火山の爆発を食い止めろ!
映画は未知の惑星で、カーク船長とボーンズ医師が原住民に追いかけられるところからはじまります。
そしてスポックは噴火直前の火山に降り立ち、「スーパー・アイスキューブ」を作動しようとするのですが・・・いきなり本作最大のツッコミどころが出てきました。
直接火山に降りて起動しなくても、船から撃ち込めばいいじゃん!
スポックは論理性を重んじているのですが、これはあまりにも論理的じゃないです(笑)
そしてカークは原住民から見られるという禁忌を侵してまでスポックを救い、日誌をごまかします。
でもスポックは規律を守るので上司のパイクにチクっちゃうのでした。
まるで教室のツボでも割っちゃってごまかす子どもと、それを目撃した真面目な優等生のような関係ですね。
そしてカークはパイクから「私なら最初から部下を危険にさらさない」「お前は未熟だ」と咎められます。
この自分を省みないカークの性格は、重要な意味を持つになります。
テロ、そしてパイク提督の死
ハリソンは、病気の娘を救おうとする父親に、自分の「血液」を提供することと引き換えに自爆テロをさせます。
ちょっと気になったのは、この娘が助かった描写がなかったことですね。
終盤の展開を思えば助かったのでしょうが・・・エンドロールでも見せてくれると嬉しかったですね。
そして、ハリソンが起こしたテロの本当の目的は「会議室にお偉いさんを集めて攻撃する」ということでした。
これによりパイクは死に、スポックがそれを看取りました。
パイクは前作でカークをスカウトし、今回でも厳しいもの言いをするも、まるで自分の息子のようにカークを思いやっていた人物です。
友人であり師匠でもあるパイクを殺したハリソンに、カークがとてつもない「怒り」を抱いたことも、作品では大きな意味を持つようになります。
投降するハリソン
ハリソンを追って、カークたちは地球人と敵対するクリンゴン人の住む惑星「クロノス」を目指します。
上司のマーカスには魚雷を使ってハリソンの殺害を命じられていましたが、カークはクルーたちに目的を告げる前に一度スポックのほうを見ます。
そして「ハリソンを逮捕して、裁判にかける」ことを宣言します。
スポックのチクりには難を示し、ハリソンに憎悪を抱いているカークが、このときは規律と倫理を重んじました。
しかし、クリンゴン人を襲撃したあとにあっさりと降伏したハリソンを、カークは何度も、何度も殴りました。
カークはもともと行動派で、その行動には論理性を欠いています。
ここでも、自分の感情に従い行動してしまったのです。
ハリソンの目的と正体
あっさり降伏したハリソンでしたが、黒幕は別にいました。
それは「マーカス」。カークたちの上司であり、戦争を引き起こそうとしていたのです。
ハリソンは遺伝子操作で超人として作り替えられ、さらに犯罪者にされていました。
エンタープライズ号に乗せられていた魚雷の中にいたのは、ハリソンの部下でした。部下を救うために、そこに隠していたのです。
ハリソンは「部下は私の家族と同等だ、家族のためならどんなことでもするだろう」と涙を浮かべながら言います。
彼の目的はマーカスへの復讐であり、部下を取り戻すことでもあったのです。
*以下の意見をいただきました
> ハリソン=カーンはマーカス提督によって遺伝子操作をされたのではなく、遺伝子操作が発達した20世紀後半(オリジナルのスタートレックが製作されたのは1960年代ですので・・・)に超人として生み出された存在です。
> 優性人類と呼ばれる彼らが人類を支配しようとして世界大戦を起こした挙げ句、宇宙へと追放されたというのがスタートレック世界の基本設定です。
> リブート版では設定が変わっている可能性もありますが、変わった時間軸はカークやスポックの誕生あたりからの筈ですので、過去の世界観そのものは変わってないと思われます。
そしてハリソンは自分の本名をつぶやきます。
「私の名前は『カーン』だ」と・・・
「カーン」は旧スター・トレックシリーズに登場した独裁を望む悪役の名前なのです。
かつての敵と共闘
マーカスはエンタープライズ号にいた娘を自身の船にワープさせ、「部下を見逃してください」と懇願するカークに意を返さず、攻撃を仕掛けようとします。
「すまない」とクルーに言うカークでしたが・・・突如マーカスの船は動作を停止します。
実は、カークが解雇した技術者「スコッティ」が事前に船に乗り込んでいたのです。
ここからアツかったのは、カークがカーンとともにマーカスの船へ乗り込むという展開でした。
「かつての敵が共通の目的のために味方になる」のです。
しかしそれには宇宙空間をダイブし、ほんの小さな扉に向かって行かなければいけません。
カークは「以前にも垂直に降りたことがある」と言っていました。確かに前作にそんな無茶な展開があったよなあ・・・
その後はスコッティは敵の部下に見つかりますが、カークとカーンが降り立つ寸前ですかさず扉を開きます。
すごく長い距離を滑っていくカークとカーンが可笑しかったですね。
その後にカークは「利用されている」ことに気づき、スコッティはカーンを銃で撃って気絶させたりします。
カーンの悪としてのカリスマ性が急落中ですが、この先もまた株が落ちることになります(笑)
老いたスポック、そしてすごすぎる医者
スポックは「老いたスポック」と通信を取り話をします。
この老人のスポックは、前作でも登場した「未来を知る人物」です。
そして老スポックは、カーンがエンタープライズ号の最大の脅威になること、そして倒すために大きな犠牲を払ったことを口にします。
カーンは気絶からすぐに復活し、マーカスの頭を両手で潰して殺し、カークとスコッティとマーカスの娘をエンタープライズ号に戻します。
形勢が逆転し、カーンはエンタープライズ号に攻撃をします。
満身創痍になるエンタープライズ号の反撃の手段は「魚雷を爆発させる」ことでした。
中にいるカーンの部下も死んだ?と思わせましたが、実はボーンズ医師が72機ぶんの魚雷に入っていた人を全て外に出していたのでした。早すぎだろ!
エンタープライズ号の復活、そして・・・
重力制御装置が壊れ、宇宙船内は地上や天井が忙しく変わるようになります。
若き技術者の「チェコフ」が落ちかけているカークとスコッティを引っ張り上げてくれるのが嬉しかったですね。ていうかそんなに腕力あるのかよ!
そしてカークは、ズレてしまった「コア」を再始動させるために、スコッティを気絶させ単身放射能が渦巻く部屋の中に入ります。
カークが何度も蹴ることでコアを元に戻し、エンタープライズ号は無事に大気圏を突破し、再び飛ぶことができましたが・・・カークは被爆をしてしまいます。
浄化が済んでいない部屋にまだいるカーク、それを扉の外から見るスポック・・・
カークが意識を失うと、スポックは「カーン!」と声を荒げました。
スポックもまた、カークと同じく愛する者を失い、カーンを憎むものになってしまったのです。
*倒れる前のカークはスポックに「お前でもそうしただろう?」と言っていました。
過去の『スター・トレック』シリーズでは、スポックの方がカークのようにコアを治すため放射能を浴びてしまうシーンがあったそうです。
スポック
スポックは論理・倫理で行動する厳格な男でしたが、決して感情がない男ではありません。
中盤に恋人のウフーラにそのことを指摘されますが、スポックは「故郷の星が滅んだとき」の話を引き合いに出し「二度とあのような感情を持ちたくない」と言います。
しかし序盤にパイクの死を看取り、そして親友が被爆して倒れたのを見て、スポックはかつての二度と体験したくなかった感情をあらわにしました。
スポックは走って逃げるカーンを追いかけます。
赤い貨物機に乗ったカーンとスポックは肉弾戦を繰り広げ、スポックは何度も、何度もカーンを殴りつけます。
中盤にカークがそうしたように・・・
スポックはカークと全く正反対の男に思えますが、実は似たところも持っているのです。
余談ですが、本作のスポックの2大萌えポイントは
・マーカスの娘が新たな乗組員になるのを見て「私がいるから必要ない」とカークに言う
・船でギリギリその隙間を通り抜けて「抜けたろ!」と言うカークし対して「厳密には違います」と主張する
シーンです。
カーク
カークはスポックとカーンのバトル終了後、カーンの血液のおかげであっさり復活しました(笑)
まあ死んでいないのは丸分かりでしたが、あれほど涙を流した別れ方をしたあとだとズッコケそうになります。
放射能をそんな輸血だけで解決できていいのかなあ・・・
カークは未熟で、自分を省みないところもありました。
一方で、序盤にスポックを助けることを何よりも優先し、エンタープライズ号を飛び上がらせるために被爆することを厭わずに行動します。
カークは、クルーの命を何よりも大切に思っている、船長たる資質を持つ男でした。
そしてカークを救ったのはスポックでもあります。
スポックはカークに「殺さずに逮捕する」ことを提言し、そして憎き相手を殺さずに済んだのです。
カーン
カーンもまた、自分の部下を救うことを何よりも望むという、カークと似たところを持っています。
カークと違うのは、彼が復讐のために人を殺しているという事実です。
復讐心によって身を滅ぼしたのがカーンであり、復讐心を抑えて戦い抜いたのがカークなのです。
カーンは最後に、部下が入れられたカプセルとともに眠りについていました。
彼はこれから裁判にかけられるかもしれませんし、また悪として復活するのかもしれません。
作品のテーマ
本作で興味深かったのは「悪人を殺さずに裁判にかける」という主張がされていたこと。
「悪人はすべて殺してOK!」なハリウッド映画が多い中、かなり特殊であり、道徳的な内容であると思います。
カークは最後に人々に「愛する者を失っても、復讐するのでは解決にならない」ことを宣言します。
これこそ、本作のテーマでしょう。
映画は「宇宙、そこは最後のフロンティア」というスター・トレックではおなじみのナレーションとともに幕を閉じます。
ここでも本作は、旧スター・トレックシリーズへの敬意を表しているのです。
オススメ↓
映画『STAR TREK INTO DARKNESS スタートレック イントゥ・ダークネス』レビュー
スタートレック イントゥダークネス 町山智浩 – YouTube
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> 男の子心をくすぐるスペース・オペラに非ず
それは『キャプテンハーロック』に取っておけ、ということですね先生。
> 友情を通り越してやおい臭がするくらい
それもハーロック(というか松本零士ワールド)のほうが上だろうなぁ…。(^^;;;
(そして冬の祭典ではハーロックの薄い本が出まわるんだろうなぁw)
ちなみに、旧作(というかパラレルワールド?)のスタートレックだと、同じような展開でスポックがコアを治すために被爆して亡くなってしまっているんですよね。「お前でもそうしただろう?」という言葉にはニヤリとしてしまいます。
最近、アメリカ映画を見る機会が多く、見れば見るほど、彼らの行動の独善性が気になってきました。
初めの方の、カーターの行動を見て、今のアメリカをたとえているのか?と感じました。
カーターは、「未熟だと」指摘されてます。
そんなこんなで、あのクラッシュするシーンでは、9-11を思い出しました。
それにしても,SETが凄い割には、ギャグ?に近い話がいっぱい詰まってましたね。
60年代の壊れたTVじゃあるまいし、蹴っ飛ばしたら・・
宇宙空間の移動がダイビング?
ワープの最中に、攻撃ができる?
アメリカのシリーズ物は、惜しげもなく使えそうなキャラクターを殺しますね。
それと同時に、次のキャラクターの登場!
グランド・デザインがしっかりしているんでしょうね。
スタートレック イン・トゥ・ダークネス
3Dで見るか否か。それが問題だ。
スタートレック イン・トゥ・ダークネス
(2013年 アメリカ映画)80/100点
さすがは、スピルバーグの後継とも
>ハリソンは遺伝子操作で超人として作り替えられ、さらに犯罪者にされていました。
ハリソン=カーンはマーカス提督によって遺伝子操作をされたのではなく、遺伝子操作が発達した20世紀後半(オリジナルのスタートレックが製作されたのは1960年代ですので・・・)に超人として生み出された存在です。
優性人類と呼ばれる彼らが人類を支配しようとして世界大戦を起こした挙げ句、宇宙へと追放されたというのがスタートレック世界の基本設定です。
リブート版では設定が変わっている可能性もありますが、変わった時間軸はカークやスポックの誕生あたりからの筈ですので、過去の世界観そのものは変わってないと思われます。
> ハリソン=カーンはマーカス提督によって遺伝子操作をされたのではなく、遺伝子操作が発達した20世紀後半(オリジナルのスタートレックが製作されたのは1960年代ですので・・・)に超人として生み出された存在です。
> 優性人類と呼ばれる彼らが人類を支配しようとして世界大戦を起こした挙げ句、宇宙へと追放されたというのがスタートレック世界の基本設定です。
> リブート版では設定が変わっている可能性もありますが、変わった時間軸はカークやスポックの誕生あたりからの筈ですので、過去の世界観そのものは変わってないと思われます。
最近コメント全然返していなくてごめんなさい、しかしこうした自分の勘違いや、参考になる情報は追記していきたいのでよろしくです。
本当にありがとうございます。コメントは読んでいますよ。
面白かった。ボーンズが秀逸。
次回作はやっと地球圏を出て未知なる宇宙の話になりそうですな。エンディングでもアレが流れたし。
「人類最大の弱点は、愛だ。」このコピー考えたやつは本編見てないでしょ。
カーンも愛のない冷徹な殺人マシーンと思ったら、仲間思いのテロリストでした。
コピーにつながるはなしは全く感じられなかった。
まず、最初に言いたい。
ハリソン=テロリストではない。
この作品の社会派SFとしてストーリーを要約すると次のようになる。
連邦の対外強硬派の象徴たるマーカスは、連邦が抱える内政問題の象徴たるハリソンを利用して連邦敵対国の象徴たるクリンゴンに戦争をしかけようとするが、連邦の良識ある市民の象徴であるエンターブライズによって阻止される。
ここで連邦をアメリカ、クリンゴンを中東と読み替えればもっとリアルである。
ちなみに上記のように考えればクリンゴンが攻めてこないのは当然である。それが内政干渉にあたるからだ。
しかし、そうはいっても、娯楽映画で政治的メッセージが前面にくるのはまずい。
そこで、製作関係者は、対策を打った。
プロモーションの時点から、再三にわたってハリソン=テロリストと発言したのである。
その結果、ハリソン=テロリストという思い込みでこの作品を観た人は、どこか釈然としなかったに違いない。
ラストシーンはあいまいではあるがテロ容認のようにも見えてしまう。
ほかにも、ハリソンは大きく割をくっている。
優性人類の仲間を取り戻したと思ったハリソンがエンタープライズを抹殺しようとするシーンである。
それまでハリソンに感情移入していた人は、ちょっと唐突に感じたろう。
その感覚は正しい。
実は、ここのシークエンスはスポックがとった作戦の味の悪さに観客が気づかないようにするためにある。
よく考えてほしい。
連邦の同朋がたくさん乗ったヴェンジェンスを、優性人類の同朋を助けたい一心のハリソンを騙して魚雷を起爆するなど、正義の味方がやることだろうか?
結局、このあとのカークとスポックの友情物語を、さわやかに演出するためだけにハリソンを卑劣な男に仕立てたのだといっていいだろう。
ともかく、この作品を観た人がハリソンに何らかの違和感を感じるとしたら、それは自然なことだ。
割の悪い役回りをみんなから押し付けられているのだから。
冬眠カプセルの中で安らか眠るハリソンの顔がうつるラストカット。
あれは、製作スタッフからのせめてものねぎらいだと
私は心から信じたい。
>そしてスポックは噴火直前の火山に降り立ち、「スーパー・アイスキューブ」を作動しようとするのです>>
>が・・・いきなり本作最大のツッコミどころが出てきました。
>直接火山に降りて起動しなくても、船から撃ち込めばいいじゃん!
*
スポックが火口に降り立ち、「スーパー・アイスキューブ」を現場に合わせて微調整しているらしい場面があります。
どうやら、ただ命中させるだけでは効果を発揮できないようです。
これが製作側の答えでしょう。
[…] ※前作のレビュー↓ 復讐の是非 「スター・トレック イントゥ・ダークネス」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー […]