
『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』オチに激怒した理由と具体的改善案を語る(ネタバレなし+ネタバレ感想)
今日の映画感想は『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』です。
個人的お気に入り度:2/10
一言感想:山崎貴の無神経さが限界突破した大問題作
あらすじ
少年が父の遺志を受け継ぎ母を救うために冒険したり、誰と結婚するか悩んだりします。
※この記事では『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』を基本的に酷評しています。本編を文句なしに楽しんだという方にとっては不快になる可能性も高いと思われます。ご了承ください。
1992年に発売されたスーパーファミコン用ゲーム『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』を原案とした、3DCGアニメ映画です。
とにかく、まず知ってほしいのは今回の映画には賛否両論が渦巻いている…というか激怒または失望の方多数という事実です。
激怒している人の勢いは半端なものではなく、「実写デビルマンとドラクエ映画、もう一度見なければ死ぬって言われたら俺はデビルマンを選択する」「見るメダパニ(混乱させる呪文)」「冒険の書じゃなくて冒涜の書」「映画を観る前の過去の自分に「どんなに辛いことがあっても負けちゃダメだよ」と思わず声を掛けたくなる」など、凄まじい感想が並んでいるのです。
この責任がどこにあるのか?何が問題なのか?もうそれは本作の総監督と脚本を手がけた山崎貴という作家としての資質にあると断言していいです。
山崎貴の無神経さの具体例
山崎貴が監督・脚本を手がけた映画には概ねで無神経さがあるということは前々から思っていました。具体的な例を挙げると以下になります。
- 『STAND BY ME ドラえもん』:セワシの意志に反する言動を取ると即座に強烈な電流を体中に流す“成し遂げプログラム”という酷い新設定を付け加える
- 『BALLAD 名もなき恋のうた』:身分違いかつ秘密の恋を子供が「やーいやーい!」と周知の事実のように囃し立てる。
- 『DESTINY 鎌倉ものがたり』:夫を亡くしたばかりの未亡人を遊園地デートに誘ったりする。原作では4年の月日が経ってるから問題ないけど映画では数日経ったようしか見えない。
いずれも原作となる作品の重要な要素を雑に扱っているのが辛いんですよ……。
そういう山崎貴という作家にはイヤな部分があるな…と思っていたら、今回の『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』ではある一点においてその無神経さが突き抜けていました。
よりによって、『ドラゴンクエスト』という誰もが知る国民的コンテンツでそれをやってしまうとは…実に感心しますな!(皮肉表現)
その怒りのレベルは、原案(ほぼ原作と言っていいけど)となるゲーム『ドラゴンクエストV』の思い入れに比例するでしょう。「原案を愛する人ほど許せなくなる」という時点で問題作どころかもう失敗作なのでは…。
逆に言えば、本作はゲームをよく知らないほうが、あまり怒ることなく、むしろ楽しめるのかもしれません。
以下のインタビューでは“ラストシーンのあるアイデアを「思いついてしまった」”と山崎貴は言っているんですよね。その「しまった」っていう言葉にも不誠実さと無神経さを感じざるを得ないよ…。
ドラゴンクエスト ユア・ストーリー:山崎貴総監督が明かす“大人気ゲーム3DCGアニメ化に込めた思い 豪華キャスト起用のワケは… – MANTANWEB(まんたんウェブ)
さらに以下のインタビューでは“「分けて作る気はなかった。ドラクエだけに関わっているわけにもいかないので」とジョーク交じりに話す”とか書かれているんですよね…。ジョークなのか?ドラクエに思い入れや愛がないような感じが伝わるぞ…?↓
ゲーム世代へのメッセージも込めて=「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」の山崎貴総監督:時事ドットコム
さらにはノベライズ版の著者が主人公の名前を無断使用したとして提訴するという事態も。
「著作者への配慮と連携ができていない」という点でも本作に不信感を覚えてしまうのは致し方がないでしょう。
でも映画館で観てほしい
もう1つ言いたいのは、(この映画の良し悪しは別にして)ネタバレを踏まずに、ぜひ映画館で見届けてほしいということです。
なぜなら、観終わった後の劇場の空気、あの衝撃は他の映画では絶対に味わえない何かがあるから。
それを劇場で体験するということは、毒にも薬にもならない作品(そういうのもいいけど)よりも、確実に持ち帰る何かがある……だから観てほしいと心から思えるのです。
まあ、皆さんをこの地獄に道連れにしたいという暗い気持ちもあるけど。
『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』ネタバレを踏んじゃったから観に行かないという意見もけっこうみられたけど、甘い、甘いよ、字面と映像のインパクトは全く違うから。ネタバレを踏んだ人はむしろ「心構え」ができたと思ってぜひ劇場、いや戦地へと赴いてほしい。それでも敵わない何かがそこに。
— ヒナタカ(映画ライター) (@HinatakaJeF) 2019年8月7日
※後からこう思いました。
良いところもたくさんあったよ
散々言いましたが、本作には良いところがいっぱいあります。
まず、3DCGアニメのクオリティが掛け値無しに素晴らしいです。
陰影をつけた表現、良い意味でオーバーリアクションなキャラたちが生き生きしていて、単純に観ているだけでも楽しいし、あの2Dのドット絵だったゲームが3Dで動いているというのも感動を覚えるのです。
以下のインタビューでも、監督のおふたり(とスタッフたち)が細部に至るまで映像をしっかり作り込んでいることも伝わります。
『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』公開直前インタビュー!監督イチ押しの見どころとは? – 映画 Movie Walker
映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』公開記念! ふたりの監督が知られざる制作秘話を語るロングインタビュー!! – ファミ通.com
(ただ、下のファミ通のインタビューでは監督のふたりが「シリーズ初期の作品は遊んでいた」と言ってて、『V』のプレイ経験の有無に触れてないのが激しく気になるけど)
ヘタレな佐藤健、気の強い有村架純、お嬢様な波瑠を筆頭に、声の演技も概ね良かったです。
キャスティングの発表時には否定的な声もあったのですが、実際の本編ではプレスコ(先に声を収録)の方式ならではの生き生きとしたキャラ表現ができていたと思います。
もう1つは、『ドラゴンクエストV』というシリーズの中でも特にドラマティックな作品における、「妻にビアンカ(幼馴染キャラ)とフローラ(お嬢様キャラ)のどちらを選ぶか?」という究極の選択については、かなり真摯に向き合っているんですよね。
ここはゲームの生みの親である堀井雄二から「プロポーズのシーンを脚本で厚く描いて、再び論争を呼ぶくらい観客を迷わせてほしい」という要望もあったそうです↓
「ドラゴンクエスト」生みの親・堀井雄二、映画化で山崎貴総監督にお願いした2つのこと – シネマトゥデイ
実際の本編でも、プロポーズに至るまでの展開は論理的に上手く構築されていて、ビアンカとフローラそれぞれが本当に魅力的に描かれているんですよね。
まあ、そういう良いところを全て台無しにするレベルの、あの無神経さに怒りと嫌悪感を覚えるんですけどね……。
『アルキメデスの大戦』は傑作だったのに…
もう1つフォローしておくと、山崎貴が監督と脚本を務めた、この『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の1週間前に上映が開始された『アルキメデスの大戦』は本当に面白かったですし、前述したような無神経さもほとんど顔を出さなかったんです。
『アルキメデスの大戦』感想。強大な不正に数学という確固たるもので立ち向かう様が超エンタメしてる!変人な菅田将暉とマジメな柄本佑のバディものとしても楽しい!アンビバレントな気持ちに追い込んでくれる脚本もよく出来ている!間違いなく山崎貴監督・脚本の最高傑作でしょう。 pic.twitter.com/70KsRFdObX
— ヒナタカ(映画ライター) (@HinatakaJeF) 2019年8月3日
山崎貴監督には「悪役を本当に記号的なまでに悪し様に描く」というクセもあるんだけど、それも憎むべき不正に立ち向かうという主人公たちのヒーロー性やエンタメ性を際立たせているので本作ではプラスになっていましたね。
作品によっては山崎貴の作家としての資質が上手く働き、素晴らしい作品になる場合もあるのだと思い知らさらせました。
その他、山崎貴の監督デビュー作である『ジュブナイル』はかなり好きな作品なんですよね。
こういうSF作品を自分の色に染めるように作ったら、掛け値無しに良い作品を生み出すことができるんじゃないかなあ……そのレビューはこちら↓
香取慎吾出演のSF映画『ジュブナイル』の魅力を改めて考察する【祝・『凪待ち』公開】 | CHINTAI情報局
擁護派の方とも語り合ってみました
激怒派の自分と、擁護派のブロガーの物語る亀さんとで語りあったラジオ感想をアップしました。18分50秒ごろまではネタバレなし、それ以降はネタバレ全開です。
※物語る亀さんのレビュー記事はこちら↓
映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』ネタバレ感想&評価! 白組らしい3DCGだからこそできるドラクエのアニメ映画が登場! – 物語る亀
このラジオでは「音楽の使い方はそれほど悪くなかった」と語っているのですが、他の方の感想を読むと「ドラクエ1,2,6の音楽も使われていて雑」というもっともな意見もありました。そこでも無神経…。
あとパパス(CV:山田孝之)のアレが「ぬわー!」じゃなかったと言っていますが、実際はちゃんと「ぬわー!」だったそうです。違和感がなさすぎて「うわー!」に聞こえたんですよアレ……(すみません)。
なお、ラジオ中に話しているとある傑作アニメ映画とは以下のことです。こちらは大好きなんですよ……。
<クリックするとその傑作アニメ映画および『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』のネタバレ。でもネタバレを知っても観てみてほしいです>
さてさて、以下からは『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』のネタバレ全開です↓前述したようにネタバレを踏まないでこそ味わえる唯一無二の映画体験があるので、観ていない方は先にぜひ劇場へ。
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(C)1992 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

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YouTubeのラジオ拝聴しました。
こちらの方で改善策を書かれていましたが、私はとりあえずネタバレシーンまではそのままでいい。
1、ミルドラース(コンピューターウィルス)と闘い、敗れる。
2、VR機体が強制終了させられ主人公は現実に戻される。
3、ウィルスの影響で施設は営業中止(VRは使用中止)。主人公も日々の生活に戻るが、あのドラクエ世界に残したビアンカや息子、仲間が気になってしょうがない。
4、施設にこっそり侵入し、ゲーム起動。
5、ミルドラースと最終決戦。
もいいかなと思います。
具体的な改善案をありがとうございます!これはいい!不快にはならないし感動の流れじゃないか!
おお、この改善案は素晴らしい
YouTubeから来ました
擁護派も否定派も基本は最後をどう受け止めるかで
CG映像は綺麗、シナリオは雑、最後の監督が言いたいことであろう事に対して構成が雑
という認識は共通していると思います。
私はまぁラスボスや最後の主人公の台詞はまぁいい(許容範囲)として
スライムがアンチウイルスソフトであり出てきた剣で倒す描写がゲーム内に存在している事に違和感を覚え冷めました。
このVRゲームってウイルスに対する撃退シーンをわざわざプログラミングしてるんだ・・・へぇ・・・です。そんな機能あるならウイルス入ってきた時点で除去できるよな?と思いました。
基本的にこの監督は描きたいシーンを思いついて話を後に作ってるのかなという印象
だから描きたいシーンの為にシナリオが犠牲になるし
数少ないうまい事犠牲にならない映画は不快にならずに見てられると、勝手な考えですが。
コメントありがとうございます。
いや本当、ラストの展開の設定自体がおかしいですよね。
「数少ないうまい事犠牲にならない映画は不快にならずに見てられる」例が『アルキメデスの大戦」なのだと思います。
拝見させていただきました。
「山崎貴の無神経さ」がすごくしっくりきて、やっと納得できました。ありがとうございます。
映画を見終わって思ったのが「作者は、このゲーム実は好きじゃないでしょ?」でしたので。
久美沙織さんの訴訟を受けているように、他者へのリスペクトが出来ない人なのですね。
原作ファンに訴求するなら、最低限の礼儀があります。
それが出来ないなら、勝手にオリジナルストーリーで勝負していれば良いのではないでしょうか。
こっちの感想もよくできてました
https://www.cinema2d.net/entry/2019/08/04/232353
「人間ではなくただのモノ」であることが観客に見せつけられる。そういう虚構に対する批判性、批評性のようなものは押井守や庵野秀明はじめ多くのアニメ作家が過去にやったことだが、それは彼らなりのある種の自己批判であり、自己批評であったわけである。そして彼らはそうした自己批判のあとに二度と引き返せない橋を渡り、苦しみながら作家として歩き出したわけだ。でもこの映画に作り手のそういう覚悟はない。
いっそ山崎貴自身がコンピューターウイルスとして実写で登場してあのニヤケ面で説教かましてくれればよかったんじゃないですかね?(適当)
「ユアストーリー」というテーマを売りに出すなら、最初からメタフィクションだということを明かしておきつつ、徐々に登場人物たちに愛着がわく過程を描いたり、そんなキャラたちの運命を自分が選択するっていう悩みが必要だったと思います
(それこそ結婚が本来その役割を担うべきだったんじゃないかと)
そんな風に、作り物の世界でも登場人物たちは生きている、だからこの世界を守りたいって展開にしておけば、観客の感情の動きと合わせられたでしょうにね…