これはそのまま、“それ”の正体が理解不明であるがゆえの恐怖を皮肉っています。

虎穴に入らずんば虎子を得ず。
その昔に理解できなかった境界の意味を知ること、それを越えようとすることは、まさに恐怖に立ち向かうことなのです。

人間の可能性

ジェイは恋人のヒューと「交代ゲーム」をしていました。
ヒューはこのとき、自分を小さな子どもと入れ替えて「子どもは無限の可能性を秘めているからな」と言っていました。

この言葉にジェイは「まだ21歳なのにジジくさいわね」と返していましたが……言うまでもなくこのときヒューは“それ”に追いかけられていたので、未来への可能性を感じられずにいたのでしょう。

ヤラは電子書籍を読みながら「最悪なのは終わりがくることを知ること」と言っていました。
※これはドストエフスキーの『白痴』からの引用。前半にはほかにも『J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌』の詩が引用されています。

そして、手をつなぐジェイとポールの後ろに、“それ”がついてくると思わせる画で、映画は幕を閉じます。
郊外には売春婦とおぼしき女性(“それ”を広める存在)たちがいたことと合わせて、やはり“それ”には終わりがないことを暗示させています。

“それ”は「病気」や「老い」などの、「人間の可能性を無くさせるもの(死に追いやるもの)」のメタファーとも取れます。
“それ”は(仲間の協力はあっても)自分で克服するしかない、必ずやってくるものー。
だけど、誰かと死の瞬間まで寄り添い、生きていくことはできるかもしれません。

これは、死に抗う人間たちの、生きるための物語なのかもしれません。

おすすめ↓
イット・フォローズ (It Follows) 感想 「謎」という恐怖 – きままに生きる 〜映画と旅行と、時々イヤホン〜
映画感想 – イット・フォローズ(2015) – にっきにっき(グロ注意)
町山智浩『イット・フォローズ』『ババドック』とホラー映画を語る

IT FOLLOWS
IT FOLLOWS

posted with amazlet at 16.01.15
ANCHOR BAY
売り上げランキング: 15,933

(C)2014 It Will Follow. Inc,

publicShare

theatersタグ

chat_bubbleコメント

  1. ラリーB より:

    如何せんホラーと聞くと「劇場霊」ですら裸足で逃げてしまうチキンなので、どうしようか迷ってますw
    ホラー苦手な人はやっぱり見たらトラウマ残るレベルなんでしょうか?

  2. ヒナタカ より:

    > 如何せんホラーと聞くと「劇場霊」ですら裸足で逃げてしまうチキンなので、どうしようか迷ってますw
    > ホラー苦手な人はやっぱり見たらトラウマ残るレベルなんでしょうか?
    こいつはマジモンの怖さなので、正直ホラーが苦手な方にはオススメしづらいですね・・・。
    ホラーを見慣れている人こそ、楽しめると思います。

  3. ラリーB より:

    ヒナタカさんお返事すいません。
    うーん…やっぱ僕には敷居が高そうですね。
    評判聞いてるとハリウッド型ビックリ箱ホラーではなくじわじわJホラー風だそうなんで
    尚更トラウマ植え付けられそうですね。

  4. ヤキタコ より:

    新年早々年間ベスト級の作品に出会ってしまったという感じです。
    こんなに怖い時間が長いホラー映画は他に無いのでは、とすら思います。上映時間100分の内怖くない時間は10分もありませんでした。私がビビり過ぎなだけかもしれませんが。
    私がこの映画で最も怖く、かつフレッシュに感じた部分は"それ"の実在感です。肉体感と言ってしまってもいいかもしれません。
    これは普通のホラー映画で恐怖を与える役割の存在、例えば幽霊などとは相反するものです。"それ"は歩いてくる、壁をすり抜けたりしない、殺傷方法も非常に物理的、ただ移された人以外には視えないだけで、肉体?的には人間とあまり変わりません。殺せないけどぶん殴ることはできますし。
    しかしその肉体感は"それ"が姿を現していないときに真価を発揮します。一見安全に見えるシーンでも、"それ"がどこかに存在していて、一歩一歩ゆっくりと、だが確実にこちらに近づいてきているということがひしひしと実感できてしまう。だから全編にわたって言いようのない恐怖を感じました。
    また、様々な読み解きが可能な奥行きのあるストーリーも本作の魅力ですよね。
    私はこの映画を一人の女性が苦難のすえ真実の愛を手にするまでの物語だとみました。ジェイは最初それを知りませんでした。彼氏のヒューは"それ"が彼にさかのぼってきたとわかったとたんジェイに移しました。ジェイもまた、後にわかることですが、グレッグと以前、おそらく軽率に肉体関係を結んでいたような女性です。それでも、ジェイには最初は、真実の愛に対する可能性のような、希望のような何かが満ちていました。それを象徴するのが、ビニールプールに張られた水だと私は思います。ジェイは初登場時ビニールプールに入っています。しかし"それ"を移すためにグレッグと病院でセックスをします。そして退院後、まるで自分からその何かが失われていないことを確かめるかのように、再びプールに入ります。だが、グレッグから自分にさかのぼってきた"それ"を移すために、全く知らない他人とセックスをしてしまいます(私はジェイが車内で流した涙を、自己嫌悪によるものと解釈しました)。それによってジェイからその何かが失われて、プールから水が抜かれます。しかしその後ポールと協力して、プールで"それ"を迎え撃ち、水が"それ"の血で染まります。これは、ジェイが"それ"を受け入れたということではないでしょうか。それによってジェイは自分とともに"それ"を受け入れてくれるポールとセックスをし、本当の愛を手にいれたのです。
    長々と駄文をすいません。どうしても誰かに感想を言いたくなったんです(笑)

  5. 匿名 より:

    >ジェイが海岸に行き、ビニールボートで遊んでいる若者のところに泳いでいく、というシーンがありました。
    この後のシーンでジェイが「そのうち、またやってくる」と言っているので、ビーチの若者たちとセックスして一旦は逃げられたけど彼らが殺されてまた自分のところに戻ってくると理解しているのだと思われます。だからこそ車で出かける際に、屋根の上に来ていたのを見て絶望的な表情をしていたのではないでしょうか。

  6. […] 18位 イット・フォローズ […]

コメントを残す

* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。
メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。

著者

ヒナタカ

カテゴリ

文字から探す

レビュー点数で探す

extensionその他サイト

あわせて読みたい

この記事を読まれた方によく読まれている記事です。よろしければこちらもご一読下さい。

vertical_align_top