『ファースト・マン』4DXの凄さとデイミアン・チャゼル監督の作家性を語る!(ネタバレなし感想)

『ファースト・マン』4DXの凄さとデイミアン・チャゼル監督の作家性を語る!(ネタバレなし感想)

今日の映画感想はファースト・マンです。

個人的お気に入り度:7/10

一言感想:ただの伝記映画じゃない、デイミアン・チャゼル監督の作品だった

あらすじ

ある葛藤を抱えつつも、月に行く決心をします。

『セッション』『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督最新作です。
本作はおそらく世界一有名な宇宙飛行士であるニール・アームストロングを主人公とした伝記映画、普通であればその偉大な功績を讃える内容になりそうなところですが、さすがはチャゼル監督、ぜんぜんそういうんじゃない

どういうところに「チャゼル監督らしさ」があるのかは後述しますが、ひとまずは本作は4DX版が超素晴らしかった!ということを訴えておきます。これはすごいぞ!

※4DX……「体感型(4D)」の最新劇場上映システム。座席が作品中のシーンとリンクし、座席が前後上下左右へ移動するほか、風、水(ミスト)、香り、煙など、各種演出も体感できる。

4DX史上最高の恐怖!大人に全力でオススメ!

えーと、今回の4DXの何がすごいってね、マジで怖いっていうことですよ。
いや、これはちょっとシャレにならないです……。下手なホラー映画よりもよっぽど怖かったよ……!
イヤだ!怖すぎて!もうこれ以上やめて!って思ったほどだったもん……(褒めています)。

なぜ怖いのかといえば、宇宙飛行士が宇宙に行くシーンをまさに「体感」できるから。
実際は観ていただくしかないんですが、座席がグワングワン揺れるのはもちろん、「制御不能な宇宙船の回転」も見事に表現しているのです。

チャゼル監督もこちらの動画で「まるで現場に居合わせたような緊張感を体感するでしょう」「宇宙飛行士がどのような経験をしたのか、彼らが抱いた恐怖や、彼らに対する威厳を感じていただければ」などと語っています。
言うまでもないことですが、1960年代当時に(今でも)生身の人間が宇宙へ行くということは文字通りの「命がけ」、そのマジで死んでしまうかもしれない緊張感と恐怖を、4DXでたっぷりと体験できるのです。

また、ジェミニ8号およびアポロ11号の船内がめちゃくちゃ狭くて閉塞感がたっぷりということも怖さを増大させています。
体勢を変えることも困難なほどに狭い場所で、逃げられない状況でのトラブル、それは最悪の結果として「死」をもたらす……こんなに怖い状態は他にあるでしょうか。
この恐ろしさは(4DXの演出を抜きにしても)映画館という限られた場所で観てこそ、切実に感じられるでしょう。

さらに感動したのは、とある「フラッシュ」の演出。
これはもう実際に観て体感していただきたいので詳しくは書きませんが、「狭い宇宙船での宇宙船の制御不能な回転」の表現のために「その手があったか!」と感動&感心してしまうものだったのです。

また、4DXの演出そのものにメリハリがあり、不必要な演出が抑えられているというのも良かったです。
例えば、カメラが登場人物のすぐそばにいる(観客が登場人物と同居できる)状況では4DX演出が最大限に繰り出される(座席が揺れまくる)のですが、カメラが遠くからの俯瞰的な視点になれば演出は最小限になる(座席はごく細かく揺れるようになる)のです。

さらに、これらの4DX演出が映画の冒頭のシーンからフルスロットルなんですよね。
どういうシーンが冒頭に待ち受けているのかは書きませんが、ここだけでも存分に怖く、その後のシーンではその恐怖をさらに超えてくるとは……!

さらにさらに、4DXの座席の演出は「宇宙空間での無重力」をも体験させてくれるんですよね。
宇宙に飛び立つ時はグワングワン揺れるけど、宇宙ではゆっくりと揺れて「浮遊している」感覚になれる。
これも繊細な座席の揺れの「調整」があってこそでしょう。

そんな訳で本作の4DX演出は文句なしの出来栄え、大・大・大プッシュでおすすめします。
荒唐無稽なアクションではない、リアルな「体験」をさせてくれるドラマ映画の4DX演出の中では最高傑作と言えるでしょう。

今回の4DXの難点をあえて挙げるのであれば、怖すぎてあんまり小さい子にはおすすめできないと思ったことくらいでしょうか(中学生くらいからなら問題ないと思います)。
成熟した大人でも……いや大人こそが「これはすごい」「マジかよ!」「怖っ……!」「もう勘弁してくれ!(良い意味で)」と驚ける、まさに宇宙飛行士の気持ちになれる唯一無二の体験が、きっとありますよ。

チャゼル監督らしさ全開!その「狭い価値観」の作家性とは?

さてさて、本作は前述した通り『セッション』『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督の最新作です。
その作品群は熱狂的な支持を得ていますが、一部では強烈なまでの否定的な意見も噴出しています。

その賛否両論になる理由はいろいろとあるんですが、彼が紡ぐ物語のクセ、作家性によるものが特に大きいと言っていいでしょう。
端的に言えば、「主要登場人物が狭い価値観の中で生きている」「それ突き通すことを信条とするが大切なものを失う(失いかける)」ということが一貫しているんですよね。

『セッション』ではジャズで大成することを狙う青年と、史上最悪のパワハラ音楽教師の姿を追っていました。
『ラ・ラ・ランド』でも音楽で成功することを夢見る男女の関係を描くも、彼らの普段の勤務態度はめちゃくちゃ悪いという内容になっていました。

※『ラ・ラ・ランド』に「なぜ否定的な意見があるのか?」ということは以下の記事でも書いています↓
『ラ・ラ・ランド』を“好きになれない理由”を考えてみた | シネマズ PLUS

さらに、チャゼルが脚本家として参加していた『グランドピアノ 狙われた黒鍵』は「ピアノを完璧に弾かないと殺される」というとんでもない設定で、『10 クローバーフィールド・レーン』では閉鎖された状況において、やはり「狭い価値観」を浮き彫りにしていました。

チャゼルによる作品の主人公たちは狭い価値観を持っているがゆえに、周囲や他の価値観に大しては「排他的」ですらある……。
そんなわけで、主人公たちに好感が持てない、むしろ積極的に嫌いになれるということもチャゼルの作品には良くあるんですよね。

こうした印象は、良い悪いというよりも、前述した通りチャゼルの作家性によるもの。
主人公たちが結果として「大切なものを失う(失いかける)」ことも一貫しているため、チャゼルは「狭い価値観」を単純に肯定することはしていない、自身の作家性を冷静に見て、誠実に物語に向き合っているとも言えます。

実は『風立ちぬ』に近い? 偉大な宇宙飛行士を描いていながら「家族」のパーソナルな物語だった!

先ほどは「チャゼル作品の主人公は良くも悪くも好感が持てない」と書きましたが……本作の『ファースト・マン』でライアン・ゴズリングが演じる主人公は今までの監督作の中では間違いなくもっとも感情移入がしやすい人物になっています。
彼の葛藤の主な要因になるのは「愛する家族への愛情」「人命が失われてしまうかもしれない挑戦」という、家族を持つ者、大切に想っている人がいる方であれば誰でも同調しやすいものなのですから。

この印象になったのは、今回のチャゼル監督が脚本を書いておらず、『スポットライト 世紀のスクープ』『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のジョシュ・シンガーに脚本を任せたためでもあるのでしょう。
その実際の出来事を理路整然と示す、「実話もの」ならではの脚本力は、今回も十二分に発揮されていました。

それでいて、やはりチャゼル監督らしさも全開で、やはり「主要登場人物が狭い価値観の中で生きている」「それ突き通すことを信条とするが大切なものを失う(失いかける)」という要素もバッチリ入っています。
今回の物語も、ニール・アームストロングという偉大な人物を描いていながら、その内容は非常にパーソナルで、彼の「家族への想い」をクローズアップした物語になっているのですから。

技術者でもある主人公が「他の人には理解できない」価値観で仕事に従事し、その妻(クレア・フォイ)とのコミュニケーションも描かれていることには、宮崎駿監督の『風立ちぬ』に近いものを感じました。

その「パーソナルな物語である」ことをさらに主張するのは、日常的なシーンをまるでホームビデオのような「手ブレ」の映像で捉えていること。その演出の意図、偉業よりも「家族の物語を描きたかった」という目標は、以下のインタビューからでもわかります↓
ファースト・マン インタビュー: デイミアン・チャゼル&ライアン・ゴズリング 歴史的偉業よりも描きたかった「家族の姿」とは – 映画.com

また、劇中ではアポロ計画への莫大な資金投資が批判されているニュース、それにより人命が失われてしまうかもしれないという残酷な危険性もしっかり描かれています。
そうであるのに、主人公はなぜ月を目指すのか……その理由を解き明かすことこそが『ファースト・マン』でもっとも重要な主題と言っていいでしょう。

余談ですが……本作の難点をあえて挙げるのであれば、(現実的なドラマということもあり致し方ないのですが)画的な変化に乏しく、やや地味な印象もあるということ。
『ラ・ラ・ランド』のきらびやかさなどを期待すると、ちょっと肩透かしに感じてしまうのかもしれませんね。

以下からは明確に展開はネタバレしていませんが、ちょっとだけクライマックスとラストについて触れています。未見の方はご注意を!

チャゼル監督らしい「コミュニケーション」とは?

チャゼルの作品では、登場人物のコミュニケーションの不和が生じ、「話し合い」が上手くいかずに軋轢が生まれてしまう、ということも往往にしてあります。
今回の『ファースト・マン』では妻との「音楽による」コミュニケーションが描かれていたりする、一方で「話し合い」のコミュニケーションでは解決できなかったりするのも「らしい」ことです。

『ファースト・マン』は、普遍的によくある「男性は自分の悩みを話さない」ことを寓話として描いているとも言えるかもしれませんね。
悩みを正直に話すことで、自分の「弱さ」をさらけ出すことで、むしろ救われることもあるかもしれないのに…と。
しかし、主人公は最後まで弱さをさらけ出すことも、悩みを痛切に告白することもないのです。

そして……ネタバレになるので詳細は書きませんが、クライマックスで主人公はやはり極めてパーソナルな、「自己満足」とも取れる、ある「目標」を達成します。
さらに、ラストシーンではやはり「コミュニケーション」が描かれる……ここにこそ、チャゼル監督が目指したかったものが詰まっていると言っていいでしょう。

なお、劇中では有名な「月に旗を立てる」シーンが存在しません
その歴史的偉業をあえて描かなかったことも、その「自己満足」とも取れる「目標」の達成を際立たせるための英断でしょう。

「他の犠牲を払ってでも目標のために突き進む」
「その過程で大切な何かを失ってしまう」
「しかし、それでこそ得られるものもあった……」
「自己満足かもしれないが、彼にはその目標が必要で、実際に彼は達成できた」

見終わってみれば、「救いのある」物語にもなっていると感じられるのではないでしょうか。
まさに、「チャゼルの映画」でした。お見事です。

※クライマックスの「目標」については以下の記事もご参考に(大いにネタバレ注意)↓
【ネタバレ】『ファースト・マン』ラスト、ニール月面での行動は事実か、夢か ─ ニール・アームストロングの息子に聞いた | THE RIVER

(C)Universal Pictures

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