
実写映画版『バクマン。』まさかの努力、友情、勝利にシフト!(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
ものすごく遅れましたが、今日の映画感想は『バクマン。』です。
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:ジャンプ読んでてよかった
あらすじ
ただなんとなく日々を過ごしていた高校生の真城最高(佐藤健)は、同級生の高木秋人(神木隆之介)からいっしょにマンガ家になろうと誘われる。
はじめは乗り気ではなかった最高だったが、声優志望のクラスメートの亜豆美保(小松菜奈)への告白をきっかけに、プロのマンガ家になることを決意する。
ふたりは日本一売れているマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」での連載を目標に日々奮闘するが、その道は甘いものではなかった。
同名の超ベストセラーコミックの実写映画化作品です。
マンガの実写映画化というのは存外難しく、何をどうやろうが原作ファンからの反発は必至。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
しかし、今回の実写映画版『バクマン。』は原作好きにとっても納得の出来であり、むしろ原作が嫌いだという人にも勧められるのではないでしょうか。
漫画からうまく実写へ
原作好きに勧められるポイントのひとつは、リアリティーのあるマンガ関連の美術です。
インクやらカブラペンやらのマンガ家道具は序の口、そのへんに散らかした原稿だったり、資料が多すぎて汚らしい編集部などが本気のクオリティーで作られています。
おかげで、マンガの執筆作業が想像の軽く15倍はメンドくさいことがわかりまくります。
いままで「絵」としか見えていなかったマンガの作業の現場が、リアルな実写で見られる―これだけでも本作は確かな意義があります。
(ちなみに原作の作画担当であった小畑健先生は、劇中でのマンガ作品を描き下ろししています。これも見所でしょう)。
2時間に収める工夫
さらに、膨大な情報量を持つ原作からの要素を、2時間という尺の中に収める工夫もふんだんにされています。
思い切ったなあと思ったのは、メインヒロイン以外の女性陣と、「親」の要素をすべて排除したことと。
でもこれは英断でしょう。主人公の少年ふたりと、周りの大人たちの描写に止めることで、起承転結があるタイトな物語に引き締まっています。
原作でおもに描かれていたのは、マンガに人生を賭ける少年たちの物語+周りの群像劇。ここを期待しても、裏切られることはないでしょう。
原作が嫌いな人にもおすすめできる理由
原作嫌いの人に勧められる理由は、この実写版が少年ジャンプの3大原則である「友情・努力・勝利」に則った内容になっていることです。
原作で批判されやすい理由のひとつが「斜めに構えた姿勢」でした。
たとえば単行本の1巻では「自分で計算したつもりはないけれど、ただ男に好かれる女性がもっとも頭がいい」という持論を力説するシーンがあります。
そうした冷静な、しかも一部の読者を傷つけてしまうようなこの「分析」を読んで、気分が悪くなる人も少なくないと思います。
しかし、今回の実写版では努力・努力・努力が描かれまくっています。友情や勝利が後回しになる暑苦しさです。
野球マンガ例えるなら、原作は『ONE OUTS』で、実写版は『キャプテン』という感じです(ごく一部にしか伝わらない例え)。
原作でもシンドいマンガの作業現場を描くシーンはありましたが、実写ではそこが何十倍もクローズアップされているのです。
たぶん、本作を観ればわりとマンガ家になりたくなくなるでしょう。
原作でも「マンガ家で食っていけるのはほんの一握り」「少年ジャンプのアンケート至上主義(人気が出なければ打ち切り)」という厳しい現実が突きつけられますが、実写版ではさらに「こんなに大変な作業を仕事にするってヤバいぞ!(肉体的にも精神的にも)」ということを示しまくってくれました。
これはマンガ家ならずとも、夢を持つ若者にぜひ鑑賞してほしい作品だと思いました。
どんな人生の道だって、決して甘くない(ていうか激辛)ことを教えれくれます。
スピーディーな演出と音楽
『モテキ』でもその手腕を発揮した大根仁監督のスピーディーな演出、サカナクションの音楽について触れないわけにはいけません。
サカナクションは主題歌「新宝島」だけでなく、劇中の音楽すべてを手がけています。
しかも楽曲が、主人公ふたりがペンを走らせる「音」とシンクロし、さらなる躍動感を生み出すこともあります。
もはや劇中の音楽=サカナクションのニューアルバムという勢い。サカナクションのファンは絶対に観ましょう。
※しかも『新宝島』は手塚治虫の長編デビュー作でした。
プロジェクションマッピング
また、作中ではCGどころかプロジェクションマッピングを用いた革新的な演出がなされています。
おおよそリアル志向の映画ではありえないものですが、観客を飽きさせないようにサービス精神にあふれまくっていました。
そしてエンドロールのアレ!もうこれはいいから観ろとしか言えない。
こんなアイデアを思いついて、形にしてしまうとは・・・本当に恐れ入りました。
難点
難点もあります。
その1
そのひとつが、スマートフォンも出てくる現代を舞台にしているのに、マンガの「デジタル作業」が一切姿を見せないこと。
たとえばスクリーントーンを切り張りする作業は、いまではほとんどデジタルに置き換わっているそうなのですが・・・劇中では主人公たちはすべて手作業でがんばっています(原作マンガでもデジタルの手法が描かれていなかったのですが)。
今回の実写映画ではとことん「マンガ作業の大変さ」を示していたこともあり、デジタルを完全に無視していたのはやはり違和感がありました。
※以下の意見をいただきました。
デジタル作画の件ですが、個人的には大手の漫画家さんはまだアナログでやってる人が多い印象です。
デジタルだとアシスタントさんも在宅になるし、アナログ作業を描いた方が映画としても映えるという部分も大いにあるとは思いますが笑
その2
もうひとつの不満点は、神木隆之介と佐藤健の配役は逆だろ!とネットでさんざんツッコまれていた印象が、映画を観ても覆せなかったことでしょうか。
バクマンの配役を逆にしてみたのですがとてつもないしっくり感が押し寄せて来た pic.twitter.com/JRzkM4dYrF
— ねこちゃ と言っているっぽいです。 (@neko_krs) 2014, 5月 7
ぶっちゃけ、佐藤健はイケメンすぎて純朴な童貞少年には見えないのです。
ただし、神木隆之介は秀才だけどちょっとチャラ目の少年の役に合いまくった演技を見せていますし、佐藤健の童貞演技はメッチャうまい。佐藤健がヒロインに言う「あ・・・俺・・・キモい、よね」は軽く感動するレベルでした(イケメンなのにソレっぽすぎて)
この「イケメンが童貞を演じる」というのもある意味見所なのかもしれませんし、↓の記事ではおふたりが絶対の自信を語っているので、むやみに批判するべきではないとは思います(でも、逆の配役もちょっと観てみたかったな)。
<【インタビュー】佐藤健×神木隆之介 『バクマン。』キャスト論争への答えと自信! | シネマカフェ cinemacafe.net>
その3
あとは山田孝之演じる編集者の服部哲が原作と似せる気がないだろとツッコミを入れたいところですが・・・もともとのモデルである服部ジャン=バティスト(超イケメン)と山田孝之はそれなりに似ていましたので、まあ文句は言わないことにしましょう(言っているけど)。
(じつは、山田孝之がこの実写映画版で演じた編集者のモデルとなったのは、服部哲でも服部ジャン=バティストでもなく、門司健吾というまったく別の方でした)
参考→【インタビュー】<山田孝之×「バクマン。」担当編集者 映画がさらに楽しくなる「ジャンプ」あるある! | シネマカフェ cinemacafe.net>
分け隔てなくおすすめできる作品
今回の実写版は、原作の似せまくるコスプレ大会にするのではなく、実力と人気を兼ね備えた役者を選出しているという印象ですね。悪くないと思います。
そして・・・本作の何がうれしいって、『ジョジョの奇妙な冒険』や『スラムダンク』などの「少年ジャンプ」作品を読んできた人に向けた小ネタが満載なことです。
とあるシーンでは、「少年ジャンプ」作品が好きでよかったと、ガッツポーズをしてしまいそうになるほどでした。
そんなわけで、本作は
- 原作ファン
- 原作嫌い
- 主演ふたりのファン
- 「少年ジャンプ」好き
と、分け隔てなくおすすめできる作品に仕上がっていました。
何より、サカナクションの疾走感ある音楽に合わせて、『まんが道』のようなアツいマンガ家ストーリーが展開するのは、本作の唯一無二の魅力です。
個人的には『るろうに剣心』に匹敵するどころかそれ以上の「マンガの実写化」作品の最高峰。あと『スラムダンク』ファンも観ろ(命令)。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください 『スラムダンク』のネタバレもあるのでご注意を↓
参考
サカナクションの(個人的に)いちばんの名曲↓
<サカナクション – ミュージック(MUSIC VIDEO) – YouTube>
おすすめの画集↓
超おすすめレビュー(ラジオ)↓
<第76回映画批評 『バクマン。』は映画の❝邪道❞ではなく❝王道❞!: ホラーショー!民朗の観たまま映画批評>
(C) 2015 映画「バクマン。」製作委員会

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自分は映画をみて覆った派ですね>主役二人の配役
早口でまくし立てるように喋る役は役者を選ぶと思うんですよね、そう考えると神木隆之介は選ばれた役者だったのではないかと。笑
それで佐藤健もブレイクポイントの電王がそもそも大人しい役でしたし、両方違和感なく見れましたねー。
けど神木隆之介はどちらでもハマるかなーって印象はありましたので覆ったは言い過ぎかもです。笑
えらい絶賛ですね…何となく評判の良さは気になってたんです
原作の終盤で露骨なオタク偏見を見せられて以来原作には正直嫌な印象しか無いんですが
ヒナタカさんの言う通り原作は一回忘れて見た方が面白く見れるのかもしれませんね
見ました
亜豆の言葉ですが、原作改変部分ではありますが自分は気に入りました
あと1つの可能性として、
「将来的に自分がやる役のセリフとしての暗記、声優としての演技」
という可能性もあったのではないでしょうか??
だから「先に行って待ってる」=「ずっと(声優として演じられるのを)待ってる」=「だから漫画読んでるし、練習もしてるんだよ!」的な
ごめんなさい、ややこしくて。モテ期の監督と自分では恋愛経験に差がありすぎて 苦笑
あと佐藤健 は演技として モテ期の森山未來に似てて、かつBECKのコユキを 感じさせてくれました
素晴らしかった!!
個人的には染谷くんの演技は頑張りすぎてたし、あと原作より服部さんが頼りないのが気になりましたけど、自分も原作マンガ映画作品のNo1に近い作品となりました!!
あとついでに
服部さん(山田孝之)の机の上においてあるフィギュアが
リューク(DEATH NOTE) からくり左近(おそらく?)
ラッキーマン の3つでした
映画冒頭にでてきて思わずニヤリでしたね
ごめんなさい
訂正
からくり左近→あやつり左近
> 亜豆の言葉ですが、原作改変部分ではありますが自分は気に入りました
> あと1つの可能性として、
> 「将来的に自分がやる役のセリフとしての暗記、声優としての演技」
> という可能性もあったのではないでしょうか??
>
> だから「先に行って待ってる」=「ずっと(声優として演じられるのを)待ってる」=「だから漫画読んでるし、練習もしてるんだよ!」的な
おおおお!なるほど!それ追記させてください。
>マンガの実写映画化というのは存外難しく、何をどうやろうが原作ファンからの反発は必至。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
私の一言感想:もう邦画は怪獣とか巨大ロボットとか超能力者とか、金のかかるモノの出て来る漫画は実写化するな。
・・・いいえ。原作への愛も敬意も無い奴らは手をつけるな!ですね。それくらいこの映画に関わった人達の「漫画大好き!」という気持ちがスクリーンから押し寄せてくる快作でした!!
>原作嫌いの人に勧められる理由は、この実写版が少年ジャンプの3大原則である「友情・努力・勝利」に則った内容になっていることです。
個人的に野暮な不満点なんですが、新妻エイジ先生にこれを否定させるような演出が本作を台無しにしたと言いたくなるほど不満です。
あれは福田組の皆を奮起させに来たのでしょうけど、あそこで「ボクそういうの大好きです!」と新妻先生が手伝っちゃったら解決しちゃうだろ・・・という指摘もごもっともですけど、もう少し新妻エイジという人を考えて欲しかったです。
>中井さんは原作ではドクズだったんだけど、
あの演出は漫画家は人生だ。一生純粋な漫画少年でいられる訳ないだろ!という意味でしょうし、最後に立ち直ってくれたのですが、連載中は序盤であれほどキレイな人だった中井さんの闇堕ちが不満だったのでコレは嬉しかったです。
>劇中の音楽=サカナクションのニューアルバム
しかも「新宝島」とは!手塚治虫先生のデビュー作のタイトルですよ!本作に、いいえ漫画に対して全開で敬意を払っているサカナクションの皆さんにも頭が下がります!
>~原作にない描写~
これこそ映画にしたからこその演出ですね!邦画界にも「キングスマン」のような精神を持った方々が・・・居たと感涙です。
>劇中の音楽=サカナクションのニューアルバム
しかも「新宝島」とは!手塚治虫先生のデビュー作のタイトルですよ!本作に、いいえ漫画に対して全開で敬意を払っているサカナクションの皆さんにも頭が下がります!
今気づきました!追記させてください。
こんにちは
レビュー楽しく読ませていただいてます!
バクマン観に行こうと思ってるので更に楽しみになりました!
デジタル作画の件ですが、個人的には大手の漫画家さんはまだアナログでやってる人が多い印象です。
デジタルだとアシスタントさんも在宅になるし、アナログ作業を描いた方が映画としても映えるという部分も大いにあるとは思いますが笑
> デジタル作画の件ですが、個人的には大手の漫画家さんはまだアナログでやってる人が多い印象です。
> デジタルだとアシスタントさんも在宅になるし、アナログ作業を描いた方が映画としても映えるという部分も大いにあるとは思いますが笑
ご指摘ありがとうございます!そうなのですね・・・知ったかで書いていてすみません。修正させてください。