
映画『ヒメアノ~ル』捕食される者たち(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
今日の映画感想は『ヒメアノ~ル』です。
個人的お気に入り度:9/10
一言感想:エグいけど、本当に観てよかった
あらすじ
平凡な毎日に焦りを感じながら、ビルの清掃のアルバイトをしている岡田(濱田岳)は、同僚の安藤(ムロツヨシ)から思いを寄せるカフェの店員ユカ(佐津川愛美)との恋のキューピッド役を頼まれる。
そのカフェで、岡田は同級生の森田(森田剛)と再会するが……。
観ろ。
こうした暴力的なR15+指定の映画って、(たとえ自分がおもしろいと思っても)人におすすめすることは、ふつうははばかられるんですよ。
(例:『悪の教典』『ディストラクション・ベイビーズ』)
でもこの映画は違うんだ!
殺人場面は直接的で猟奇的だし、下手なホラー映画よりも怖いよ!
エロ要素も十分にあるよ!
ていうか18禁でもいいくらいに凶悪な演出まであったよ!
でもひとりでも多くの人に観て欲しいんだよ!
それがなんでかということは、以下にも書きました。
<『ヒメアノ〜ル』はいかに原作を改変して大傑作となったのか! 10の魅力を徹底解説! | シネマズ by 松竹>
本作は古谷実原作の同名漫画を原作としてるのですが、もう完璧と言えるまでにブラッシュアップされているので驚きました。
原作もダメ人間たちの日常と、「殺人をしなければならない」男の心理描写がすこぶるおもしろい作品だったのですが……その一方でエピソードが乱立されすぎて、ややまとまりのなさも感じてました。
これをそのまま実写映画化すると冗長な作品になってしまったでしょう。
だけど、映画ではエピソードをしっかり取捨選択し、さらに活躍の場を登場人物に与えています。
そして原作を超えたメッセージ性とラストの感動……この改変は、もう大・大・大正解であると断言できます。
原作との違いでもっとも大きいのは……
原作と映画の違いはいろいろあるのですが、もっとも大きな変更点だと感じたのは殺人鬼「森田」のキャラクターでした。
彼が「ふつうとは違う殺人への価値観を持っていること」は原作と映画で共通していますが……決定的に違うことは、原作は「殺人哲学」を語っていたのに、映画では「人生哲学」を説いていることです。
原作では殺人を「しなければならない」理由を淡々と語っていた森田でしたが、映画では(予告でも観られるとおり)「俺もお前も人生終わってんだよ。何も持っていないやつが底辺から抜け出せるわけがねえだろ」と「人生への諦め」を語っているのです。
(このことは、作中で大きな意味を持つようになります)
また、原作では「あんなにかわいい女の子が、あんなに冴えない男の子に惚れるなんて都合がよすぎね?」という批判もあるのですが、映画ではそこもある意味で納得できるようになっていましたね。いや、これもキツイんだけど……。
吉田恵輔監督との相性が良すぎた!
これまでダメ人間のダメなところを愛おしく描いていた吉田恵輔監督(脚本も兼任)でしたが……この『ヒメアノ~ル』でダメどころか狂っている殺人鬼を描くことで、ここまで凶悪になるとは思いもしませんでした。
振り返ってみれば、コメディであった『さんかく』もホラーかと思うくらいのヤンデレ描写があったし、基本的にどの作品でも登場人物を地獄に突き落とすようなキツい展開が多いんですよね。
観る前は「やさしい人間たちを描いてきた吉田監督と、凄惨な内容の『ヒメアノ~ル』って相性がいいのかな?」と疑問だったのですが、実際は化学反応が起きすぎでした。
監督のファン、原作漫画のファンは何としてでも観ることをおすすめします。
キャストも最高だ!
キャストの魅力にも触れずにはいられませんよね。
濱田岳はどっこからどう見てもイケていない童貞青年、佐津川愛美はカワイイけど微妙にアレっぷりを見せ、ムロツヨシは本気でキモい(褒めてる)しゃべりかたをして、そして森田剛は観た後にはお近づきになりたくなくなる。
このキャストの「ヤバすぎるサイコキラーっぽさを見て、役者の印象そのものがかわってしまう」というのは、『冷たい熱帯魚』のでんでん、『凶悪』のピエール瀧と同等か、それを超えるレベルでした。
あと、駒木根隆介&山田真歩のカップルは原作に似すぎである。
このふたりは『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』でも共演していましたね。
吉田監督には、ぜひ同じく古谷実の漫画『サルチネス』も映画化してほしいですね。
この作品は「ニートの主人公は妹想いだけど、ダメ人間すぎて周りに迷惑をかけまくる」という内容。
ラスト付近の伏線回収がお見事すぎる&大号泣必至の傑作なので、これも実写でぜひ観たいのです。
また、映画の『ヒメアノ~ル』が気に入った人には、その原作漫画はもちろん、『シガテラ』を読んでみることをおすすめします。
「ダメな青年が美女とお付き合いできる」「日常と狂気に満ちた犯罪が交錯する」などと、『ヒメアノ~ル』とけっこう共通点が多い作品なのです。
重ねて言いますが、本作は「よくR15+指定止まりで許されたな」と感じるほどにエグい内容でありながら、ひとりでも多くの人に観てほしいです。
暴力的な描写が苦手だ、という方にとっても……それは作品に必要なものであると、きっと気づけるはずですから。
coco映画レビューで96%という評価は伊達ではありません。
今年ベスト級の映画を期待しても、きっと裏切られないでしょう。
超・超・超オススメです!
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓ ほんのすこしだけ原作との違いにも触れているのご注意を(映画とは違う、原作のオチなどは書いていません)
(C)2016「ヒメアノ〜ル」製作委員会

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chat_bubbleコメント
見終わった後の衝撃が今でも凄まじく残るズシーンと重くのしかかるような映画でした…
冴えない童貞男のホンの些細な言動で狂気の闇に飲まれていく…
濱田学氏演じる岡田くんの人生全く光が見えない燃えカス男もハマっていましたし
キモくてめんどくさいけど何だかんだで面倒見良いムロツヨシ氏演じる安藤さんも良かったです。
そして佐津川愛美氏演じるヒロインのユカちゃんは可愛らしさと麗しさ
2つの顔を持ち合わせた文字通り魔性の女でしたね…ベッドシーンも凄かったです
まあでも皆さん同様やはり全てを決めるのは森田剛氏演じる森田くんでしょうね…w
僕はキャスト発表の段階で「『ランチの女王』の修史じゃん!」と興奮しましたが
本作ではそのやさぐれを更に先に超えたような凄まじい怪演ぶりでした。
息をするように人を殺し、死体見てナニしたり、死臭ムンムンの部屋で平然とカレー食ったり…
「失う物の無い者の強さ」とはよく言いますが
本当に何もないから強いと言えるのは彼のような気がしました。
いじめによってあの人格になったのか、元々持っていた闇が
いじめによって覚醒したのかはグレーに描かれていましたが
「殺しちまえ!」「死ねって言ってんだろ!」と耳鳴りが彼を突き動かし
最後は破滅的な結末へと向かう。もしあの時何かが違っていたら…
そう思わずにはいられないものを最後に見せられて本作は終わるわけですが
本当に悲しくも恐ろしい、凄い映画でした(すいません、ありきたりな感想で)
本当に本作に関しては「見てください」としか言えないですね。
面白かったです。
パンフレットからの監督のインタビューの情報ですが、中学生時代の森田と岡田が遊んでいたのはPSのグランツーリスモとの事です。
ラストの警察との追いかけっこと衝突は、このゲームの記憶を森田が無意識になぞっていたからかもしれないですね。
余談というかヒナタカさんは既に見られてるかもしれませんが園子温のヒミズも古谷先生の原作がら改変されて希望を抱ける様なラストに変えられています。
今回のヒメアノ~ルも既望というか幾分優しい終わり方だったので、そろそろ次の古谷作品の実写化はまんま原作らしいエンドを迎えても面白い気がします。
この映画を思い出すとまだ胸がざわざわします。
>〜タイトルで地獄に突き落とす!〜
タイトルコールの焦燥感は半端なかったですね!ラブラブな二人とそれを見つめる殺人鬼森田の落差がすごくて、幸せの絶頂だったシーンから一気に奈落におとされました。(個人的にはわくわくしました)
森田くんの頭の中では彼の声で殺人衝動が起きていることが後のシーンで分かりますが、このタイトルコールはそんな彼の状態を音楽と映像で表現してるんだと思います。
私は原作未読なのですが
映画観た感じでは森田は多重人格だったのではと思いました
学生時代の事件からずっと殺人者の人格が主で
最期の最期で出てこられたからあのセリフなのかと
でもこれは原作のテーマとは違いそうですね
虐められるくらい内気な青年であり、狂った殺人鬼でもある難しい役ですが、森田君見事でした!
公園でタバコを注意されるシーンが既に怖い。
日常に溶け込んでるけど、全く違う倫理観で生きてる人って、ジェイソンみたいな怪物よりずっと精神的にきますね….
やっぱり冷たい熱帯魚を思い出さずにいりません。
でも、かなり終盤までユカちゃんが諸悪の根元なんじゃないかと思いながら見てました(笑)
あまりにも都合がよすぎて不穏な空気すらだしていたから、てっきり….
ヒナタカさんのヒメアノ~ルレビューを勝手ながら待っておりました!
本当に笑えたラブコメディから一気に突き落とされたようなあのタイトルの出し方、ゾクッときました……。ヒナタカさんの10の魅力も拝見しましたが本当に、本当に疑似体験をさせられているようで震えるやらでも笑えるやら、最後は涙が出るわで物凄く感情に忙しい映画でしたが、見終わったあとの恐ろしさと相まって、それと同じぐらいに「もう一度見なきゃ」と思っている自分がいました。あれだけ怖い思いをして、人間の生々しい部分を見て、それなりに血も出ていたのに何だかパワー?に溢れた作品だと想います……。
私は森田剛君のファンで、同様にV6のファンでもあるのですが、岡田君のエヴェレストが原作ファンからもそうでない人からもモヤっという後味を残してしまうようなものだったのでちょっと心配だったのですが、全くの杞憂でした!まさかここまで凄まじい演技をするとは……と彼の新しい一面を見れて大満足です。やっぱりもう一度見に行かなきゃ……って思っています(笑)
長文失礼いたしました。ヒナタカさんがレビューをしてくださって嬉しかったです!
みなさんコメントあざあああああっっす。レビューしてよかった!
タバコを注意されるシーンを忘れていた!ここだけ追記します。
漫画喫茶でお金が足りなかったシーンの直前だったと思いますが、森田がカッターナイフで抵抗しようとするもののカツアゲされてしまうシーンがあって、二つ合わせて、殺人鬼と化した後でも相手によってはあくまでも補食される側にいることを示してるように感じました。
あと、車で逃げるシーンで、それまでは邪魔な警官は躊躇せずに轢いたりしてたのに、白い犬を連れた人をかわそうとしたのがきっかけでクラッシュしてました。ラストにまた白い犬が出てきて、この白い犬をきっかけに殺人鬼になる前の状態に戻りつつあったのかな、と感じました
古谷実先生について個人的に。
今でも『稲中』で爆笑しています。『ヒミズ』以降の作品は未読なのですが、発表された時の世論は「どーしちゃったの!?」「古谷先生壊れた!?」と戸惑いが締めましたが、その後もシリアス路線で高い評価を受け続けている。これで漫画家志望でなく、駅で拾った雑誌に載っていた新人賞受賞作品がつまらなくて「この程度で賞金貰えるなら」と生まれて初めて描いた漫画を持ち込みした青年の現在です。
天才めっッッ!!
>でもひとりでも多くの人に観て欲しいんだよ!
特に今現在、イジメをしている人達にですね。森田を観て思い出したのは再来週に激突する二人です。「アンタ達はこんな怪物を産みだし、恐ろしい呪いを世に放つかもしれないんだぞ・・・」と。
しかも作中森田を怪物にした元凶、河島は既に因果応報を受けてこの世に居ないというのが、なんも言えないやるせなさです・・・。
>「俺もお前も人生終わってんだよ。何も持っていないやつが底辺から抜け出せるわけがねえだろ」と「人生への諦め」を語っているのです。
これには森田も被害者なのだから・・・片付けてはいけないと思います。なぜなら本作には不安や不満を抱えながら、誰にも迷惑をかけずに正しく生きている人達もたくさん出て来ます。その一線を越えた者は、もう人でなく怪物だと思います。
実際にこういう人が凶悪犯罪を犯し、何の関係も無い人を不幸のドン底に引き摺り込む事件は起こっていますよね。「無敵の人」と自称しているそうですが、こういう人達は「死刑」など望む所だそうです。ならば社会はそろそろこうした輩から出来る限り、被害者が負わされた損害を回収する制度を確立すべきだと思います。
ここで「更生」などという人達は、実際に「無敵の人達」と接して更生させてほしいです。怨みも怒りも当事者のもの。それになんの関係も無い所から、口先だけで被害者と遺族に赦しを強制するような真似は殺人鬼よりおぞましい行為としか思えないのです。
ここで気付いたのですが、森田はラストでイジメから現在までの記憶を失ったのではないかと。となると、友達と穏やかな夏休みを過ごしていた15歳の純朴な少年が、連続殺人犯という事実と罪だけを背負い余生を生きる事になるのではないでしょうか。
これは何よりの罰かもしれません。殺人鬼森田でなく、友達とのTVゲームという慎ましい幸せをこよなく愛する森田少年は、自身のおぞましい行為を決して赦さないでしょう。
>~童貞とはこうありたいもんである~
すみません。自分はけっこうイライラしてしまいまい。逆にユカちゃん天使か!?と思ってしまいました。
ただし、ユカちゃんが単にダメな男の子を愛してあげてる自分が好き・・・な娘でないと良いのですけど。
(少女しか愛せないロリコンと、単に自分が肉体的経済的その他あらゆる面で優位に立てる異性を愛玩の対象としているだけな、タダのゲスとの違いのような・・・)
>~安藤さんの活躍~
本当に本作の清涼剤でした!
森田は怪物になってしまいましたが、他にも本作の登場人物は皆どこかダメながら正しく生きている人達なのが救いでした。ユカちゃんの親友のアイちゃんも礼儀知らずかもしれませんが、その指摘は岡田君の欠点をしっかり見抜いていましたしね。
NLさんの指摘
一方、本来は正面切って戦えば森田も適わないであろうお巡りさんは、森田を警戒しなかったばかりに不意を突かれて無残に殺されてしまいました。また二人がかりでありながら、これから殺人を犯す決意を固めたとは思えない程の段取りの悪さで返り打ちにされてしまった和草と久美子も。総じてこの世は善人ばかりが喰い物にされ、悪党こそが蜜を貪る・・・という胸糞悪い真理が描かれているようで、凄く辛いです。
古谷実作漫画は稲中とヒミズを読んだ程度で本作は未読、吉田恵輔監督作は本作が初めてでしたが、みぞうちを打たれたような重たい映画でした
個人的に岡田君とユカちゃんのsexシーンと森田が井草カップルを惨殺するシーンを交互に見せられたのがとてもキツかったです(後者は殺される井草の彼女の描写がホントにキツい…。)。
今まで映画の中で強烈なインパクトがあったいわゆる「殺人鬼」をたくさん観てきましたが、本作の「森田」は本当に、真に哀しく見えて言葉になりません。
終盤で岡田君と初めて出会った頃の精神に戻された森田を見て、「バキ」で烈海王に破れ敗北を知り、自我が崩壊したドリアンとリンクしました(最後駄文ですみません)。
>みなさんコメントあざあああああっっす。レビューしてよかった!
そうなんですね。いや、そりゃあそうですよね。
これから私もコメントして行こうと思いました。
取り敢えず「またかよ」と思って途中で買うのを止めた「サルチネス」を読破しようと思いました。
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