『イット・カムズ・アット・ナイト』誰がドアを開けたのか?(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

『イット・カムズ・アット・ナイト』誰がドアを開けたのか?(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

今日の映画感想はイット・カムズ・アット・ナイトです。

個人的お気に入り度:8/10

一言感想:すげーイヤな気分になった……(褒めてる)

あらすじ

「それ」が来た一軒家に悪夢のような夜が訪れます。

この『イット・カムズ・アット・ナイト』は極めて小規模で公開されている作品で、11/23より上映されているのは全国でわずか5館のみです。
本編の舞台も最小限で、低予算かつミニマムな作品であることは間違いない……のですが、いやはや、これはホラー・サスペンス映画好きには見逃せない優秀作品でしたよ。

また、本作は出来るだけ情報をシャットアウトして観たほうがより楽しめるのではないでしょうか。
先が読めない、「どういう物語になっていくかもわからない」ことも興味の持続に繋がっているので、最大限に楽しみたいという方は以下の劇場情報だけを確認して映画館に足を運ぶことをおすすめします。
<劇場情報 | 映画『イット・カムズ・アット・ナイト』公式サイト>

新進気鋭のスタジオ「A24」の新作!

まずは、本作『イット・カムズ・アット・ナイト』が、映画制作スタジオ「A24」の新作であることをアピールしておきましょう。

※このクレジットを観たことがある映画ファンも多いのでは?

ざっとその作品群を見渡すと、『ウィッチ』『ロブスター』『スイス・アーミー・マン』『レディ・バード』『パーティで女の子に話しかけるには』『アンダー・ザ・シルバーレイク』などなど……メジャー公開ではない低予算作品が多いものの、通好みの良作を多く手がけている新進気鋭のスタジオなのです。

果ては『エクス・マキナ』ではアカデミー賞視覚効果賞、『ルーム』では主演女優賞、『ムーンライト』ではアカデミー賞作品賞と助演男優賞と脚色賞も受賞していたりと、もはやアカデミー賞の常連にもなっています。
映画ファンにとって、「A24」という名前は今後とも覚えておかなければならないと声を大にして叫んでおきます。

また、現在は同じくA24による映画『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』が公開中です。
こちらは「ずっとその場所に居続けるしかない幽霊の悲哀」「生きている人間とは違う「時間経過」を疑似体験させる」という、とんでもない独創性に溢れた作品になっていました。

なお、『イット・カムズ・アット・ナイト』のプロデューサーであるデイヴィット・カプランは、こちらもインディペンデント映画の制作スタジオ「アニマル・キングダム」の創設者の1人でもあったりします。(これまで手掛けてきたのは『ショート・ターム』や『イット・フォローズ』などと、やはり高く評価されている作品ばかり)

さらに余談ですが、雑誌『BRUTUS(ブルータス)』にて特集されている、降矢聡さん による「制作・配給会社で映画を選ぶ時代です。」の記事がめちゃくちゃ面白かったです。「A24」も大きく紹介されていますよ。

※A24については以下の記事もご参考に。「世相を読み取りタイムリーな作品を世に送り出す」スタジオでもあるんですね↓
「A24」は今後見逃せない!創設から6年…アカデミー賞常連の映画スタジオに迫る | cinemacafe.net

『クワイエット・プレイス』とは似て非なる内容かも?

さてさて、本作『イット・カムズ・アット・ナイト』の内容を端的に表せば、「家族が“何か”の脅威におののきつつも、何とか日々を過ごそうとする」となります。
その“何か”には一定の「ルール」で立ち向かう必要もあります。

これだけを聞いて、今年9月に公開された『クワイエット・プレイス』を思い出す方も多いのではないでしょうか。

『クワイエット・プレイス』は「音を出したら、即死。」というキャッチコピー通り(そんなにすぐ死ぬ訳ではないけど)の、登場人物が「音を出したら襲ってくる」というルールを理解し、知恵を駆使して死なないように日常を何とか過ごしている……という内容です。
物語の根底に「家族」があることも含め、表面上は『クワイエット・プレイス』と似た内容なのだろう……と思う方は多いでしょう。

しかしながら、個人的に『クワイエット・プレイス』と『イット・カムズ・アット・ナイト』は「似て非なる」内容であると思いました。

その理由は、前者が基本的にはモンスター・パニック映画的なアクションとするのであれば、後者は会話劇により進行し精神的に追い詰められる心理サスペンス映画としての要素が強いからです。
『クワイエット・プレイス』ほどの娯楽性を期待すると、全編の多くが会話シーンである『イット・カムズ・アット・ナイト』はやや肩透かしに感じてしまうのかもしれませんね。

しかしながら、『イット・カムズ・アット・ナイト』はその会話劇こそにある緊張感、抑えた演出、そして「何気ないように思えたセリフの全てに意味がある」と言えるまでの練りに練られた脚本により、高い完成度を誇っている、と言っていいでしょう。

繰り返しになりますが、『イット・カムズ・アット・ナイト』は、「モンスターが襲ってくる系の娯楽ホラー」ではなく、「会話劇により進行する心理サスペンス」なのです。それを期待するのであれば、大いに楽しめることでしょう。

似ている作品を挙げるとすれば、宇宙人の侵略を一家族のみの視点で描いた『サイン』でしょうか。

『サイン』は「そんな展開かよ!」なクライマックスが待ち受けていることもあり賛否両論(自分は大好き)ですが、こちらの「不穏さ」が好きな方は『イット・カムズ・アット・ナイト』も気に入ると思いますよ。

監督は若干30歳!「家族」の実体験に基づいた映画だった!

1988年生まれの若い監督、トレイ・エドワード・シュルツが、このエッジの効いた映画を撮りあげたというのも脅威的です。

しかも、トレイ・エドワード・シュルツは脚本をも兼任。この脚本は父親を亡くして間もない頃、悲嘆に暮れていたときに執筆したのだそうです。
彼は死の淵にいた父親を見て、「自分の家族を守るのはどういうことなのか」「そのためにどこまで人間性を失っていいものなのか」などを問題提起をしている、と語っています。
単純なホラーだけでなく、ある意味では人間の「狂気」にも触れた内容になっていることも、本作の美点と言えるでしょう。

※こちらの記事もご参考に↓
A24発スリラー「イット・カムズ・アット・ナイト」新鋭監督が提起する問題とは(コメントあり) – 映画ナタリー

『若おかみは小学生!』の真逆を行く内容?

そうそう、この『イット・カムズ・アット・ナイト』は、まだまだロングランで公開中の大傑作アニメ映画『若おかみは小学生!』の劇中で提示されていた「花の湯温泉のお湯は誰も拒まない、すべてを受け入れて癒やしてくれる」の真逆を行く内容でもあると思うんですよ。(どちらも「肉親の死」が物語の根底にあることが共通していたりもする)

ネタバレになるので詳しくは↓に書きますが、『イット・カムズ・アット・ナイト』の劇中ではこれでもかと「不寛容」と「排他」の行動ばかりが描かれるのですから。
多くのシーンで「疑心暗鬼」の過程がじっくりと描かれ、人間の醜い面を見せつけられるという点で、『イット・カムズ・アット・ナイト』かなり良い意味で超イヤな気分になれる映画であると断言しましょう。

でも自分はこういう映画が大好き。暗〜い気持ちに「沈み込む」ことで、むしろ現実で生きるための力がもらえると思うんですよ。
現在は『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』という同じく観た後はゲッソリできる(もちろん良い意味で)素敵な映画が公開されているので、ぜひ合わせて観て欲しいですね。観た後はたぶん人間がちょっとだけ嫌いになれます

※ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の記事はこちら↓
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』は緊張感MAXの完璧映画!「5つ」の魅力はこれだ! | シネマズ PLUS

主演のジョエル・エドガートンもすごいよ!

そうそう、役者も総じて素晴らしいのですが、特にジョエル・エドガートン演じるお父さんはイヤでしたねぇ…。
表向きには家族を大切にしているのだけど……(ネタバレになるので後述)というのは本当にゲンナリしました。
この人、『ザ・ギフト』という映画でもい長編初監督と主演を務め、すっげーイヤな気分にさせてくれたので、こういう作品との相性がめちゃくちゃ良いんでしょうね。

※『ザ・ギフト』の記事はこちら↓
『ザ・ギフト』最悪の贈りものとは?(映画ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)

ともかく、『イット・カムズ・アット・ナイト』は「会話劇により進行する心理サスペンス」「良い意味で超イヤな気分になれる映画」として超おすすめ。
会話の端々を「思い返して」みると、もっともっと面白くなりますよ。
個人的には「食卓を囲む」シーンにも重要な意味が込められていると感じたので、そこにも注目してみることをおすすめします。

この後も11月30日公開の『へレディタリー/継承』や、2019年1月公開の『サスペリア』なども待っていると、ホラー映画好きにはたまりませんなぁ……

おまけ:大ヒットした『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』のタイトルと、『ドント・ブリーズ』のポスターを合わせ技でパクった『イット・カムズ』という映画もリリースされていました(原題は『The Ninth Passenger』)。おかげで『イット・カムズ・アット・ナイト』とも若干カブるという事態に……

以下は結末を含めてネタバレです。鑑賞後にご覧ください↓



秀逸なオープニング、そしてラスト

オープニングが、ある意味で全てを物語っていましたね。
「愛しているわパパ」「大丈夫よ」などと女性の声が聞こえる……しかしその声を投げかけられている老人の顔にはアザがあり、どう見ても健康ではない。
カメラがターンすると、そこには防毒マスクをかぶった女性(老人の孫)がいる……!

その後に老人は撃ち殺されるばかりか火をつけられてしまう。
「罹患したらもう命はない病気が蔓延している」という事実、そして「愛する人のためには真逆のことをも言ってしまう」ことを、このオープニングに示していると言っていいでしょう。

ラストシーンでも、息子のトラヴィスに同様の言葉が投げかけられる……。このオープニングを知っていてこそわかる「絶望」がラストにありました。

食卓

序盤でポール一家の3人が食卓を囲んでいた時、ポールは自分からサラとトラヴィスの食器も集めています。
ここからでも、ポールは自分が(家族の中では一番最初に)行動を起こすという、責任感が強い人物であることがわかります。

後半からウィル一家と共に住まうようになってからも、ポールは全員を見渡せる「お誕生日席」に座って、みんなの主導権を握ろうとしているんですよね。

それは一家の大黒柱、父親として正しい行動であった……のかもしれませんが、結局のところ、彼の「独善的行動」と「主導権を握ろうとしたこと」は裏目に出てしまった……と言わざるを得ません。

性的な興味

17歳のトラヴィスは、ウィル夫妻の情事を聞いて笑ったりもしていましたが……明らかに人妻のキムに性的な興味も持っていたようでした。
夢の中で、キムはトラヴィスの寝室にやってきてキス……それどころか、黒く染まった血を「注ぎ込んで」いました。

トラヴィスは、キムへの性的な興味だけでなく、彼女から病気をうつされるかもしれないという恐怖心も持っていたのでしょうね。
これは劇中の正体不明の奇病だけを指すだけでなく、現実のエイズなどの性病のメタファーとも言えるかもしれません。

誰がドアを開けたのか?

トラヴィスは夜中になぜか起きていた少年のアンドリューを見つけ、ウィル夫妻の寝室へと届けてあげます。
そして……夜には犬のスタンリーが戻ってきたものの絶命寸前、ドアを開けていたのはアンドリューなのではないか?と疑われます。

トラヴィスはもちろんアンドリューに触れていた……。
つまりは、アンドリューとトラヴィスはすでに感染しているという恐れがある……。
トラヴィスは間違いなく「すでにドアは開いていた」と証言。
アンドリューは「覚えていない」とだけ口にする……
しかしドアはアンドリューの手では届かないはず。トラヴィスもアンドリューもがウソをついている訳ではなさそうだが……?

この謎は解けないままでしたが……引っかかるのは、ポールがウィル夫妻に「アンドリューは夢遊病なのか?」と聞いていたということ。
これから察するに……実は夢遊病なのはトラヴィスであり、夢遊病のままのトラヴィスが無意識でドアを開けたのではないでしょうか。

ポールは自分の息子(トラヴィス)がドアを開けたとは思いたくはない、だから(無意識的に)アンドリューが夢遊病なのではないか疑った(そう信じたかった)のでは?
そもそも「夢遊病」という突飛な考えに至ったのは、息子のトラヴィスこそが夢遊病であったことを知っていたからなのでは?
こう考えると、辻褄があってしまうんですよね……。

事実、夢の中のトラヴィスは家の外に出ていたこともありました。
彼は愛犬のスタンリーと共に帰ることができず、そのことをずっと気に病んでいた……その彼の潜在意識が夢遊病として出てしまい、ドアを開けてしまったのではないでしょうか。

優先順位

序盤、ポールはトラックを襲撃してきた者たちを、問答無用で射殺してしまっています。
ウィルが「情報が欲しかったのに!」と声を荒げることも当然ですよね。

ポールは「慎重派」の男であり、「自分の家族の誰かが死ぬ(病気にかかる)」という最悪の事態ばかりを回避しようとしていました。
ウィルをふんじばって尋問し自分だけが同行してウィルの家族の元に向かう、アンドリューの感染が疑われればしばらく家族の接触を避けるなど、その行動は概ね「正しい」ように見えます。

しかしながら、その最悪の事態の回避のために……
結果的にウィル一家が惨殺され……しかもトラヴィスも病気に罹患していたことが明らかになります。
最後に映し出されたのは、ポールとサラだけの食卓(前述した食卓でのポールの立ち位置も皮肉になっている)……なんという救いのない結末でしょうか。

ポール(それに従う妻のサラ)は「家族を守る」ことが最優先順位になっていて、そのために、それを脅かす事態を「排除(殺す)」しようとしていたのでしょう。
しかし、結果としては、同じ家族のように幸せな時を過ごしていたウィル一家を皆殺しにしてしまい、あまつさえ自分の息子を守ることができなかったのです。

一方、生前のウィルは「必要な分け前をもらってここから去る」こと、ただ「自分たちが生きる」ことを最優先に考えていたようでした(そのために銃を突きつけてはいますが、撃つ気はさらさらなかったでしょう)
この考えにポールたちが迎合できていれば、この結末にはならなかったはずなのに……。

さらに最悪なのが、息子のアンドリューを殺されて絶望したキムが「殺して!」と懇願していたこと。
同様に息子のトラヴィスを失ったポールとサラは、果たして生きていけるのでしょうか……。

It Comes At Night

ラストには本当にびっくりした。何がびっくりしたって、結局「それ」が来ないまま終わったことですよ。
外にいた「何か」の正体は全くわからずじまいなんですよね。
でも、この映画で重要なのは、そこではないのだと思います

タイトルの「It Comes At Night」のItが表しているのは、人間の狂気や、疑心暗鬼の恐ろしさ。
そしてNightは、Nightmare(悪夢)も示しているのではないでしょうか。
トラヴィスはたびたび悪夢を見ていて、最後に死の淵にいてもドアの前にいる自分の姿の夢を見る……。
何より、この物語で起こった悲劇そのものが、まさに悪夢であったと言えるのですから。

ウィルは一人っ子?

こちらの公式サイトのミヤザキタケルさんのレビューも「なるほど」な内容です。スクリーンの画面サイズには気づかなかった!↓
SECRET REVIEW | 映画『イット・カムズ・アット・ナイト』公式サイト

そしてこのミヤザキタケルさんの記事、ウィルが「一人っ子」と口を滑らさせたことにも触れていて素晴らしいな、と。
彼は慌てて「(前に話していた)兄というのは義理の兄のこと」と言っていたけど、実は序盤に出てきた襲撃者がその兄=アンドリューの本当の父ではないか?という解釈にはなるほど、と。(ウィルはアンドリューの叔父であり、ウィルは無理やりアンドリューとキムを奪っていた?)

こちらの記事もご参考に↓
『イット・カムズ・アット・ナイト』トレイ・エドワード・シュルツ監督インタビュー ― 極限スリラーに「自分のテーマをすべて注ぎ込んだ」 | THE RIVER

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