
映画『イミテーション・ゲーム』ふつうでなくても(ネタバレなし感想+ネタバレ解説)
今日の映画感想は『イミテーション・ゲーム / エニグマと天才数学者の秘密』です。
個人的お気に入り度:9/10
一言感想:新たな「天才」映画の傑作
あらすじ
第2次世界大戦下のイギリスで、天才数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)はドイツ軍の暗号「エニグマ」を解読するチームの一員となる。
アランは高圧的で独善的な態度から仲間から孤立していくが、ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ )の加入もあり、いつしかチームは一丸となってエニグマの解読に挑むことになる。
実在の天才数学者アラン・チューリングを描いた伝記映画です。
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アンドルー ホッジス
2916円
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本作は一見すると、ひとりの男が暗号を解読することで、戦争を終結に導くという「英雄もの」だと思うかもしれません。
しかし、実際は違いました。
『アメリカン・スナイパー』と同じく、「戦争の英雄を、ただの英雄としてではなく、ひとりの人間として描く」人間ドラマでした。
そして、『メアリー&マックス』や『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』や『シンプル・シモン』と同じく、アスペルガー症候群(発達障害)を描いた作品でもあったのです。
アスペルガー症候群の症状には、「人の気持ちを察することができない」「何かに没頭するあまりほかのことに気が回らない」「予定と違うことをするのには耐えられない」といった、“融通の利かなさ”が挙げられます。
この映画で何よりもおもしろいのは、その「人の気持ちを理解できない男」が、「誰にも解読できない暗号を解く」というプロットにほかなりません。
主人公は、ふつうの人間ならわかる人の気持ちですら理解できないのに、ふつうの人間にはわからない暗号文を理解しようとするのです。
そこから描かれるのは、アスペルガー症候群ならではの悲哀、ひとりの人間の切ない人生でした。
主人公がヒロインに言ったことばの意味とは何だったのか。
そして、なぜ主人公が、暗号解読機に名前を付けたのか……。
それを考えると、どうしても涙腺が緩んでしまいます。
また、主人公のアラン・チューリングにはアスペルガー症候群以外にも、とある「秘密」があります。
それはWikipediaにも載っている事実ではありますが、できればそのことを知らずに映画を観てほしいと思います。
実在の人間の偉業だけでなく、その人生そのものを「体感できる」話なのですから。
本作はアカデミー脚色賞を受賞しており、それは大納得できるものでした。
本作は第二次世界大戦の時代を描いており、一見すると小難しい作風に思えるかもしれませんが、まったくそんなことはありません。
クロスワード・パズルが得意な変人たちが、チームになって暗号に挑むという、観ていてワクワクする娯楽性も十分です。
しかもこの暗号の「エニグマ」は
・解読のキーを解くための制限時間は18時間!それごとにすべてがリセット!
・解読のパターンは159×10の18乗通りある!
・まともにやろうとしたら、10人が24時間不眠不休でやっても2000万年かかるよ!
という難攻不落にもほどがあるシロモノ。その攻略への過程には、まさにゲームのようなカタルシス、おもしろさがありました。
戦争について詳しくなくても、専門的な知識がなくても(予備知識がなくても)、まったく問題なく楽しめるのも長所でしょう。
さらに、意外とクスクス笑えるシーンもあったりします。
その笑えるシーンというのが、前述のアスペルガー症候群の症状に関するものなのですが、これがとてもかわいらしくて気兼ねなく笑顔になれるでしょう(決して「嘲笑」のような笑いではありません)。
主演のベネディクト・カンバーバッチの演技は素晴らしいということばでは表せないほど、完璧です。
アスペルガー症候群の特徴を捉えることはもちろん、ときおり見せる(人間らしい)表情だけでも感動できるのではないでしょうか。
ただひとつだけ難点をあげるのであれば、時間軸がしょうっちゅう前後する構成であるために、混乱してしまいがちなことでしょうか。
本作はの構成は以下のようなものです。
(1)戦争終結後(1951年)の博士の姿
↓
<以下のふたつが同時並行>
(2)解読チーム結成(1939年)から戦争の終結まで
(3)主人公の少年時代(1928年)の出来事
しかも、上の(2)と(3)は、後に主人公が刑事に語った内容という「回想録」のような描きかたもされています。
このテクニカルな構成は、主人公の「秘密」を描くうえで必要不可欠なものなのですが、映画を観慣れていない方にとっては不親切に感じてしまうかもしれません。
これはおすすめです。
多少性的な話題がありますが、若い方はもちろん、すべての方に観てほしいと思える作品です。
アラン・チューリングはその功績にも関わらず、イギリスに50年以上にも渡り「秘密」にされてきた存在です。
その知られざる人物の人生を、この上のない人間ドラマに仕上げて、いまの世の中に見せてくれたということ……それが何よりもうれしいのです。
タイトルの『the imitation game』もとても深いテーマを持っています。
「imitation」の意味は「模倣」「まね」。
なぜ主人公はこのタイトルの論文を描いたのか?なぜ刑事に「イミテーション・ゲーム」をしてほしいと頼んだのか?
それを観た後に考えてみてみるのもいいでしょう。
多くは語りません。
これまでにも天才の悲哀を描いた作品は数多くありましたが、またひとつ傑作が生まれました。
くり返しになりますが、できるだけWikipediaなどで事前に知ることなく、知られざるひとりの人間の人生を体験するつもりで観に行くことをおすすめします。
↓以下、結末も含めてネタバレです。観賞後にご覧ください。
(C)2014 BBP IMITATION, LLC

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chat_bubbleコメント
アラン・チューリングと言えばコンピュータの父にして悲劇の大天才。
システムを語る上で彼の存在を欠かすことは出来ず、エンジニアの中で彼の名を知らぬ者はモグリと呼んでも言い過ぎにはなりません。
当然の如く、私の崇拝する人物の一人でもあり、是非とも観たいと思っている1本です。
(従って、ネタバレどうこう抜きに、彼がどういった運命を辿るのかは知っています)
地元公開前ですので、ヒナタカさんの記事は映画を観た後に改めて読みたいと思います。
>一言感想:新たな「天才」映画の傑作
自分は天才に弱いと思っています。妬みや僻みよりも尊敬通り越して崇拝すらしてしまう事も多くて、けれど現実の天才の伝記を読むと身近な人はもの凄い迷惑どころか「被害」を被っていたりしますよね。
でもそんな厄介な天才達を魅力的に、また人としての苦しみを教えてくれる映画大好きです!
>主演のベネディクト・カンバーバッチの演技は素晴らしいということばでは表せないほど、完璧です。
事前にチューリング博士がアスペルガー症候群だったと知らずに見たかった!と思う程です!
見た目や日常生活は普通どころか頭良さそうなオーラ出しまくりながら「もしかしてケンカ売ってる?」とキレたくもなるような言動や態度を自然に取るのですから・・・。
>~秘密~
「ミルク」「チョコレート・ドーナツ」「ダラスバイヤーズ・クラブ」でも感じましたが、酷い時代もあったもので、今がどれだけ良い時代か思い知らされます。
また「あなたを抱きしめる日まで」を思い出して脳がグツグツします・・・。
当時にしても、これでよくナチスのアウシュビッツを非難できたものだと・・・。
>~アランの功績~
おもわずスクリーンを拝んでしまいました。
余談ですが、何か東京で恥ずかしい人達が暴れているみたいですけど、あのばら撒いているビラもパソコンで作ってるのでしょうね。
私は隣人にするなら、あの人達よりアランさんの方が良いです。少なくとも私を俗悪映画や漫画を観ているという理由で燃やしたりはしない人だと思えますから。
こんにちは。
アランのクリストファー(「マシン」と「同級生」の相互)に対する洞察、全くその通りだと思います。
この作品の深い部分を上手に解説して下さってありがとうございます。
TBさせていただきます。
>ジョーイは、アランの目の前で「時計」に名前を付けて、その行為を肯定してくれました。
えっそんなシーンあったっけ?と困惑しました
あれはジョーイの薬指のリングを見て
「自分が贈った針金の指輪よりずっといいね」というアランに
今の夫の名を教えただけでは。
> >ジョーイは、アランの目の前で「時計」に名前を付けて、その行為を肯定してくれました。
>
>
> えっそんなシーンあったっけ?と困惑しました
> あれはジョーイの薬指のリングを見て
> 「自分が贈った針金の指輪よりずっといいね」というアランに
> 今の夫の名を教えただけでは。
そうでしたっけ……
勘違いしていたのですね。該当部分を削除します。ありがとうございます。
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』 ~わが青春のクリストファー~
2014年/イギリス・アメリカ/115分
監督:モルテン・ティルドゥム
出演:ベネディクト・カンバーバッチ
キーラ・ナイトレイ
マシュー・グード
チャールズ・ダンス
マーク・ストロング
■概要
原題は『The Imitation Game』。第二次大戦中にドイツ軍のエニグマ暗号解読に尽力した、実在の天才数学者アラン・チューリングの姿を描く、イギ…
ようやく観て参りました。
私自身、幼少時に人工知能への関心を抱き(やはり映画『ウォー・ゲーム』(1983年、ジョン・バダム監督)からの影響を受けて(笑))、没頭しました。
当時の自分はアラン・チューリングの名も、チューリング・マシンの概念も、もちろん彼の論文も知りませんでしたが、幼い自分には歳不相応な、ぶちあたった哲学は嘗てチューリングが問うた「機械は思考ができるか」という問題。本作を観て、この研究は自ずとそこに辿り着くのだなぁと思いました。
その時の話は以下のブログ記事で触れていますので、ご関心があればどうぞです。
http://blog.hangame.co.jp/agc_tailltea/article/36770605/
興味深かったのは、先述の『ウォー・ゲーム』でフォルケンが自ら開発した人工知能に幼くして死んだ我が子の名「ジョシュア」を付けていたことに宜しく、チューリングは学生時代に死んだ想い人の名を付けていたこと。
そう言えば『鉄腕アトム』でも当初は事故死した息子の名を付けていましたね。ひょっとしたらここには何か普遍的なシンパシーのようなものがあるのかもしれません。「イミテーション・ゲーム(模倣ゲーム)」というタイトルも絡めて考えると、色々と隠喩めいている気がします。
> わいせつ罪で逮捕
治療を受け入れることで「クリストファー」とともに過ごす。
司馬遷が宮刑を受け入れることで『史記』を完成させたことに通ずるものを感じます。
> アランがヒューの下ネタを笑えない
単にアスペルガー症と見ることもできますが、同性愛者には意外とフェミニストが多く、女性を扱った性的なネタに抵抗を示すことがあります。
ひょっとしたら彼は、そんな抵抗を抱いていたのかもしれません。
> 秘密は持たないのがいちばんいい
余談ながら、本当に優秀なスパイは文書自体持ちません。盗み出すということをせず、記憶してしまいます。
さらに記憶したものをさっさとクライアントに出してしまいます。手元には何も残らなくなります。
産業スパイの小噺として「あるとき技術部から機密の設計図が外部に漏れて他社から発表された。部門には2人の技術者がおり、片方は知能指数は高いが不器用、もうひとりは知識よりも図面を書いたり実際に組み立てる卓越した腕を持っていた。どちらが犯人か」というものがあり、答えは前者。後者が犯人ならば図面を複写せねばならず、漏洩前に足が付くから。
> 彼の開発したチューリングマシンを我々はコンピューターと呼ぶ
これ、厳密には正しい表現ではないですね。「チューリングマシン=コンピュータ」ではなく、チューリングマシンとは処理系の概念であって、現行の(広義の)コンピュータのすべてがチューリングで動いている訳ではないし、チューリングマシンであればコンピュータと成すかと言えばそれも疑問。
ただ、コンピュータなどという概念の無い時代に「人工頭脳」だとか「検索アルゴリズム」といった概念を構想できる時点で、彼は時代を越えた天才。劇中「あなたには理解できない」と何度も繰り返しますが、当時の人間の殆どには「こいつおかしいんじゃないか」と思われて当然だったろうと思います。
今でさえ、コンピュータ技術者以外には「アルゴリズム」の概念を理解するのは難しいと思いますし、当時ならば尚の事。
> リンゴ
そこには微塵の関係も無いとは言え、後の時代、スティーブ・ジョブスが自らの電子機械に「アップル」と名付けたのは何と言う偶然だろうか!
(そして彼もまた周囲を理解できず、いきなりクビにしたりする「最低の人間」であった)
何度も見直しています。
カンバーバッジのファンになりました。
アランが校長先生に「知りません」とか「友達ではありませんでした」と答えるのは、それ以上心を許して話してしまうと、①自分の性的志向がばれるのではないかと恐れていたため ②二人の貴重な思い出に立ち入られたくないたえ などの理由かと思いました。
サイモン・シンの暗号の本を読んでみたところ、アランのチームが特定の単語を検索対象から外す ということは載っていませんでした。 この映画のこの要素は別のソースがあるのかな・・? あと、ブレッチリーで一緒に働いた人によると、親切でよく説明してくれた、そうです。
ヒナタカさんはじめまして。
私は大学でおすすめの映画を紹介するフリーペーパーを作っていて、次にイミテーションゲームのことを書く予定なんですが、その際にこちらのブログを紹介させていただきたいのです。
りんごについてとなぜクリストファーと名付けたのか、の解釈が素晴らしいと思ったので、もしよろしければ許可をいただきたいです。
お返事お待ちしております。
> ヒナタカさんはじめまして。
> 私は大学でおすすめの映画を紹介するフリーペーパーを作っていて、次にイミテーションゲームのことを書く予定なんですが、その際にこちらのブログを紹介させていただきたいのです。
> りんごについてとなぜクリストファーと名付けたのか、の解釈が素晴らしいと思ったので、もしよろしければ許可をいただきたいです。
> お返事お待ちしております。
むしろとっても光栄ですのでぜひよろしくお願いします。
フリーペーパーの名前などを教えていただいたらブログで宣伝もしますよ!(あまり宣伝にならないと思いますが……)
お返事ありがとうございます!
来週中には書き上げますので、できたらまたこちらのコメント欄でお知らせします。本当にありがとうございます!!
こちらのブログを読んで、イミテーションゲームを最初に観たときよりいっそう好きになりました。たまに読み返して泣きそうになってます。
たくさんの人がこの映画に興味を持ってヒナタカさんのブログに足を運ぶような記事をがんばって書きます。
重ね重ねお礼申し上げます。
> お返事ありがとうございます!
> 来週中には書き上げますので、できたらまたこちらのコメント欄でお知らせします。本当にありがとうございます!!
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> こちらのブログを読んで、イミテーションゲームを最初に観たときよりいっそう好きになりました。たまに読み返して泣きそうになってます。
>
> たくさんの人がこの映画に興味を持ってヒナタカさんのブログに足を運ぶような記事をがんばって書きます。
> 重ね重ねお礼申し上げます。
こちらこそ重ね重ねありがとうございます。
できたらでいいのですが、フリーペーパーを配布されるときには、何か写真などを添えて、◯◯大学の◯◯というフリーペーパーっであると、教えていただけると幸いです。
こちらからも宣伝がしたいので!写真などは以下のメールアドレスまでお送りください。
(☆を@に変えてください)。
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よろしくお願いします。