『バースデー・ワンダーランド』不遇のわけと超応援したい理由を解説する(ネタバレなし+ネタバレ感想)

『バースデー・ワンダーランド』不遇のわけと超応援したい理由を解説する(ネタバレなし+ネタバレ感想)

今日の映画感想はバースデー・ワンダーランドです。※いただいたコメントなどから、記事初出時よりいくつか追記しています!

個人的お気に入り度:8/10

一言感想:良い映画なんだけどなあ……

あらすじ

悩みを抱えた小学生の女の子がファンタジー世界に迷い込みます。

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の原恵一監督の最新作です。
この『オトナ帝国』がどれだけの名作なのか?ということは観たらわかるからいいから観てよとだけ言っておきます。これから!観られる人が!うらやましいから!

そしてAmazonに投稿されたレビューがまた素晴らしいな……(ネタバレ注意)。まさに歴史に残る大傑作であると思います。

で、以降の原恵一監督作品も素晴らしかった訳ですよ(特にオススメなのは『河童のクゥと夏休み』)。
原恵一監督は宮崎駿監督や細田守監督のように国民的なアニメ映画監督となっても全くおかしくないほどの巨匠な訳ですよ。
個人的にはこの世で最も大好きな映画監督の1人でなんですよ。
なのに!世間的な注目度がそこまで高くなくて、悔しいんですよ!
どうなってんだ世間!もっと注目してよ世間!

しっかりとした魅力のある映画です

この『バースデー・ワンダーランド』の魅力は大きなネタバレのない範囲で、10000字近くかけて以下にも書きました。
『バースデー・ワンダーランド』「10」の魅力を全力解説!これは“5月病の予防薬”だ! | シネマズ PLUS

要するにこういうことです。

  1. ファンタジー×ロードムービー!“楽しい”と“可愛い”がとにかく詰まっている!
  2. ちょっと変わったバディもの!自由人なお姉さんと引っ込み思案な姪っ子の関係性も可愛かった!
  3. ロシア人のイラストレーターのイリヤ・クブシノブが大活躍だよ!もはや画面に映る全てのものを手がけてるレベルだよ!
  4. ボイスキャストも良かったよ!松岡茉優と杏もハマっていたし「クレヨンしんちゃん」の藤原啓治と矢島晶子の悪役も良いよ!
  5. 原恵一監督の作家性と魅力がはっきりと出ているよ!
  6. マジでお腹が減りそうな「飯テロ」シーンも重要だったよ
  7. ファンタジーでありながら“現実的な問題”もしっかり描いていたよ!5月病になる前に観ておくといいよ!
  8. 音楽の演出も原恵一監督らしいよ!milet(ミレイ)の挿入歌も良いよ!
  9. 原作小説「地下室からのふしぎな旅」からのアレンジも上手かったぞ!
  10. 原恵一監督の「枠からはみ出ている」作家性も出まくっているんだ!

ほら、もう、魅力でいっぱいではないですか。そう見えるでしょ。見えて(本当にこういう魅力があったよ)。

※イリヤ・クブシノブのインスタグラムはカッコ可愛いイラストがたくさんで超おすすめです↓
Ilya Kuvshinovさん(@kuvshinov_ilya) • Instagram写真と動画

不遇の観客動員数…そりゃライバルが多いもの

しかし……悲しいことに本作は全国で大々的に公開されているのにも関わらず、ゴールデンウィーク真っ最中で観られるのにも関わらず、かなりの不入りになっているようです。
なぜかと言うと……もう明確で『アベンジャーズ/エンドゲーム』やら『名探偵コナン 紺青の拳』やら『クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜』やら『キングダム』やらライバル作品が多すぎるから。ファミリー向け映画が大渋滞を起こしている中で公開して大丈夫か?と思った訳ですが、案の定大丈夫じゃありませんでした

週末興行収入はどうやら10位スタートで、公開から2ヶ月以上過ぎてる『翔んで埼玉』や、より子供向けかつニッチな気がする『東映まんがまつり』を下回ってます。
実際にシネコンに行ってみても、他作品が軒並み満席か残り座席わずかになっている状態で、『バースデー・ワンダーランド』だけ「余裕あり◎」になっている状況を見るのは流石に辛かったです(小さいスクリーンが割り当てられているのに…)(でも絶対数としてはお客さんは入っているわけだから、そんなに興行収入も悪くもないかもしれない)。
あまつさえ5月3日からに駄目押しと言わんばかりに『名探偵ピカチュウ』が公開されるため、必然的に『バースデー・ワンダーランド』の上映回数は激減、ファミリー層の観客を根こそぎお客を奪われる事態に……宣伝も誠実に行われていたのに!かわいそうすぎるだろ!

※自分とだいたい同じ気持ちの方がこちらにもいました↓
心配しなくてもコナンやアベンジャーズは死ぬほどロングラン上映するのでこのGWはアニメ映画『バースデー・ワンダーランド』を見に行ってほしい話 – CDBのまんがdeシネマ日記

ゴールデンウィークに公開する必然性もあったよ

しかし、『バースデー・ワンダーランド』をゴールデンウィークに公開したいという意図もわかる、むしろゴールデンウィークに観るべき映画になっていたとも言えます。
その理由の1つはもちろん(特にファミリー層への)稼ぎ時だからなんだけど、もう1つは作品が訴えているメッセージがめちゃくちゃ休みの時に観るのにマッチしているから。

↑の記事でもちょっと触れましたが、主人公の小学生の女の子は、学校である悩みを抱えてズル休みをするんだけど、冒険を通して「ほんの少しだけ」成長するんですよね。
加えて本作は「どこかに出かけてみようかな」という気持ちも促してくれる……いや、それどころか映画を観ただけで旅行に行った気分になれるっていう、本当にこの時期に観るのに本当にぴったりなのですよ。

※むしろ、観たら旅行に行かなくてもいいのかも。どこ行っても人がいっぱいで鬱陶しい時期でもありますしね。
ちなみに現実世界のモデルは二子玉川の周辺。川沿いの光景はもちろん(二子玉川以外もモデルになっていそうですが)鉄道橋と川にかかる駅ホームの形状は二子玉川で間違いないとのことです。聖地巡礼するか、109シネマズ二子玉川でも観るのが良いのかも!

否定的な意見にいろいろと言ってみる

さらに、この『バースデー・ワンダーランド』は世間的な評価そのものも微妙に良くないという悲しさも備えていました。coco映画レビューでは25人の投票で50%Filmarksでは5点満点で3.0点止まりとなっているのです。
「今年ワースト」と厳しい評価を下す人も多いという現実……原恵一監督の大ファンということを置いておいても、自分はこの映画が掛け値なしに大好きなんですが、その否定的な感想を持つ人の気持ちもわかるというのが、また辛いものがあります。

以下からは、よく見かけた否定的な意見から、自分なりの反論または擁護したい理由を書いてみます。

(1)物語がありきたりで新鮮味がない

「救世主と言われた主人公がファンタジー世界に行って戻ってくる」というのは確かによくあるものですよね。確かに、そこだけを切り取れば目新しさはありません。
そもそも原作が1984年に書かれた児童書ですし、2019年の今ではさらに既視感が強くなってしまうのも致し方はないかな…と。

でも、『バースデー・ワンダーランド』は↑の記事にも書いたように、その「救世主と言われた主人公がファンタジー世界に行って戻ってくる」だけに耽溺しない魅力もたっぷりとあるのです。
イリヤ・クブシノブのデザインのキャラおよび世界観は十分にフレッシュだし、主人公と叔母さんとの掛け合いは楽しいし、しっかり映画館で観てこその美しい画もある。そしてファンタジー世界だけでなく現実にコミットしている要素もあるのです。
↑の記事でも書きましたが、やっぱり原恵一監督らしい「枠からはみ出ている」面白さが存分にあるんですよ!それでいてファンタジー世界での冒険の楽しさも外してはいない、サプライズのある展開も含めて、実にウェルメイドです。

それこそ、過去の似たコンセプトのアニメ映画には、『ブレイブ・ストーリー』という今は誰も話題にしていない大凡作や、『ポッピンQ』といういろんな意味ですごい作品もありましたから……いや、比べるのもよくはないと思うのですけど。

※『ブレイブ・ストーリー』は大体的に公開&宣伝されていたけど、どう考えても面白くはなかったです……。ちなみに同年(2006年)には細田守監督の『時をかける少女』がミニシアター系でひっそりと公開されてから口コミで評判が広がりロングランヒット、そちらは言うまでもなく名作として語り継がれるようになっています。

(2)テンポが遅め

これも個人的には擁護したいところ。ファンタジー世界をゆっくり周っていくロードムービーであるので、これくらいのテンポでちょうど良いと思いました。
映画の「クレヨンしんちゃん」シリーズに比べるとゆっくりしているのも事実なので、あんまり小さい子には退屈なのかもしれない……というのは心苦しいんですけどね。

ただ、そんな自分でも世界観や設定の説明をしているシーンは確かに鈍重だし面白くないと感じてしまいました((6)で後述するけどその設定にも納得しにくい)。
原恵一監督はなるべく「アニメ映画では引き算をしていく必要がある。説明をしすぎないようにした」と言っているので、あんまり悪くは言いたくないんですけどね。

(3)世界に危機が迫っているはずなのに緊迫感がない

世界に色が失われてつつある、時間がないから主人公をいきなり連れてきたはずなのに、わりかしのんびりと旅をしていますよね(大錬金術師のヒポクラテスは随所で急いではいるし、終盤にはちゃんとタイムリミットも提示されるけど)。
主人公ものどかな街に着いて「この世界のどこが危機に瀕しているの?」と真っ当なツッコミをしていました。

でもこれも個人的には擁護したいです。この記事の↓に書くネタバレ箇所にも繋がるのですが、「美しい世界を見てまわる」ことこそが意味をもつのですから。
ただ、やっぱり「世界に危機が迫っている」と「その世界でのんびり旅をする」という要素がそもそも相反しているので、そこにノレない人がいるのも致し方がないかなあ…と。

(4)主人公にが後ろ向きな性格すぎて応援しにくい

これも擁護したいところ。↑の記事でも書きましたが、主人公が小学生らしい等身大の悩みを持っていて、「前向きでなかった」こと、終盤のある1点でやっと「ある行動」をすることも重要な意味を持っていたのですから。自分はこの子めっちゃ好きですよ。
ていうかイケイケな性格の叔母さんが超絶魅力的で、彼女が観客の「もっと冒険心持てよ〜頑張れよ〜」な気持ちを代弁してくれるから、それでいいいじゃないですか。

※観た直後には圧倒的な百合みを感じました。

(5)主人公の女の子が小学生に見えない

自分も正直ポスターのイメージでは高校生くらいかと思っていたのでびっくりしましたね…。
イリヤ・クブシノブは描くキャラクターそれぞれに年齢を設定しているそうで、今回もいろいろと候補を出してから調整したそうなんですけどね。
でもこれくらい大人びて見える子供は現実にもいるし、実際に映画を観てみると個人的にはそこまで違和感はありませんでした。
松岡茉優の声も賛否両論があるようですが、十分に良い雰囲気を出していた思いますよ。
でも、叔母さんから「幼児体型だね〜」とセクハラを受けるシーンは流石に説得力がないよね。

(6)ファンタジー世界での設定や展開が雑な気がする

ごめんこれは自分も擁護できない……。
主人公がなぜ救世主なのか、なぜ彼女でなければいけないのか。「手形」などはあるとはいえ、そこの説得力には欠いていると言わざるを得ません。
※このことについてはコメントで素晴らしい意見をいただきました!自分は何もわかっちゃいなかったよ!「説明しすぎない」「観客の想像力を喚起させる」素晴らしさがここにあったよ!ネタバレになるので↓に追記しています!

さらに気になるのは、水が不足しているという設定のはずなのに、雪が積もった街に行くばかりか、超広い湖の中に入り込んだりもすること。
「その水(や色)があっという間に失われてしまう(かもしれない)」という緊迫感を与える描写は、やっぱりどこかで必要だったんじゃないかなあ……。

終盤の展開もかなり説得力不足…というよりもかなり雑に感じてしまったというのは正直に言って残念でした。
エモーションが爆発する演出と挿入歌、訴えているものが素晴らしいだけに、はっきり勿体ないなあ…と。

こうなったのは、原恵一監督がそもそもファンタジーに興味がなかったとはっきり言っていて、そこを軽視してしまったせいでもあるのかも……と邪推しています。
物語そのものも、「ファンタジーよりも現実世界にコミットしたほんの少しの成長のほうを描きたい」ということが伝わるんですよね。それは良いところとも言えるけど、世界を救うという大きな物語と現実世界の大したことのない悩みがあまりリンクしてこない、ここでもミスマッチ感を覚えてしまう方がいるのも、また致し方がないな、と。

欠点はあることは認めるけど、映画館で観てほしい作品なんです。

そんなわけで、本作に否定的な感想を抱いてしまう人の気持ちもわかる!ていうか原恵一監督の大ファンで、この映画が大好きな自分でも、明確に欠点のある映画だと思う!というのが正直なところです。
しかも作り手の熱意と情熱はかなり伝わるんだよな……。でも同時に原恵一監督の実力はこんなもんじゃないぞ!とも言いたくなるという……。

でもね……個人的には↑の記事でも書いた通り、その欠点を上回って大好きなところがいっぱいあるんですよ。
本作に「悪くないよ!」「面白かったよ!」と肯定的な評価をしている方も、概ねでそこは一致しているのではないでしょうか。
何より、アニメーション映画として忘れがたい、美しく感涙できるシーンがしっかりあるのですから……ここだけでも、映画館で観て損はないでしょう。

※松岡茉優「大人になってから、こんな風に泣いたの、1回もない」。本当にそういう方もいると思う。それくらいブチ上がるシーンがあった。

ラストのメッセージ性は本当に素晴らしくって、それこそ本作が一生大切にしたい映画になる人もいると思うんですよ(現に自分はそうです)。
そうであるのに、この映画が他の人気作のおかげで埋もれてしまう、ゴールデンウィークに観られないままになっているのは、あまりに勿体なあ、と。

また、原恵一監督は本作について「映画は観た後と前では何かが変わることがある。そんな映画ができたと思う」とも言っていて、まさにその通りの内容になっていました。そういう作品は、間違いなく映画館で観る価値があります。

それにしても……『バースデー・ワンダーランド』は物語は王道で、内容もしっかり万人に開かれているという、あの超問題作だった『未来のミライ』などとは真逆とも言える作品のはずなのに、それとは別ベクトルで評価がぱっくり分かれているというのも興味深いものがあります。観る人が持っている価値観で評価も変わってくるのではないでしょうか。

※超問題作だった『未来のミライ』の記事はこちら↓
『未来のミライ』が賛否両論になった「10」の理由  | シネマズ PLUS

原恵一監督の次回作が観たいなあ…

原恵一監督は今年で還暦を迎える年齢であり、新作(が観られる可能性)はあと数作程度となるでしょう(次回作に取り掛かる意欲もすでにあるようですが)。
でも、この『バースデー・ワンダーランド』があまりに不入りだと、その新作をこの世に送り出すというファンの夢も叶わなくなるかもしれないんですよ…!

なので!みんな!『バースデー・ワンダーランド』を観に行って!ゴールデンウィークが終わるとマジでほぼ上映終了しているかもしれないし!前述した通りゴールデンウィークに観ると良いことがある映画だから!決して出来そのものも悪くはないから!ていうかお世辞抜きに良いところがたくさんある映画だから!お願いします!(必死)
あとエンドロール後におまけがあるから最後まで観てね!

<バースデー・ワンダーランド 劇場情報>

※オススメの賞賛方向の記事↓
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【ネタバレあり】『バースデーワンダーランド』感想・解説:思わず童心に帰る懐かしいファンタジー | ナガの映画の果てまで

以下はネタバレで本作が大好きになった理由、ここを汲み取って欲しいんですよ!ということを紹介します。短めです。↓



美しい世界

本作の何に感動したって……milet(ミレイ)の挿入歌が流れる「雫斬り」のシーンはもちろんですが、ラストにファンタジー世界から帰って来た時のことですよ。
主人公のアカネは、現実世界で美しい夕焼けの光景を見るのです。ただ「それだけ」なんです。

主人公のアカネは、序盤は自分の誕生日プレゼントの受け取りのため、イヤイヤながらチィおばさんの骨董屋に向かっていました。
その帰り道がこんなにも、美しく見えるなんて……ということを、理屈じゃなくてアニメの画としてはっきりと見せてくれるんですよね。
しかも、この美しい光景がこんなに近くて知っている場所であっても見られた!ということも重要ですよね。そんなに遠いところに行かなくても、ファンタジー世界でなくても見つけられるじゃないか!と

さらに重要なのは、アカネはこの前にファンタジー世界で美しい光景をたくさん見ていたということ。
それと匹敵する、いやそれ以上に美しい光景が現実にあるなんて……!
「色を失っていく」ファンタジー世界の意味もそこにありますよね。「夕焼け」は「色があってこそ」美しいのですから。

本作の否定的な意見には、(最後の説得を除いて)ファンタジー世界の冒険は主人公の成長の物語と結びついていない、やはりミスマッチ感があるというものもありました。
でも自分はそうは思いません。この言葉にできないほどの美しい夕焼けの光景の素晴らしさを訴えるために、ファンタジー世界の冒険があったのだと、そう思えたのですから。この感動はファンタジー世界という舞台、そしてアニメという表現でないとなし得ないものでもあるのです。
最後のアカネとお母さんのセリフ「世界って広いね」「そうだね」も大好きです。
アカネは友達がLINEの連絡網を見れなかったせいで責められてしまった……ということに悩んでいたけど、文字通りに「世界の広さ」をしれば、その悩みだって本当に小さいことだって思えたのではないでしょうか。

ちなみに、原恵一監督作品には「夕焼け」というモチーフが良く登場しており、それら全てが涙腺を刺激しまくるんですよね。うん、あの、良かったら他の原恵一監督作品も観てみてね!

※他の原恵一監督作5作品をこちらの記事で紹介していました↓
『クレヨンしんちゃん』だけじゃない!原恵一監督のさらなる作家性を感じられる映画5選 | シネマズ PLUS

スマホ文化を否定しない?

エンドロールの最後に映し出された、アカネがバースデーケーキを吹き消すシーンの画が「縦長」だったようなが気がするんですよね(違ったらすみません)。あれは「スマホで撮った映像」なのではないでしょうか。
アカネはスマホ世代ならではの悩みを抱え、実際にLINEの連絡を見ることからも逃げていたけど、最終的にはスマホを否定しない、使う人しだいで良いものにも悪いことにも変わるという気概があったんじゃないかな、と。
(ファンタジー世界でも、文明が進化していなかった、文明が進化したことで失うものもあるという物言いがされていたけど、最終的にはそこは否定しなかったんじゃないかなと)

そういえば、『河童のクゥと夏休み』でも、マスコミや野次馬に勝手に写メ(写真)を撮られることが嫌悪感たっぷりに描かれていたんだけど、終盤のとあるシーンで同様に写真を肯定してみせていたんですよね……。
原恵一監督は今でもリアルに携帯を持っていないという方なのだけど、こういう現代の文化を悪し様に描かないということも大好きなのです。

誕生日の意味

また、本作の否定的な意見に「タイトルにバースデーってあるのに、誕生日がほとんど関係なかったじゃん!」というのも見かけました。
それは全くその通り……というか、誕生日前日にファンタジー世界に冒険に出かけたのは「たまたま」なんですよね。誕生日の前日に冒険に行ったのはたまたまじゃない、「子供が大人になる節目にだけに起きる奇跡を母親が知っていたからこその物語」になっているというコメントをいただきました、これは納得!↓

でも自分は、それでいいんじゃないかと。
むしろ、アカネは誕生日という喜ばしい日の前日に悩んで学校をズル休みし、あまつさえ自分の誕生日プレゼントを取りに行かされるという「おかしな」ことをさせられていて、勝手にファンタジー世界にも連れて来られる……という目にあってます。
でも現実でもそんなものですよね。誕生日が幸せいっぱいの日とは限らない、その前日に不幸があったり理不尽な目にあったり悩みを抱えてしまう……ということは全然あり得る話ですから。

だけど、ファンタジー世界では時間の進みがゆっくり(1日が現実世界の1時間)であったため、アカネ自身が「前のめり」になって行動したことで、アカネは誕生日前に奇跡的に現実世界に帰ることができたんですよね。
そして、エンドロール後にはバースデーケーキを吹き消すことができた……。
その前日にはファンタジー世界でも、現実世界でも美しい光景を見ることができた……。
それこそ、誕生日という喜ばしい日の「幸福」を示すかのように……。
「不思議の国のアリス」の原題「Alice in Wonderland」に引っ掛けたであろう『バースデー・ワンダーランド』、納得できるタイトルでした!

※アカネが救世主である理由、そしてタイトルの意味について以下のコメントをいただきました!素晴らしい!

「主人公がなぜ救世主なのか、なぜ彼女でなければいけないのか。」とおっしゃっておられますが、これは先代の「緑の風の女神」が、ヒロインの母ミドリだったから、ということなのではないでしょうか?最後に、時間の流れがこちらの1時間があちらでは1日と言っていましたが、だとすると24倍のスピードということになり、600年前に現れた「緑の風の女神」はこちらの世界では25年前の人ということで、年代的にはミドリでピッタリです。ミドリはかつてあちらの世界に行ってあちらの世界を救い、こちらの世界に戻る前にあちらに手形を残し、こちらの世界に戻った後でヒロインを生んだということで、親子だから手形も同じだったということでしょう。ヒロインが持ち帰った、水切りの剣の描かれたタペストリーを見てミドリが微笑んでいたのも、彼女がそれをかつて見ていたからだとすれば納得できます。
私見ですが、映画の題名の「バースデー」も、「緑の風の女神」が母娘であることを背景としているからと考えれば、理解できるような気がします。かつてミドリも娘と同じようなことで悩んでいる時にあちらの世界に行って、「少しだけ世界が広がって」帰ってきたのでしょう。同じような悩みを経験しながら人は大人になっていく、ということで『バースデー・ワンダーランド』という映画版の題名になったのではないでしょうか。

お母さんは明日が誕生日という事と、何か悩みを抱えている娘の様子を見て頼んでもいないプレゼントを受け取りに叔母の家に向かわせます。
その事から叔母の家に行けば娘にとって何かあると知っていたからと想像しました。異世界でトラブルが起きているとは知らなかったとしても、異世界に行けば娘の心に変化があると思って行かせたのでしょう。
そして異世界に行ったあと緑の風の女神と勘違いされる主人公(容姿が似ていた?)タペストリーに書かれていたお母さんと同じ右頬にホクロのある女性。
時間の流れの違い。母親の名前が「みどり」。娘の持ち帰ったタペストリーを見て嬉しそうに微笑む笑顔。娘も冒険して来たんだと知って嬉しかったのでしょう。エンドロール後に猫の敷物として並べて置かれた同じ柄の色あせたタペストリーと色鮮やかなタペストリー。
ちょうど12歳になる誕生日。子供が大人になる節目にだけに起きる奇跡を母親が知っていたからこその物語だったと理解しました。

(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会

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  1. 大阪のジムシイ より:

     初めてお邪魔いたします。今日映画館にて観てきた者です。その後、ネット上で本作に対する悪評が多いことに驚き、同意できるような評はないものかと検索しているうちに、貴ブログを拝読いたしました。本作の美点や難点について、的確に分析されていると思います。
     多くの人が酷評し、少数の人が熱心に擁護するというのは、宮崎吾朗監督の『ゲド戦記』の公開時を思い出します。実際、本作におけるヒロインと王子の関係性や、王子の抱える苦悩などは、映画『ゲド戦記』と共通しているように思われ、多くの欠点は承知しつつも映画『ゲド戦記』をテーマ的には好ましく思っている私としては、本作は好きな作品となりました。
     ところで、「主人公がなぜ救世主なのか、なぜ彼女でなければいけないのか。」とおっしゃっておられますが、これは先代の「緑の風の女神」が、ヒロインの母ミドリだったから、ということなのではないでしょうか?最後に、時間の流れがこちらの1時間があちらでは1日と言っていましたが、だとすると24倍のスピードということになり、600年前に現れた「緑の風の女神」はこちらの世界では25年前の人ということで、年代的にはミドリでピッタリです。ミドリはかつてあちらの世界に行ってあちらの世界を救い、こちらの世界に戻る前にあちらに手形を残し、こちらの世界に戻った後でヒロインを生んだということで、親子だから手形も同じだったということでしょう。ヒロインが持ち帰った、水切りの剣の描かれたタピストリー(?)を見てミドリが微笑んでいたのも、彼女がそれをかつて見ていたからだとすれば納得できます。私見ですが、映画の題名の「バースデー」も、「緑の風の女神」が母娘であることを背景としているからと考えれば、理解できるような気がします。かつてミドリも娘と同じようなことで悩んでいる時にあちらの世界に行って、「少しだけ世界が広がって」帰ってきたのでしょう。同じような悩みを経験しながら人は大人になっていく、ということで『バースデー・ワンダーランド』という映画版の題名になったのではないでしょうか。

    • hinataka hinataka より:

      素晴らしいコメント……!本当にありがとうございます。
      ゲド戦記に確かに似ているところが多い…!自分もテーマ的には好ましいと思っている作品です。

      >主人公がなぜ救世主なのか、なぜ彼女でなければいけないのか。
      ここからの諸々の分析最高ですっ……!記事本文に反映させてください!

  2. いんでお より:

    お母さんは明日が誕生日という事と、何か悩みを抱えている娘の様子を見て頼んでもいないプレゼントを受け取りに叔母の家に向かわせます。
    その事から叔母の家に行けば娘にとって何かあると知っていたからと想像しました。異世界でトラブルが起きているとは知らなかったとしても、異世界に行けば娘の心に変化があると思って行かせたのでしょう。
    そして異世界に行ったあと緑の風の女神と勘違いされる主人公(容姿が似ていた?)タペストリーに書かれていたお母さんと同じ右頬にホクロのある女性。
    時間の流れの違い。母親の名前が「みどり」。娘の持ち帰ったタペストリーを見て嬉しそうに微笑む笑顔。娘も冒険して来たんだと知って嬉しかったのでしょう。エンドロール後に猫の敷物として並べて置かれた同じ柄の色あせたタペストリーと色鮮やかなタペストリー。
    ちょうど12歳になる誕生日。子供が大人になる節目にだけに起きる奇跡を母親が知っていたからこその物語だったと理解しました。

    • hinataka hinataka より:

      手形は母親が母親がつけたものなんだろうな、母かアカネの親族が過去の救世主というのはわかっていましたが、しっかり時間経過がゆっくりというのにも必然性があったのは気づいていませんでしたね…(原作では確かアカネのおばあちゃんが昔の救世主だったと思います(うろ覚え))。
      原恵一監督ならびに脚本家の丸尾みほさんの「説明しすぎない」ことがそこに表れていたと思います。

      >娘の持ち帰ったタペストリーを見て嬉しそうに微笑む笑顔。娘も冒険して来たんだと知って嬉しかったのでしょう。エンドロール後に猫の敷物として並べて置かれた同じ柄の色あせたタペストリーと色鮮やかなタペストリー。
      でもここは気づいていない…!2回目を観て確認しなければいけないところがいろいろありそうです!重ね重ねコメント感謝です。

  3. 幸せなオヤジ より:

    GW後の昨日見てきました。二子玉が一番近いのですが時間が合わず、川崎にて。
    「河童のクゥと夏休み」で号泣した身ですので本作も大事な「愛おしい作品」となりました。
    なぜ大作、良作溢れるこの時期に?? と世間で言われますが
    「この時期の日本だからこそ」の映画だったと思います。
    「時代」の変わり目ではなくゆったり朽ちていく時代の中で「元号」が変わるこの時期に観る映画だったのではと。
    もちろん意図して作り始めたわけでも合わせにいったわけでもないのでしょうが
    なにか因縁めいたものを感じてしまいました。
    自らではなく背負い込まされる重責、残酷なまでの周りからの期待と重圧…
    「河童のクゥ」では女の子に過剰に感情移入してしまい
    「人生初の映画でボロ泣き」したのを思い出させてくれました。

    自分が頼み込んで妻と娘を強引に連れて行った
    小さな箱に追いやられ入ってるとは程遠い
    (隣の娘の笑い声を聞きながら)ボロボロ泣いてたのは自分だけ
    でしたが、至福の時間を過ごしましたよ

    問:お母さんの年齢を主人公12歳、600年、1日が1時間をヒントに求めなさい
    塾に通い始めた娘にはちょうどよい問題でした(笑)

    駄文長文申し訳ありませんでした
    この記事を見て嬉しく思い書かせていただきました

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