[ネタバレあり考察]『哀愁しんでれら』のラストを肯定したい理由

[ネタバレあり考察]『哀愁しんでれら』のラストを肯定したい理由

遅くなりましたが、今日の映画感想は哀愁しんでれらです。※記事の前半にはネタバレはありません。

個人的お気に入り度:9/10

一言感想:最悪な気持ちになった(褒めてる)

あらすじ

開業医のイケメンと結婚するシンデレラストーリーだと思ったんだけど…

ちょっとこれはヤバい映画を観たぞ……。
何がって、凄まじく気持ち悪くて恐ろしくて最悪な気持ちになった(超絶褒めてる)んですよ

そしてものすごく好き嫌いの分かれる映画でもあります。個人的には大評判&大ヒット中の『花束みたいな恋をした』を超えて2021年暫定ベスト1映画なんですが、これは人によっては怒るんじゃないかなと…。
まずは賛否両論になっている理由を、ネタバレのない範囲で記していきましょう。

賛否両論の理由

賛否両論になる理由を箇条書きであげおきましょう。

  • 良い意味で胸糞映画である→スッキリ爽やかな後味の映画を求める人には全く向きません。
  • 生理的・倫理的な嫌悪感を覚えるシーンもある→人によってはゲンナリしてしまうかもしれない。
  • 家族や結婚や母親などの話題について「本当のことを言いすぎている」→人によっては「なんでそんな酷いこと言うの…?」と落ち込むかもしれない
  • リアリティに欠けた展開も多い→「寓話」として受け止めたら楽しめるが、「そんなことある訳ないじゃん」と冷めてしまうかも

もう綺麗なまでに賛否両論の要素が揃い踏みなのです。
個人的にはこういう良い意味でのゲンナリできる映画は大好物なので超楽しみましたよ。特に、序盤の不幸の坂道をハイスピードで転げ落ちる感じとか、本当に悪趣味でドSすぎてで最高(最低)ですよ。

さらに意地が悪いのは、タイトルからして『シンデレラ』の痛烈な批評をしていることですね。
「シンデレラと王子様って、一度舞踏会で踊っただけでしょ。足のサイズしかわからないのに結婚して大丈夫?」というセリフまで飛び出しますから。
もっと言えば、「今の世の中、お金持ちの男性と結婚して、その庇護のもとで生きていくって、それって本当にいいことなの?」という普遍的な問いかけにもなっているんですよね。逆に言えば、玉の輿に乗るシンデレラストーリーを人生の希望としている方にとっては、絶望にもなり得るんですが。

リアリティに欠けた展開も多いとは書きましたが、それも半ば意図的であり、「不自然」なこと、「違和感がある」ことにこそ意味があるとも思ったんですよ。これについては詳しくはネタバレで書きます。
また、リアリティに欠ける=ぶっ飛んだものが見られるということでもあるんですよね。「他のどの映画でも観たことのないヤバい画」が目に飛び込んで来ただけでも、自分は大満足しましたよ。

連想した映画

本作はけっこう、有名な嫌な気分になれる系の映画を連想させるところがあります。

  • 『ヘレディタリー/継承』…家族という地獄を描くよ
  • 『パラサイト 半地下の家族』…「無計画こそ最高の計画」という名言に近い、「夢とか憧れとか持った瞬間に、人は苦しむの。思った通りにならないって」というセリフが飛び出す
  • 『ジョーカー』…観終わった後に実はこれって……!?と色々と考察できる。詳細はネタバレになるので↓に書きます
  • 『スワロウ』…豪邸に暮らす妻が抑圧的な状況に置かれることなどが共通
  • 『ミスト』…訴えていることがいろいろと似ている気がする……

これらのだいたいが胸糞の映画が好きな方であれば、『哀愁しんでれら』もハマる可能性が高いんじゃないかと思います。

※最近『ミスト』のネタバレ全開の記事を書きました↓
映画『ミスト』があのラストに至った「3つ」の大きな理由 | cinemas PLUS

最強のキャスティング

内容の是非はともかく、主演に土屋太鳳と田中圭、インスタグラマーで演技経験がないながら大抜擢されたcocoのキャスティングに関しては概ねみんなが絶賛するんじゃないでしょうか。

ライムスター宇多丸師匠も、ラジオ番組の映画評で以下のようにキャスティングを絶賛していましたよ。

  • 土屋太鳳→これでもう映画の8割勝ってる。オファー4回目で「小春(役名)が泣いていると思って受けた土屋太鳳も、口説き落としたスタッフも最高。
  • 田中圭→一皮剥けたらクソ野郎はお手のもの
  • coco→自然ではない、むしろ計算がかかった演技をしている。「記号的なロールを演じる子どもを演じている」からハマっている。

これはめちゃくちゃ的を射ています。御三方ともハマりにハマっていて、なんなら嫌な役すぎて映画を観た後にちょっと嫌いになりそうなくらいでしたから(良い意味で)


※この土屋太鳳のセリフも100点。クリックすると微ネタバレ。

※秀逸なインタビュー記事。「異常なまでに真面目(褒め言葉)」だからこそ、土屋太鳳がハマるという慧眼はすごい↓
【インタビュー】『哀愁しんでれら』渡部亮平監督、土屋太鳳×田中圭キャスティングの妙語る | cinemacafe.net

作り手がもっとも望む形で作り上げた

この『哀愁しんでれら』の企画は、「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」という映像企画とクリエイターの発掘プログラムで2016年のグランプリを受賞し、原作のないオリジナル作品ながら、メジャー俳優のキャスティング&そこそこの大規模で公開されています。
この配給に手を上げてくれた、クロックワークスという会社がカッコいいと思うんですよね。他の配給会社は、もっと感動して泣ける映画に変えようよと言って来たらしいですから。


それらの妥協案に乗ることなく、この尖った企画を全力で、作り手が、もっとも望む形で作り上げたというのは、もう賞賛するしかないってもんでしょう。

監督・脚本の渡部亮平は、『かしこい狗は、吠えずに笑う』というインディーズ映画もイヤ〜な話で超面白かったんですよね。今後とも絶対追いかけたい監督がまた現れました。


※U-NEXTだと見放題です

そんな個人的な傑作『哀愁しんでれら』ですが、残念ながら興行収入は初登場10位、2週目で圏外、現在の上映回数は極小という大苦戦中です。
言うまでもなくコロナ禍の緊急事態宣言中で映画館通いも控えている方もいるでしょうが、こういう地獄に叩き落とされる系のイヤ~な話こそ、映画館で観るべきではないかなと。オススメです!(好き嫌いはめっちゃ分かれるけど)

※以下からネタバレ全開なので、観賞後にお読みください↓



※以下からは筆者の個人的な勝手な解釈を記しています。劇場で売っているパンフには渡部亮平監督の解釈が載っているそうなので、そちらもぜひチェックしてみてください。

ネタバレ:覚えた違和感と回収されなかった伏線

そもそも、大悟との初めの出会いが怪しいんですよね。仲間に飲まされすぎたからって、踏切のど真ん中で泥酔して倒れるか?と。しかも、小春の目の前で。
その大悟には8歳の娘のヒカリがいて、「ヒカリのためなら命だって投げ出せる」と言っていたんですよね。
つまり、大悟はヒカリのために、わざと踏切のど真ん中で倒れる=命を投げ出して、小春という母を手に入れようとしたとしか思えないんですよね。

その前にも、小春の実家の自転車屋はなぜか火事になってしまっています。
大悟と出会った後は、小春の父の再就職先である葬儀の仕事を斡旋してしてもらい、小春自身も児童相談所の仕事を辞めて、「母」になります。
これ、火事を起こしたのも大悟の仕業であり、父に恩も売って小春に結婚するしかないという「外堀」を埋めたように思えて仕方がないのです。
※火事の原因は蚊取り線香であり、しっかり画面に映っていたとご指摘を受けました。

さらに、大悟は浮気した元妻を事故で失ったと言っていました。
院長も大悟の元妻を「ひどい女だった」と口にしていました。
これから考えるに、大悟は事故に見せかけて元妻を殺害したようにしか思えないんですよね。

この映画が意地悪なのが、これらの意味深な伏線がはっきりとは回収されないことですよね。
大悟がラストに「全ては僕がやったことなんだ」と告白するかと思いきや、これらは宙ぶらりん、真偽不明のままって……気持ち悪いよー!(褒めてる)
でも、こうして誰でも予想できることを、ラストにしても面白くもなんともないですよね。その斜め上を突き抜けるラストになっているからこそ、本作はすごいんです。

また、終盤には小春のほうも踏切のど真ん中で倒れて、大悟がギリギリのタイミングで救いに来るという、やっぱり違和感と不自然さがある、序盤の逆の展開が起こるんですよね。
大悟は小春にGPSでもどこかに仕込んでいたから、居場所がわかったんじゃないだろうか……あと、小春は結婚指輪をなくしていたのですが、この時に大悟に渡された「新しい指輪」のサイズがぶっかぶかでしたよね。殺した元妻の指輪を用意していたのかな……。

さらに回収されていない伏線がもう1つ。小春が五円玉を具に仕込んだお弁当のおにぎり、結局ヒカリが食べたのか捨てたのか、その明確な描写もありませんでした。
これは、「ヒカリが本当に何を考えているか、最後までわからせない」と、観客にまたゾワゾワさせる要素を残す意地悪な問いかけなんだと思います。

そもそも、ヒカリが同級生を突き落として殺したかも、「映画の演出上」そう見えるというだけで、実際はあの子自身が事故で落ちたのかもしれないし、他の子に突き落とされたのかもしれないし、結局わかんないのです。(あの「ヒカリちゃんが殺したんだ!」と告白する男の子も、普段はウソばかりついていたわけだし)

おかげで、この『哀愁しんでれら』の物語におけるいろんな謎の真相は闇の中なのでした。
き、気持ち悪い!最悪だ!なんてことしてくれてるんだ!(褒めてる)

ネタバレ:ラストシーンはもしかして…

本作のオチ、それは大悟と小春が小学校に乗り込み、小学生たちにインスリンを注射してジェノサイドというとんでもないものでした。
廊下や教室で所狭しと倒れ込んでいた子どもたちの画が脳裏にこびりつきます。なんてことをするんだ!エキストラの子どもたち頑張ったな!

そして、このラストはほとんどの人が「こんなことできるわけないじゃん!」と思うんじゃないでしょうか。
そうですよ。できるわけがないんですよ

何しろ、大悟と小春はこの直前に「犯人探し」と称して小学校に乗り込み、校内放送までして子どもたちや先生にドン引きされているんですから。
いくらマスクしたからって、あんなことを起こした奴らが、もう一度乗り込んできたら、絶対にバレますって。

だから、あのラストは大悟と小春の妄想または幻想だと解釈した方が自然なんですよ。
実際は大悟と小春は大量殺人を犯していないんじゃないかと(だからキャッチコピーの「なぜその女性は、社会を震撼させる凶悪事件を起こしたのか」は的外れだとも思う)。
映画『ジョーカー』は劇中に何度も「これは現実?それとも妄想?」と観客側に揺さぶりをかけてきたのですが、この『哀愁しんでれら』はラストにドーン!とやったという感じだと思うんです。

もっと言うなら、ラストで大悟と小春とヒカリは一家心中をして、最後に幻想で観たのがあの光景だとも解釈できます
序盤で小春の父が「インスリンは1mgでも打ったら死ぬ」と言った時、小春は「何?死にたいの?」と返していたんですよね。だから、インスリンは自殺願望のメタファーでもあるんじゃないかと。
大悟と小春は「あと何ができる?」とお互いに言っていましたが、最後にできたのがインスリンを自分たちに打って一家心中というのは……考えるだに最悪のオチですね。(皮肉にも「子どもの将来はその母の努力によって決まる」というナポレオンの言葉も、この結末で証明してしまっている)

でも、たとえ、妄想または幻想だとしても、「両親が自分の子どものためだけに教えられる」というラストは、この家族にとってはハッピーエンドとも言えるんですよね……完全に間違ったハッピーエンドですが……。
最初と最後に提示されたのは「女の子は本当に幸せになれるかという不安を抱えている」という、小春とヒカリそれぞれの言葉。
こうならないためにも、せめて「母親ってどんなに頑張っても褒められないの」という大悟の母親の言葉を翻すように、パートナーとなる女性の幸せや気持ちを、慮りたいものです。
そう思わせてくれたということで、自分はこの胸糞なラストを肯定したいです。


※とても重い、渡部亮平監督からのメッセージ。モンスターペアレントを見下していた大悟と小春自身がモンスターペアレントとなる恐ろしさ、小春が自身を捨てた母と同じことをしてしまうシーンは辛かった……!

(C)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

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  1. 公開 より:

    火事の原因は蚊取り線香ですよ
    しっかり写してました
    なので、仕込まれていると言うのは無いです
    奥さんが死んだ時、マッチングアプリであった大学生といたと言っていましたしこれも仕込まれてはいないでしょう

    • hinataka より:

      上はほぼ確定的なので追記させてください。ありがとうございます。マッチングアプリも確かに言っていましたね…

  2. 平野レミゼラブル より:

    Twitter上でもRT等ありがとうございます。
    全体的なポン・ジュノ的雰囲気の中にアリ・アスターのような独特の邪悪な家族像を確立しており、本当にとんでもない新人監督が誕生してしまったな…って感じです。
    記事の考察に関しても、興味深く読ませて頂きました。そこら辺の答えに関しては全てパンフレット内で監督が語っていたんで、答え合わせよろしく見返しましたが、いやこれ本当映画内で律義に答え合わせしないのが正解だったって思いますね。
    ヒナタカさんの解釈も、監督の解釈もどちらもそれぞれ魅力的な部分があるので、自分なりに納得のいく方向へ解釈を持っていく自由さが良いんだなァ、と。
    それこそ律義に答え合わせしたのが「子の一生は母親の資質で決まる」の名言の出所くらいだったのが絶妙なバランスでした。

    • hinataka より:

      >納得のいく方向へ解釈を持っていく自由さが良いん
      >それこそ律義に答え合わせしたのが「子の一生は母親の資質で決まる」の名言の出所くらいだったのが絶妙なバランスでした。
      おっしゃる通りですね…。お褒めいただきありがとうございます。平野レミゼラブルさんの感想も面白い!「渡部監督の頭アリ・アスター」だし、笑っちゃいますよね。
      https://filmarks.com/movies/90775/reviews/106056503

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