『ひそひそ星』「退屈」こそが重要な映画?(ネタバレなし感想)

『ひそひそ星』「退屈」こそが重要な映画?(ネタバレなし感想)

今日の映画感想はひそひそ星です。

個人的お気に入り度:4/10

一言感想:本当に撮りたかった映画なんだな

あらすじ

アンドロイドの鈴木洋子(神楽坂恵)は、宇宙船に乗り込み、相棒のコンピューターとともに、星々を巡り人間の荷物を届ける宇宙宅配便の配達員をしていた。
洋子はまめに船内を掃除したり、旅を記録したりと、長い時間をマシンらしく、退屈せずに過ごしていたのだが……

アナーキーな映画監督・園子温最新作です。

2015年の園監督作品は、
ラブ&ピース
新宿スワン
リアル鬼ごっこ
みんな!エスパーだよ!
と、いずれもファンにとっても賛否両論な作品ばかりだったので、「そろそろ絶賛したい!」と思っていた方も多いだろうと思っていたらこれまた別ベクトルですげえ好き嫌いが分かれそうな作品をぶっこんでくる園監督は本当に素敵だと思います(皮肉なしに褒めています)。

睡魔との戦い

まずこの映画の特徴を端的に、身も蓋もない言い方をすればものすごく退屈ということです。

何せ劇中のほとんどは、主人公のアンドロイド(女性)が宇宙船の中ででずっとひとりでいて、床を掃除したり、旅の記録を取ったり、たまに船内のテープレコーダーに音声を入力するといった、地味すぎる展開ばかりです。
しかもタイトルの通り、ずっと主人公は「ひそひそ声」で話すので、余計に睡魔が召喚されてしまうでしょう。

いままでの『冷たい熱帯魚』『地獄でなぜ悪い』などの園監督作品はよくも悪くも退屈なんて感じさせない、勢いのある作品ばかりだったので、よけいに面食らう人が多いのではないでしょうか。

アンドロイドは「退屈」を考える

かと言って、この映画をつまらないと決めつけるのは早計でもあります。
本作は退屈であることが重要というか、退屈であることが前提になっている作品なのですから

公式サイトの「ストーリー」では、「宇宙船での旅はたいくつ極まりない。しかし、マシンである洋子は退屈を感じない」とあります。
つまり、この映画の観客は退屈を感じているが、映画の中に映っているアンドロイドは退屈と思っていないのです

また、この映画の設定は「人間は『ワープ』という技術を手に入れているはずなのに、なぜかわざわざ何年もかかる郵便配達員(主人公)に、遠くの大切な人へ荷物を届けさせている」というものです。

これらを踏まえると、映画の主人公(アンドロイド)の思考は以下のようになります。

(1)ワープを使えば一瞬で済むのに、なぜわざわざ何年もかけて荷物を運ぶのか?
(2)長い年月を過ごすことは、人間にとって「退屈」である。
(3)私はアンドロイドなので「退屈」という概念そのものが理解できない。

このうち(1)と(2)は人間にも理解できるのですが、(3)はアンドロイドならではの思考です。

そして、この映画は、観客の「退屈」という気持ちそのものを、アンドロイドになりきって「退屈ってなんだろう?」「時間ってなんだろう?」「そして時間とともに薄れていく『記憶』ってなんだろう?」と置き換えて哲学的に考えると、とても奥深い作品になると思います。

ロケ地は被災地だった

なお、劇中で宇宙船が向かう場所(ロケ地)は、東北大震災の被災地である福島県(富岡町・南相馬・浪江町)であったりします。
それは「破壊されたもの」の象徴のような場所。そこに「贈り物(記憶)」を届けるというのは、果たして「再生」なのか、それとも別の何かなのかー。
観た後に、いろいろと考えられる楽しみがあるというのは、本作のもっともすぐれたところでしょう。
(あるいは、ラストではっきりと作品が訴えたいことがわかるかもしれません)

ただ、「退屈」を重要視した作りそのものは方法として間違ってはないと思うものの、やはりそれで単純に「おもしろい」と言うことはできません。
娯楽性はほぼ皆無、モノクロームの映像も相まって「芸術作品」という側面が強い作風は、ひどく観る人を選ぶでしょう。

『惑星ソラリス』あたりの、映像美と哲学的考察が魅力になっているSF作品が好きであれば、本作を気にいるかもしれませんね。

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※同じく「記憶」「時間」が重要になってくる作品。上映時間は165分あります。リメイク版は賛否両論。

『ひそひそ星』が、園監督が構想25年を経て結実した、「いま作りたい映画」ということは伝わってきました。
なぜなら、これはいままでの作風をガラリと変えてまで、しかも東北大震災の被災者の気持ちを汲み取っている作品なのですから。

園監督ファン、一風変わった映画を観たい方、被災された人々の気持ちに寄り添いたいと願う方に、ぜひおすすめします。

※ちなみに、園子温監督初期の作品『部屋/THE ROOM』もモノクローム映画でした。『園子温 監督初期作品集』に収録されています。

<数少ない上映館はこちら>
ドキュメンタリー『園子温という生きもの』も同時公開です

ネタバレは以下がおすすめ。結末までネタバレしています。
ひそひそ星(注意表記以降、ネタバレです): The Palantir

(C)SION PRODUCTION

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著者

ヒナタカ

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