
『HELLO WORLD ハローワールド』ラスト1秒でひっくり返ったものとは?徹底ネタバレ解説・考察!(前半ネタバレなし感想)
今日の映画感想は『HELLO WORLD』です。(※記事の前半にはネタバレはありません)
個人的評価:8/10
一言感想:“SF”と“物語”への愛に溢れていた!
あらすじ
世界が壊れても大切な人を救おうとします。
いや、これ、すっげー面白かったですよ!
パッと見の印象では明らかにボーイ・ミーツ・ガール×セカイ系(主人公のやったことが世界に及ぶ物語)な内容で、『君の名は。』以降に企画されたエピゴーネン(模倣されたオリジナリティのない作品)に思えるかもしれませんが……それで「またこういうのか」と思ってしまって観ないのはあまりに勿体無い、SFと物語(フィクション)への愛情に溢れた素晴らしいアニメ映画でしたよ!
本作のネタバレの部分は後に回すとして、まずは企画の成り立ちからちょっと語りましょう。
『君の名は。』に影響されまくった企画でした
最近は少年少女が主人公の青春系アニメ映画が多いようで、2019年だけでも『あした世界が終わるとしても』、『きみと、波にのれたら』、『HELLO WORLD』、『ぼくらの7日間戦争』(12月公開予定)など、このジャンルが大渋滞を起こしているような気がします。
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実はこの『HELLO WORLD』……パンフレットでは、シナリオまで執筆していた別の企画があったものの、2016年に公開された『君の名は。』によってアニメ映画を取り巻く状況が変わってしまった、東宝社内で求められる企画の種類も変わってしまったとはっきり明言されているんですよ。
その元々のボツになってしまったシナリオはSFの“濃度”がさらに濃かったものだったそうで、武井克弘プロデューサーは「もっとエンタメ要素が強いものを追求しませんか?」と提案。脚本家の野崎まどはほぼほぼ“一度完成したものを完全にひっくり返す”執筆作業を余儀なくされていたのだそうです。
そして実際に出来上がった映画は……超絶テンポの良い展開、少年少女の恋心、挿入歌で気持ちを持っていく演出などなど……間違いなく『君の名は。』のフォロワーだろうなと、良くも悪くも思える内容になっていました。
しかしながら、決して『君の名は。』の「二番煎じ」「パクリ」などではなく、しっかり独自の魅力があるのがこの『HELLO WORLD』の偉いところだったりもするのです。
ありとあらゆるSF作品からの影響があった!
では『HELLO WORLD』独自の魅力が何か?と問われれば、ありとあらゆるSF作品の要素をぶち込んでいることでしょう。
例えば劇中には「(グレッグ・)イーガンっぽいなあ」というセリフがあったりするんですよね。
もう予告編などで言ってしまっていますし、実際の映画本編でも序盤に早々にサラッと開かさるので言っちゃいますが、本作の設定は「僕らは現実世界の“データ(記録)”だった」というもの。伊藤智彦監督は、グレッグ・イーガンの『順列都市』や、映画『マトリックス』なども思い切り意識して、この設定を考えていたと語っているのです。
※『順列都市』では不死となった仮想世界の人類が描かれていて、『HELLO WORLD』の“記録世界”のあり方はこの作品を意識していたのだとか。
そのほかにも、パンフレットには膨大な数の影響を受けた(SF)作品が挙げられています。
「その要素も確かにあるなあ」と思える作品ばかりなので、我こそはSFや映画好きだと言う方はぜひパンフを買って読んでみてほしいですね。作り手のあまりのオタクっぷりに嬉しくなりますから。
また、本作は3DCGが多用されているのですが、これがいい具合に仮想空間“らしさ”を表しているようにも見えます。
3DCGにある多少の“無機質さ”は、仮想空間にあるデータ(記録)であるという説得力に繋がっているとも思えるんですよね。
あと、この『HELLO WORLD』がメインターゲットにしているのは『君の名は。』に熱狂した中高生など若い世代だと思うんですが、実は30代以上のSF作品や映画のファンが歓喜できる内容というのも面白いですね。
そんなわけで、本作はいい歳をしたおじさんにこそオススメできるのです。
気になるのはテンポが早すぎること?
この『HELLO WORLD』で気になってしまうことは、明らかに詰め込みすぎな印象があるということでしょうか。
そこそこに複雑な世界観の設定は矢継ぎ早に説明され、ストーリーは二転三転し、テレビアニメであれば2クールくらいやりそうな内容を98分の中に詰め込んでいるため、テンポが早すぎて理解がギリギリ追いつくか追いつかないレベルになっているんですよね。
「そこはもうちょっと“間”を持たせたほうがいいのでは?」と思った部分もあって、テンポを良くすればそれでいいというわけではないことを思い知らされました。
また、サブキャラクターにぶりっ子一歩手前くらいの可愛い女の子がいるのですが、劇中ではちょっと中途半端な扱いであることも否めませんね。
スピンオフ小説で初めてわかることも多いようなのですが、もう少し本編だけでも納得できるようにして欲しかったというのが正直なところです。
また、これまた『君の名は。』よろしく挿入歌に乗せてダイジェストで物語を紡いでいくシーンがあるんですが、そちらに比べると編集も画も高揚感に欠けているというのも正直なところです。
あの『君の名は。』および『天気の子』のミュージックビデオ的な快感は、新海誠監督の画の美しさと編集の妙によるところが大きいと感じた次第……その作家性は安易にマネできるものではないのですね。
ちなみに主題歌・挿入歌はOKAMOTO’s、Official髭男dism、Nulbarichと若者に大人気のアーティストが手がけています。
それぞれ映画の内容および劇中のシーンにマッチしていて、楽曲そのものも素晴らしいクオリティでした。ぜひサントラを視聴してみてはいかがでしょうか。
ネタバレなしで魅力のまとめ
この『HELLO WORLD』はスクリーン映えする大胆な演出や、ドラッギーにも思えるダイナミックな構図のアクションがあるのも嬉しいところですね。
アニメーションとしての“快楽”がまずはあるということ、これだけでも映画館で堪能する価値があるはずです。
また、伊藤智彦監督は『ソード・アート・オンライン』や『僕だけがいない街』などテレビアニメで高い評価を得ている方で、武井克弘プロデューサーはその2つを掛け合わせた作品にしたいという狙いもあったそう。
確かに、『ソード・アート・オンライン』は仮想世界で自分の目的を達成しようとする作劇、『僕だけがいない街』はタイムトラベル要素や子供が大人と協力(または対決する)物語と、『HELLO WORLD』と通じているところがありますね。
また、北村匠海の内気な少年、松坂桃李のイケボぶり、浜辺美波のクールさと、主要ボイスキャストもとても上手くて良かったですね。
北村匠海と浜辺美波が図書委員というのは実写映画版『君の膵臓をたべたい』まんまで笑ってしまいましたが、2人がそちらとは全く違うキャラを演じていることにも注目です。
さらには大人気声優と釘宮理恵と子安武人が、めっちゃ特徴のあるキャラを演じているのも見どころですね。
あと『けいおん』の堀口悠紀子が担当したキャラデザイン、というかヒロインが超可愛い。
むしろちょっと可愛すぎて(萌えっぽくて)苦手に思う方もいるかもしれませんが、実際の本編を観れば誰もが好きになれるんじゃないでしょうか。
そして本作で何より好きだったのは、現在公開中の『天気の子』に似た価値観を訴えていながら、異なる感動を用意していることですね。
これはセカイ系の作品としても1つのアンサーであり、『君の名は。』と『天気の子』にモヤっとした方にもオススメできるのです。
※『天気の子』の感想・解説記事はこちら↓
『天気の子』願いの到達点が、ここにあった(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
そんなわけで、「我こそはSFが好きだ!」な方は絶対に映画館で観たほうが良い案件です。
そのSFへのむせかえるような愛や、詰め込みまくりの作劇など、正直に言って観る人を選ぶところがあるのも否定はできませんが、初めに掲げた通り「また『君の名は。』みたいなやつか」と思って観ないのはあまりにもったいないです。
興行収入は現時点では決して芳しくないようなので、応援するためにもぜひ劇場へ。
↓以下からは本編の内容が大いにネタバレです。鑑賞後にお読みください。
※小説版はキャラクターの一人称で語られており、より彼らの心情がわかりますよ。
(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

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