『白鯨との闘い』実話との乖離の理由(映画ネタバレなし+ネタバレレビュー)

『白鯨との闘い』実話との乖離の理由(映画ネタバレなし+ネタバレレビュー)

今日の映画感想は白鯨との闘い(原題:In the Heart of the Sea)です。

個人的お気に入り度:8/10

一言感想:過酷すぎるよ!

あらすじ

トマス・ニッカーソン(ブレンダン・グリーソン)は、後に名著『白鯨』の作者となるハーマン・メルヴィル(ベン・ウィショー)にかつての鯨との死闘と、ふたりの男の物語を話し始める。
1819年、エセックス号のクルーたちは鯨油を入手するためにアメリカ・マサチューセッツ州のナンタケット島を出港した。
一等航海士オーウェン・チェイス(クリス・ヘムズワース)と、船長のジョージ・ポラード・Jr (ベンジャミン・ウォーカー)をはじめとする乗員たちは、太平洋沖4,800キロメートルの海域で、白い化け物のようなマッコウクジラと遭遇する……。

アポロ13』『ビューティフル・マインド』のロン・ハワード監督最新作にして、2000年に出版されたノンフィクション本『復讐する海ー捕鯨船エセックス号の悲劇』を原作とした作品です。

『復讐する海』は1819〜20年当時の出来事を、綿密に収集分析した1冊。
ここに記された壮絶な出来事は、あの世界的な名著『白鯨』のモデルになったと言われています。
最近では『バケモノの子』でも重要なモチーフとなったことで、『白鯨』を知っている方も多いのかもしれませんね。

『アマデウス』と似た語り口

本作『白鯨との闘い』が特徴的なのは、『白鯨』の作者であるハーマン・メルヴィルが、現実に起こった物語を聞いていくという、『アマデウス』方式の語り口になっていることです。

これにより、壮絶な捕鯨船の乗組員の物語を追いかけるだけでなく、「メルヴィルはどうしてこの実話をモデルに、フィクションである小説を書こうとしたのか」という、二重構成のミステリーのおもしろさが紡がれています。
その「なぜ」が解き明かされたとき、自分は「あの映画と同じ精神性を持っている」ととても感動したのですが……そこはネタバレになってしまうので↓に書くことにしましょう。

ヤバすぎる当時の状況

本作の何よりの魅力は、リアルな1820年前後の捕鯨船の過酷な状況がわかることです。
そのときはクジラの脂(あぶら)が街灯のために重宝されていて、そのために男たちは何千キロも離れた大海原へ、1年以上もかけた航海をします。
そこには10代前半の少年たちも乗り込みますし、天候や食料の不足などの命の危険を感じる出来事のオンパレードです。

この時点で正気の沙汰ではない勢いなのですが、さらに作中ではグロいクジラの解体(脂取り)の作業をじっくり見せるんですね。
これはG(海外ではPG-13)指定ギリギリの、本当に吐き気がするような画。
こうしたグロテスクさ、残酷さから逃げない姿勢は、感服するしかありません。

クリヘムの魅力も満載!

もちろんキャストも魅力的。
徹底的に減量して役作りに励んだクリス・ヘムズワースの男気、もうひとりの主人公であるベンジャミン・ウォーカーの頑固さは、ほぼセリフなしでもその魅力がわかるかのようでした。
こに両極端な主人公の描写は、同じくロン・ハワード監督作品『ラッシュ/プライドと友情』を彷彿とさせます。

余談ですが、ポラード船長役にはベンジャミン・ウォーカーのほかに、ベネディクト・カンバーバッチヘンリー・カヴィルトム・ヒドルストンが候補にあがっていたそうです。
トムが配役されたらそのまんま『マイティー・ソー』の兄弟になっちゃうよ!(それはそれで観てみたいけど)

作品の意義

もちろん『白鯨との闘い』とあるとおり、巨大なマッコウクジラとのバトルも本作の大きな見どころではあります。
しかし、映画を観終わってみれば、そこだけが物語の焦点ではないことに気付けるでしょう。
公式のツイッターのハッシュタグ「#くじらでかい」は、映画の内容とはイメージがまったく違うので、観た後は使いたくなくなる方も多いんじゃないでしょうか(使ったけど)。

これはアクション映画であり、伝記映画であり、極限状態での友情を描く人間ドラマであり、「なぜフィクションを描くのか」という作品への根元に迫る精神性を持っている、確かな意義を持つ作品なのです。

また、観終わった後に、本作に登場するクジラが「何を示しているのか」を考えてみることをオススメします。
原作での『白鯨』では、白鯨は悪の象徴、船員たちは多種多様な人種を統率した人間の善の象徴、広大な海を人生に例える、というのが一般的な解釈ですが……本作『白鯨との闘い』ではまた違った解釈が思い浮かぶのではないでしょうか。

邦題の意味

タイトルについても触れておきます。
原題は『In the Heart of the Sea(海の中心で)』とありますが、初めの邦題は『白鯨のいた海』とされ、後に『白鯨との闘い』と改題をされています。
そのどれもが作品にマッチしている題なのですが、個人的には『白鯨との闘い』がけっこうお気に入り。
この題は「人間VS白鯨」という構図だけでない、「共闘」という言葉も思い浮かぶので……。

これは超・オススメします。
単純なアクション映画としても見応えがありますし、前述のとおり、深いテーマ性を持つ作品としても一級品です。
できれば、原作にある「事実」を知らずに観てほしいとも思います。
その事実こそが、作品のミステリーとしてのおもしろさであり、尊いテーマなのですから。

これまでもロン・ハワード監督は『シンデレラマン』『フロスト×ニクソン』といった「実話もの」を手がけたきましたが、やはりその手腕は映画界でも随一であると思い知らせれました。
隅々に至るまで気合の入った作品ですので、体調を万全にして鑑賞することをオススメします。

以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓

白鯨と闘ってからが本番

本作を観て、開始1時間で白鯨と闘って、あっさりと船が大破したことに驚きを感じる人はきっと多いことでしょう。
ここからが映画の本番。なんと『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』や『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』のような海洋サバイバルものになるのですから。

しかも、生き延びるためには船員を食べていかなければならないというカニバリズムを余儀なくされる・・・
語り部であるトマスが、なかなか真実を話そうとしなかったのはこれが原因だったのです。

象徴としての白鯨

いろいろな解釈があると思いますが、本作での白鯨が象徴しているもののひとつは「自然」だと思います。
クジラは脂という物資を届けてくるが、その一方で境域的な被害や死をももたらす。
それは雨で水を届けてくれる一方、台風などで脅威を振るう自然のようです。

また、白鯨は太平洋沖4,800キロメートルの海域にいる化け物であり、船員たちはなすすべなく、船を大破されてしまいました。
その後・・・島の付近では白鯨が追いかけてきたものの、傷だらけの姿となっており、船員たちを襲おうとはしませんでした。
ここから察するに、白鯨は人間と同じような存在である、とも考えられます。

オーウェンたち船員は家族を支えるために、はるか遠方のクジラたちを殺す。
白鯨も、仲間を守るために遠くから来た船員たちを殺す。
お互い、生きていくために、殺さざるを得ないのです。

だけど、ボロボロに傷ついたオーウェンと白鯨は、もうお互いを傷つけることはなかった―。
穏やかな海の上で、ふたつの存在はほとんど同じもの、まるで友情までを感じさせるような描かれ方をされていました。
(ただひとつ、オーウェンたちと白鯨が違ったのは、「仲間を喰らわねばならないこと」。だからでこそ、両者の闘いが悲劇的に思えてきます)

責任

船長のポラードは、経験不足のボンボンの坊っちゃまです。
ポラードは反対を振り切り嵐に突っ込むという指示をして船員を危険にさらし、あまつさえ「あの決定に問題はない。不運だった」と突っぱねる始末でした。
オーウェンが「不運ではなくご自身で決定のせいでしょう!」と怒るのももっともです。

しかし、ポラードは自身の決定で船を捨てて小舟に乗り込むことを決断しており、その後も残りの食料などでしっかりとした采配をしています。
生き残った後も、ポラードは自分の立場を顧みずに裁判で(船員を食ったという)事実を告げました。

ポラードは船員を死なせてしまったこと、この航海そのものに大きな責任を感じていた。
だけど、初めて嵐に突っ込んだときは、そのことがまだわかっていなかった(もしくは、つまらないプライドがそれを邪魔していた)んですね。

フィクション

トマスは船員たちを食べたことを告白し、「やっと言うことができた」と、どこか解放されたような口ぶりでした。
そのことを罪の意識としてずっと背負ってきたトマスですが、妻はそんな彼を「初めて出会ったときからあなたを愛している、軽蔑なんてしない」と言ってくれます。
事実をすべて語ったトマスに対し、メルヴィルは「すべてを書くわけではありません。これは小説(フィクション)なのですから」と告げました。

『白鯨』は勇敢な船員たちが、白鯨を倒すまでの冒険物語です。
そこには、本作で描かれたような白鯨に倒された後のサバイバルはなく、船が沈没したところで物語が終わっています。
メルヴィルは、そうした悲劇(トマスが隠したかったこと)を書かずに、勇敢な船員たちをたたえて、フィクションにおとしこんだ、と言えるのです。

ここで、「現実にはない(ウソの)物語の素晴らしさ」を説いた、『ビッグ・フィッシュ』を思い出しました。
世の中に、フィクションの物語が溢れていることには、ここに理由があるのでしょう。
本当に辛いことを描かなくてもいい、本当に伝えたいことがあれば―と。

その後に石油が発見されたというニュースを聞いて、「信じられるか?土から油が出るんだってよ」と話すトマスの、喜びと戸惑いが入り混じったような、複雑な表情が忘れられません。
事実を知ってもなお、『白鯨』の物語が愛おしいものに思えてくる。そんな作品でした。

↓原作(実話)との違いをみるにはこちらがおすすめ(映画とは、助けられたときの状況がぜんぜん違う……)。
「白鯨」の元ネタは小説より壮絶だった[ナショジオ]  :日本経済新聞
『復讐する海ー捕鯨船エセックス号の悲劇』 ナサニエル・フィルブリック(著) 相原真理子(訳) – 本を読もう!!VIVA読書!

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  1. ラリーB より:

    不勉強ながら原作「白鯨」は読んでないのですが4DX字幕で見てきました。
    見た後気持ち良くなる作品ではないですがよくぞこの内容を映画にしたなと敬服するばかりです。
    見た後似た印象を感じたのは、昨年に見て以来未だに衝撃が抜けない戦争映画の大傑作「野火」ですが
    人食シーンを撮さなかったり野火よりも敢えて表現はマイルドにしているなと感じました。
    それはヒナタカさんも仰っていた「フィクションが全てを撮す必要はない」と言う言葉にこの映画も則ったと思ったからです。
    この映画は題材を考えればもっとエグくする事も出来たでしょう。
    例えばまだ奴隷解放制もない頃のアメリカでアフリカ系アメリカ人にある程度人権があったり
    (多分実際は真っ先に…でしょうね。食料すらろくに与えられなかった可能性もあります)
    食い物を奪い合って醜い争いが起こったりその顛末を描くことも出来たはずです。
    でも敢えて底の底まで描かなかったのは、勿論レーティングの問題もでしょうけど
    一人でも多くこの映画を見てほしいロン・ハワード監督なりの狙いだったんじゃないかなと思いますね。
    クライマックスで何かを訴えていた白鯨の目を見て何を思うかは各々次第ですが
    綺麗事だけでは生きていけない、でも命を奪う事は罪ではないのかと言う
    この世にはびこる矛盾を象徴しているなと感じました。
    後ヒナタカさんが仰っていた鯨のリアルな解体シーンは見ていてキツかったですね。
    捕鯨に関しては僕は何も言いませんが、見るも無惨に油に変えられる有り様は見ていられませんでした。
    万人受けする映画ではないと思いますが、一人でも多くの人に見て欲しいですね。
    他人の意見にケチはつけたくないんですが、rotten tomatoで低評価を受けるような作品では決してないと思います。
    ※余談ですが4DXで見るとかなーりリアルな船酔い体験が味わえるので
    船に弱い人には余り薦められないかな…とは思いました。
    あと水しぶきも結構な頻度でかかるので落ち着いて見たい人は普通の2Dの方がいいと思います。

  2. おせっかい より:

    この場合のheartって(ある場所の)中心って意味だと思いますよ
    海の真ん中で ってことですかね

  3. ヒナタカ より:

    >ラリーBさん
    『野火』がリバイバルしているので今度こそ観ないと。
    >※余談ですが4DXで見るとかなーりリアルな船酔い体験が味わえるので
    >船に弱い人には余り薦められないかな…とは思いました。
    >あと水しぶきも結構な頻度でかかるので落ち着いて見たい人は普通の2Dの方がいいと思います。
    かなりスプラッシュ効果が強そうですね・・・
    > この場合のheartって(ある場所の)中心って意味だと思いますよ
    > 海の真ん中で ってことですかね
    あ!そうですね。船員たちが行ったのは海の真っ只中ですし。「Center」にしないのがいいなあ。
    ご指摘感謝です。修正します。

  4. 毒親育ち より:

    二日続けて人が食べられる映画を鑑賞・・・
    >一言感想:生きててよかった
    フィクションも入っているのでしょうけど、責められませんわ
    >グロいクジラの解体(脂取り)
    アレが賞取ってしまう国でこんな映画が撮れるとか、やっぱり「白鯨」はそれだけ時代を超える名著なんですね。
    (向こうの人からは「賞取ったからって全米№1大ヒット!でもないし、全米も泣いてないってか呆れてたよ。奴らにも審査員にも。それにアンタらの国の葬儀屋さんの映画も賞取るまで誰も観てなかったよね?」と言われるそうですけど)
    >~責任~
    >オーウェンが「不運ではなくご自身で決定のせいでしょう!」と怒るのももっともです。
    ああ~!つい最近、全身から電磁波を出しそうになった事を思い出す!
    そんな彼も誠実に船長へ成長して行くのが良かったです。

  5. 匿名 より:

    解体した仲間の遺体のうち「心臓」から食べたってエピソードがあって、”Heart"ってのはそっちの意味もあるんじゃないかと思いました。

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著者

ヒナタカ

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